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働き方改革と「もみほぐしサロン」の接点

 日本のサラリーマンが年間に働く実労働時間数は、25年前には 2,000時間を超えていたが、現在は 1,750時間までに短くなっている。政府はさらに残業時間を削減して労働時間を短くすることを「働き方改革」として掲げているが、この数字にはトリックがある。

昔よりも実労働時間が減少しているのは、パートタイム労働者の割合が高くなっているためで、正社員の労働時間は、昔も今も2,000時間前後で変わっていない。 定時の所定労働時間(1日8時間-休憩時間)は、年間休日を120日とした場合で1,715時間となるため、正社員のサラリーマンは、年間およそ300時間の残業をしていることになる。

年間300時間の残業は、毎日1~2時間の残業をしている計算だが、実際には、それよりも長時間のサービス残業が常態化している会社は多く存在している。顧客へのサービス品質は落とさずに、すべての残業を無くすことは難しいし、これまでのサービス残業代を有給で負担することも、企業にとっては非常に厳しい。

そこで「働き方改革」の中では、正社員、アルバイト・パート、派遣社員になどの他にも、新たな労働力が必要になってくる。それは、従来の雇用契約からは外れた、業務委託社員のような形になるだろう。

委託方式よる「宅配便の軽貨物運送」は一例といえるが、それ以外の職種でも、似たような就労形態は増えていくことが予測できる。特に、専門性の高いサービス業では、人件費の負担が重いことから、業務委託方式の人材を活用することで、事業の成長スピードを高めるビジネスモデルが注目されている。

しかし、就業の形態を「雇用」から「委託」に変えることで起きる弊害も当然ながらある。米国では、企業からの仕事を業務単位で請負う者が「インディペンデントコントラクター(IC:独立請負人)」という位置付けで、専門職の分野では広く採用されているが、請負スタッフとの信頼関係を築くための仕組みは、試行錯誤を重ねながら進化している。

良くも悪くも、これからは「従属的な雇用」から「自立した働き方」へとシフトしていくことになるため、経営者とワーカーが対等な立場で働ける会社が、労使の問題をクリアーして業績を伸ばしていくことになる。その仕組みとして、リラクゼーション業界に広がる「もみほぐしサロン」の労使関係は特徴的なものである。

【もみほぐしサロンの仕組みと収益モデル】

 日本国内では、癒やしブームの追い風を受けて、低料金で簡易マッサージが受けられるサロンが全国に急増した。正式なマッサージは「あん摩マッサージ指圧師」の国家資格を保有している者でなくては行えないため、それ以外の施術者が行うものは「もみほぐし」と呼ぶことが多い。

もみほぐしサービスの出始めは、「10分あたり1000円」が業界の相場だったが、参入業者が増えたことで競争が激しくなり、最近は「60分 2,980円」の激安価格をウリにする業者が増えている。

この料金設定を可能にしているのが、もみほぐしの施術者(セラピスト)を業務委託方式で採用していることである。店舗に待機しているだけでは固定給や時給は発生せずに、施術をする時間のみ歩合制の報酬が支払われる体系になっている。

大まかに言うと、顧客が支払う料金の60~85%がセラピストの報酬で、残りが店側の取り分になる。具体的な報酬レートは、セラピストの経験年数や固定客の数(指名数)によりステップアップしていくが、施術1回(1時間)の歩合報酬が1,800円で4人の客を担当すれば、1日の実収入は7,200円。1日に7人を担当できれば12,600円になる。

この方式であれば、もみほぐしサロンは、毎月固定の人件費を負担せずに、施術者を増やしていくことができるし、サービス残業問題などもクリアーすることができる。働く者にとっても、自分の都合に合わせてシフトを組みやすく、店舗での待機中も、施術をしていない時間は自由に過ごすことができるため、労使の双方にとってメリットがある。

そのため、業務委託方式の店舗は、一つの成功モデルを確立した後に、全国展開がしやすい特性がある。

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■この記事はJNEWSが2016年に会員向けレポート(JNEWS LETTER)に配信した内容の一部です。そのため記事中にある数字は2016年時点のデータとなります。他の最新記事については、JNEWS 公式サイトをご覧ください。


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