中田英寿さんと話してみたら、アスリートとしてのみならず、マーケターとしても超一流だった話
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中田英寿さんと話してみたら、アスリートとしてのみならず、マーケターとしても超一流だった話

先日、ひょんなことから、元サッカー日本代表の中田英寿さんとお話をする機会に恵まれました。

中田さんは現在、ご自身で設立されたJAPAN CRAFT SAKE COMPANYの代表取締役として、海外で日本酒のプレゼンスを創り上げておられます。その話にあまりに感銘を受けたので、こうしてnoteにして読者の皆さんに共有しようと思った次第。

中田さんはサッカー選手を引退された後、世界中そして日本中を旅して回ったそうです。そこで日本の伝統産業の可能性に気づき、まずは日本酒の素晴らしさを世界に伝え、市場開拓し、日本酒の作り手に貢献する、というヴィジョン持たれました。

ヴィジョンを達成するためには、まずは日本酒の生産者と関係構築し、ヴィジョンに共鳴してもらう必要があります。そのために中田さんは徹底的に日本酒の勉強をされ、蔵元に通われ、信頼を構築していきます。

その中で彼は、

(1)日本酒は温度変化に弱く、最高のコンディションを保つためには−5℃というコールドチェーンが必要である

(2)海外における日本酒の値付けは、プレミアムカテゴリーのシャンパンと競合するには安くなっており、品質イメージをあげ、イメージを改善する必要がある

という気づきを得、(1)と(2)を組み合わせたアイデアとして、

・海外の市場に至るまで−5℃のコールドチェーンを構築し

・それにより最高コンディションの飲用経験提供し

・その経験を通じて品質イメージの向上し

・それによりシャンパンの競合たり得るように再プライシングする

というビジネスプランを構想されます。

中田さんは、それを実行しました。

・・・と一言で言うのは簡単ですが、ちょっと考えれば、実行に当たっては以下のようなハードルが待ち受けているのが容易に想像できます。

(A)日本酒に対する認識がそんなには高くはないマーケットで、物流網が確保できるのか

(B)それができたとして、彼の日本酒を扱うディストリビューターは、日本酒のためにわざわざー5℃の保管環境を準備してくれるのか

(C)それができたとして、彼の日本酒を扱うレストランは、わざわざ保管環境を準備してくれるのか

そんな疑問を持った私は、彼に質問してみました。

「中田さんはサッカー界では押しも押されぬ大スターですが、日本酒や海外の飲食業界でもオーソリティがあるのですか?そうでなければ、こんなことは簡単にはできないと思いますが」

問いに対する彼の答えに、私は痺れました。

「信頼できるパートナーを見つけ、コールドチェーンを作ることや、ー5℃の保管環境を作ってくれない客には売らないことを約束してもらうのです。そのような関係は簡単にはできないので、何度も会うし、インターネット越しのコミュニケーションも濃密に行います。信頼が重要なので、契約書を作らないこともあります。」

「一旦取引が始まったら、それで終わりではなく、僕たちはパートナーとのコミュニケーションは欠かしません。コミュニケーションが最も重要だと考えます。」

*余談ですが、この話を聞いた時、筆者は以前記したこのnoteを思い出しました。


かくして、生産者も商品が高値で売れ、海外の消費者もかつてない味わいの日本酒を楽しむことができ、そしてバリューチェーン上の各プレイヤーも新しいビジネスを享受する、まさに三方得なビジネスモデルが中田さんにより作られたという次第。

以上のエピソードをひとしきり聞いて私は大きな感銘を受け、中田さんに問いかけました。「この成功の背後には、日本酒の可能性、値付けの課題、品質とコールドチェーンの関係など、多くの気づきがあり、どれが欠けてもこの結果には至らなかったはず。大局的な構想から、細部のクリティカルパスに至るまで、隈なく気づきを得られたのは、なぜですか?」

この問いに対する答えも最高でした。

「僕は常に、見るものがなぜそうなっているのか、と言う疑問を持つし、物事の前提としてどんなことがあり、そしてその前提は本当に不可避なことなのか、と言う疑問を持ちます。そうした自分への問いかけが気づきの素になるのです。これはサッカーにも共通するマインドセットです。」

さて。

ひとしきり話して、筆者は、中田さんはアスリートとしてのみならず、マーケターとしても超一流であると感じました。以下にそのポイントを記します。

(1)先入観を持たずに観察し、そこから機会点を見出すスタンス

ビジネスのとっかかりを探すために、マーケターは市場調査をしますが、この中にエスノグラフィという手法があります。これは消費者の行動や生活を先入観なく観察し、その行動の背後にある内在論理を可視化し、商品開発や商品のリポジショニングのアイデアを手繰るものです。定型的な質問からは得られない深い洞察を得られる代わりに、観察者は忍耐強く、消費者の一つひとつの振る舞いを「なぜだろう」と疑問を持ちながら観察しなければなりません。そして先入観のない観察と、行動を説明する仮説構築を繰り返すのです。

中田さんが、世界で、そして日本で行ってきた自分への問いかけは、まさにエスノグラフィの実践であると思います。

(2)シャンパンを参照点として、日本酒をリポジションした戦略

突き詰めて考えずに「海外での日本酒プレゼンス強化」を考えると、独立した日本酒というカテゴリーイメージを確立し、その中で高価なものから廉価なものまでを取り揃え、面的な展開をしたくなるのではないでしょうか?

しかし、この手法では、すでに日本酒に関心を持っている顧客しか商品を手に取ってくれることはありません。そして日本酒がマジョリティとは言えないであろうと思われる海外市場では、顧客の関心の高さにあまり期待が持てないと思われます。

他方、具体的に何と比較される商品なのか、と言う軸を明確に立てれば、比較対象商品が選択の対象になっているときは同時に候補に上がることができますし、比較対象商品が持っている属性やイメージを自社商品に纏うこともできます。

その点、高級イメージやハレの日イメージが強いシャンパンと比べられ、その飲用シーンでの利用が連想されると言うのは、ブランド構築にうってつけです。有り体に言えば、シャンパンのカテゴリーイメージをレバレッジして、日本酒のイメージを構築することができる、と言う訳。

これはポジショニングの重要性や、何かを選択するときは、必ず参照点と比較する人間本来の性質をきちんと押さえた、とても賢い戦略だと考えます。

(3)そのリポジションニングを商品だけでなく、ビジネスプロセス全体で実践していること

中田さんの戦略を実行するためには、商品のスペックだけではなく、ビジネスプロセス全体のアライメント、すなわちコールドチェーンの確立など工数や投資がかかることを全て達成することが必要です。これは他社から見れば大きな参入障壁となり、模倣可能性を大きく減じています。

最後にもう一つ中田さんのエピソードを記します。

話をする中で、この模倣可能性を大きく減じていて非常に戦略的だ、と言う点を筆者が指摘すると、彼はこう言いました。

「他者に真似されるのは喜ばしいことだと考えています。だってそれは自分たちがやっていることが正しいことの証拠だから。でも、僕らがやっていることは簡単には真似できないと思いますし、誰かが真似できたとしても、そのときは僕らは先を走っています」

中田さんは、日本酒の次は、緑茶など、第二第三の伝統産業を海外に広めることを考えておられるようです。中田さんの動向から目が離せません。


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9つの事業会社でマーケティングやってきました。うち、西友、ドミノ・ピザなど4社でCMO。現在は株式会社Preferred Networksの執行役員CMO、イトーヨーカ堂・セルム顧問、日経XTrendアドバイザリーボード、厚生労働省年金局広報検討委員、内閣政府広報アドバイザー等。