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「生成AI最適化」がネット広告の次の主戦場だ

1990年代、インターネットが社会に普及しはじめたころの「ネットの玄関口」はヤフーなどのポータルサイトでした。そのころは検索エンジンの性能も低かったため、さまざまなウェブサイトが「科学」「社会」「芸能」「スポーツ」などのジャンル別に書棚のように収められているヤフーのディレクトリから、目的とするサイトを探して訪問していたのです。

これを変えたのは、高性能なグーグルの検索エンジン。2000年代に入ると検索エンジンが「ネットの玄関口」になり、ポータルサイトから目的地を探すのではなく、検索ウィンドウに目的地のワードを入力して検索結果から訪問するというのが当たり前になりました。グーグルの黄金時代の始まりです。

2010年代後半ぐらいになってくると、ふたたび様相が変わりはじめます。グーグル検索と検索エンジン最適化(SEO)とのイタチごっこの長い闘いの末に検索がじりじりと敗退していき、どんなワードで検索しても検索結果のトップには「まとめサイト」ばかりが表示されるという事態に陥り、「ネットの玄関口」がTwitterやInstagramなどSNSでの検索やハッシュタグに移行していくという流れが生まれました。

そして2020年代になって、新たな可能性が浮上してきました。それがChatGPTのような生成AIの登場です。自然な文章で問えば、自然な文章で何にでも答えてくれる。われわれがインターネットでなにかを調べたり、なにかの操作をしようとしたら、まず生成AIに命令を出すというのが当たり前になっていくということになってきそうです。

たとえば質問回答サイトのQuoraは「Poe」というAIチャットボットの開発に力を入れています。人間がこたえる質問回答サイトとAIがなぜ組み合わさるのでしょう。AIに回答させるということではありません。Quoraは、AIチャットボットを質問回答データベースのUIとして活用しようとしているのです。つまり質問回答サイトから必要な情報をユーザーが「検索」するのではなく、ユーザーがAIに自然文で質問し、AIが的確な回答をQuoraのデータベースを学習して答えるということ。

このように「ネットの玄関口」が生成AIに代替されていくと、最も窮地に立たされるのはグーグル。同社は長年にわたって検索エンジン広告をおもな収益源としてきたわけですが、これが生成AIに代替されると見事に「カニバってしまう」のです。当然のごとくグーグルは非常な危機感を抱いていて、生成AI分野でOpenAIに遅れをとったのもこれが原因だとされています。

とはいえグーグルとしてもOpenAIとマイクロソフトの連合の躍進に手をこまねいてるわけではなく、昨年から生成AIに本腰を入れ始めました。独自の生成AI「Gemini」を発表しただけでなく、生成AIに検索広告をジョイントさせるSGE(Search Generative Experience)というモデルも呈示しています。これに合わせて組織の再編も進めようとしているようです。

これは生成AIの回答に、検索エンジン広告やショッピング広告を組み込むという仕組み。これが果たしてうまく機能するかどうかはまだ未知数です。グーグル以外のどこかの企業が、生成AIと広告を連携させる斬新なモデルを発明するかもしれません。歴史を振り返れば、そもそも検索エンジンと広告を組み合わせるというアイデアを生み出したのはグーグルではなくオーバーチュア(その後ヤフーが買収)という企業で、グーグルがビジネスモデルを真似たのは有名な話です。

あるいは現在の検索エンジン最適化(SEO)のように、グーグルのSGEを利用するのではなく、ウェブページのデータを何らかのかたちで改造し、生成AIに呼び出されやすくなるような仕掛けというアイデアも、ひょっとしたら今後出てくるかもしれません。

いずれにしても、ネット広告の主戦場が生成AIを舞台にしたものに移行していくというのは、歴史の必然として間違いないのではないかと考えます。

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