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真犯人はマイナス実質金利なのか?

為替相場は7月のドル安一辺倒とも言える相場つきが小康を得ていますが、やはり主要通貨では円とユーロが強含みがちで、これに何とかドルが抵抗するという構図が続いています。また、金価格の上昇も続いており、7月の相場から大きくテーマが変わった印象はありません。ドル安と金価格上昇が併存する現状を捉えて「ドルの信認」、もしくは、より視野を拡げて「法定通貨の信認」に疑義を投げかける論調まで浮上しています:

過去のnoteでも議論しましたが、筆者はこうした見方は「間違いではないが、後付けの方便」と考えています:

例えば、最近最も耳目を集める金価格上昇の理由としては①新型コロナウイルス終息を巡る不透明感、そのショックに対して行われた拡張財政がもたらした②法定通貨への不信感、そして③金の弱点である「ゼロ金利」がもはや弱点でなくなったことなどが挙げられることが多いのですが、本当でしょうか。

実質金利低下が根源なのか?
上記①~③の理由は全てもっともらしいものですが、粗さも感じます。例えば、金と同時に景気の先行指標である銅や株まで上昇している現状への説明がつかない。①のような漠然とした不安が本当に強いのだとしたら銅や株が買われる筋合いはないはずです。また、現状では債券価格(金利)の上昇(低下)も見られています。法定通貨への不安(②)があるのに債券価格が上昇するのも不可思議です。結局、これらの矛盾を超えて説得力のある解説を見出すのであれば、「運用可能な流動性が期待収益の高そうな(平たく言えばあとから説明がつきそうな)資産に流れているだけの金融(過剰流動性)相場」というのが最も実情に近いと筆者は感じています。


そのような大まかな理解の下、ドル下落・金上昇・株上昇を同時に説明する理由として最も説得力があるとすれば、それは③が一番近いかもしれません。そもそも金融相場を可能にする過剰流動性は金融緩和のアクセルを深く踏み込んだ末に名目金利が消滅したことの結果です。やはり法定通貨の世界における金利がかつてないほど失われていることは無視すべきではないでしょう。より踏み込んで言えば、米国に関して名目金利からインフレ率を差し引いた実質金利が歴史的な低水準で推移していることが今の金融市場で起きている現象の起源ではないかとの見方は興味深いです。以下の記事でもそのような論点に言及があります:


以下の図は米10年金利から消費者物価指数(CPI、総合、前年比)を引いて算出した実質10年金利とNYダウ平均株価および金価格の推移を見たものです:

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実質10年金利は2016年以降、恒常的に1%を割り込むようになり、過去1年に限れば0.5%未満で推移しています。2019年はFRBが3回の利下げを敢行した年であり、これに応じて米金利は名目・実質の双方で低下軌道を辿りました。この際、株価が押し上げられたことは注目されたが、実は金価格も上昇していました。ですが、現在のような記録的高値ではなかったため、さほど耳目を集めなかったのです。しかし、米金利低下は確実に金価格を押し上げているように見受けられます。

実質金利低下が根源なのか
ちなみに、米10年金利と実績ベースのCPIを使った実質10年金利は今のところ辛うじてプラス圏(6月時点で+0.01%)を維持していますが、この際、4月以降のCPIは原油価格急落により1%以下で推移しており、それ自体が異例の動きにあることを理解しておく必要はあるでしょう。もちろん、名目金利はFRBの怒涛の利下げによって水準が切り下がりましたが、CPIも原油価格の急落で落ち込んでいます。名目金利、物価の双方が幅を伴って落ち込んだからこそ、実質金利が横ばいで済んでいるという理解は持っておきたいポイントです。ちなみに、コロナショック直前である今年1~3月期のCPIは平均で前年比+2.1%でした。2019年通年でも+1.8%です。今後、経済が緩やかに復調していくという大方のシナリオが実現すれば実質金利はマイナス圏で常態化するでしょう。

そこで市場期待を映じるブレイクイーブンインフレ率(BEI)10年を用いて、米国の実質10年金利の推移を日次で見たものが図です:

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既に期待ベースの世界で市場は「長期金利が実質でマイナスの時代」を前提にしていることが分かります。金も銅も株も債券も、あらゆる資産価格が世界の資本コストである米金利がゼロ以下で定着する時代を前提にしているのであれば、「目を瞑って買ってしまえ」という判断になるのも無理はないのかもしれません。

今、金融市場で起きている経験の無い事象を細大漏らさず綺麗に説明しようとするのは非常に難しいですが、米国の長期金利が実質ベースでマイナスに定着している事実に起源を求めようとする仮説は相応に説得力があるように思えます。


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