女性活躍推進に、企業規模や事業内容は関係ない
女性活躍推進は、今最も深刻な政策課題であり、経営課題でもある。それにもかかわらず、中小企業はおろか大企業であっても、その解決の糸口はなかなか見つけることが難しい。政府は、20年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にする目標を打ち出しているが、現状の課長以上の女性管理職比率は10%にも満たない。
このような問題を前にして、ベンチマークとなる国の1つとしてフランスがある。フランスは、2015年の時点で女性管理職比率が31.7%である上に、特に女性役員の比率が他の欧米諸国と比べても高い(34.4%)特色を持つ。しかも、2011年の時点での女性役員比率は18.2%だったのだから、たったの4年間で急成長している。この急成長には、クオータ制(法律で企業に男女同数幹部を義務づける制度)とコペ・ジンメーマン法(企業の取締役会のメンバーを2014年までに20%、2017年までに40%女性とすることを義務づける法律)という2つの法律による影響が大きいのだが、企業独自の取り組みにも目覚ましいものがあった。
その筆頭となる企業の1つが、ENGIEである。ENGIEは日本ではあまり知名度がない企業であるが、フランスを代表する電気およびガス事業者である。総売り上げが約9兆円なので、日立製作所やソフトバンクグループと同程度の売上規模を持つグローバル企業だ。ENGIEは、女性活躍推進を実行するために、法律で定められた目標よりも早く、かつ厳しい目標を自分たちに課している。取締役会のメンバーの半数を女性にするというのだ。そのために、既存の取締役会のメンバーがメンターとなって、自ら後継者候補となる女性社員を選抜し、育成を行っている。また、女性のキャリアアップを支援するための施策を矢継ぎ早に打ち出していた。
2年前に筆者がENGIEの本社を訪問した際に、そのような急激な変化、特に女性優遇ともとれる取り組みをどうして進められたのか、男性社員から不平不満の声がなかったのか、人事部のマネジャー(応対いただいた方も女性だった)に聞いたことがある。すると彼女は、「ENGIEは、企業なので経営目標を達成して利益を上げることも重要ですが、それと同じくらい大切なものとして社会をより良いものに変えていくというミッションがあります。女性が働きやすい組織を作り上げることも、社会を良くしていくという会社のミッションの1つです。そのため、女性の役員の人数を引き上げるために優遇することを良しとしなくては、どうやって社会を良くしていけるというのですか?」と、さも当たり前のことのように答えた。目標を達成するために、何にやるべきで、何を切り捨てるのか、選択と集中がしっかりとなされているのだ。
そもそも、フランスであってもENGIEのようなエネルギー会社は女性にとって人気のある企業ではない。ENGIEの従業員のうち、女性従業員は25%にも満たない。それでも、ENGIEは経営陣の半数が女性となっている。次のステップとして、ENGIEは ① 25%の女性従業員比率、② 新卒採用の女性比率30%、③ 経営幹部候補の選抜者の女性比率35%という3点を2020年までの目標としている。
ENGIEのような取り組みは、なにも欧州だからできたことでもなければ、大企業だからできたことでもない。実は、日本にもENGIEと同様に女性活躍を推し進めている地方の中小企業も存在する。
大分県の土木測量会社であるコイシは、約60名の従業員のうち約半数が女性である。代表取締役の小原文男氏が陣頭指揮を執り、女性が働きやすいようにテレワークや勤務時間のフレックス化などの職場つくりを行っている。また、働きたいけど働けない主婦層を対象に、3D CAD講座を開催し、実際に業務に携わってもらうことで、土木で求められる人材・即戦力となる人材を育成している。このように、コイシで活躍している女性社員は「こいし小町」と呼ばれ、歓迎する風土を作りだし、"Diversity & Inclusion" を成功させている。
女性活躍推進を本当に達成したいのであれば、企業は目標を立て、目標達成のための具体的なストーリーを作り、諸方面へ忖度することを辞めなくてはいけない。女性活躍推進に、事業に対する女性人気、都会か地方か、社会情勢などの外部要因は関係ない。ただ、やるかやらないかを経営陣が意思をもって決めるだけであり、女性活躍推進の担当者は経営者に意思決定させることが最も重要な仕事である。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31498220X00C18A6MM8000/