男女賃金格差の開示を、格差是正につなげるには?
最近の日経新聞記事によると、「大卒女性の賃金上昇は、むしろ高卒男性に似ている」という。大学・大学院卒の正社員で、男女の生涯賃金差は、5250万円にのぼる。
既にOECD加盟38カ国の内、9カ国が同一賃金監査制度または賃金格差報告制度で、一定規模以上の企業に賃金格差の実態開示を求めている。岸田政権の掲げる「新しい資本主義」に基づき見直しが進む日本の開示ルールでも、男女賃金格差が焦点の1つになっている。
この開示は、正しく使えば日本企業のいびつなジェンダー構造を是正する起爆剤になるだろう。
そもそも、大学生に占める女性割合が45.6%の日本で、なぜ大きな男女賃金格差が生まれるのか?この答えは、通常、水平分離と垂直分離の枠組みで語られる。
水平分離とは、まず男女で職種に偏りがあること。高給を見込める医師やソフトウェアエンジニアには男性が多く、その一方で、一般に給料の安いサービス業には女性が多い。さらに日本では特有の正規・非正規という二つの待遇レールが分かれ、報酬に大きな差を招く。2020年のデータによると、女性就労者の54.4%が非正規雇用であるのに対し、男性は22.2%である。
さらに、同じ企業の正社員としても男女のキャリアには大きな差が生まれる。これが垂直分離だ。まず、職場に男性が主役、女性は脇役というジェンダーロールが根強く残るため、補佐的な事務職には圧倒的に女性が多い。これには、高学歴の女性も含まれる。さらに、出産を経ると、急に昇進の遅いマミートラックに入ってしまう。
最後に、認知バイアスが拍車をかける。すなわち、女性は出世しなくていいという暗黙の前提から、女性にやりがいのある仕事や背伸びをしたポストが与えられず、これが女性のキャリアポテンシャルを縮めてしまう。
さて、企業ごとに計算される男女賃金格差は、正規社員の時間当たり賃金を対象にするため、垂直分離の度合いを示す。これは、性差によってどれだけ活躍度合いに差が出ているかという如実な1本の数字であり、企業にとって通知表になる。ジェンダー多様性のKPIとして管理職に占める女性の割合が注目されがちだが、男女賃金格差は給与ピラミッドの下部で沈殿する女性の実情をすくい取る分、もっと赤裸々な数字となるだろう。
この数字をどのように行動につなげればいいだろうか? SDGインパクトジャパンCo-CEOの小木曽真理氏は、格差の原因は企業ごとに違うため、原因解析が必要だと話す。横並びで比較できる数字は、ESG投資家や従業員からの厳しい視線を浴びるだろう。メディアでも取り上げやすい。故に、これから就職しようとする大学生にとっても、企業がどれだけジェンダー多様性に前向きかを示す貴重な判断材料となる。
男女賃金格差を正しくデータとして活用するためには、国際標準の計算を使うことが望ましい。実際、男女賃金を既に開示している日本企業があるものの、管理職と一般職に分けてそれぞれの男女平均を計算している場合が多い。日本企業では男女における職階の偏りが根本的な問題であり、職階が同じであれば、賃金に大きな男女差がないため、このデータでは男女格差の全体像が分からないと、小木曽氏は指摘する。
政府は、計算方法を伴った開示義務化を求め、開示しない場合のペナルティを課す。企業は、改善計画と透明性ある追跡で応える。この仕組みが、息切れ感のある日本企業のジェンダー多様性の取り組みに、活を入れることを期待する。
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