世界一のレストランにみる「両利きの経営」
こんにちは、電脳コラムニストの村上です。
「世界のベストレストラン50」では5度首位に。世界中の食通の聖地となったデンマークの「noma」。それまで美食とは無縁とされてきた北欧において、地元文化に根ざしながらもイノベーションを起こして「新北欧料理」を確立した立役者です。
そのnomaが2ヶ月間限定で京都でポップアップレストランを開くということで、美食界隈が騒然としました。オンライン予約開始時には世界中からリクエストが殺到し、2ヶ月分の予約が数分で完売したようです。今回、幸運にもテーブルに潜り込むことができました。詳細な食レポはすでにプロのライターの方々が上げていらっしゃるので、ちょっと別の視点で見ていきたいと思います。
デンマークでもそうであったが、食材探しに膨大なリソースを投入する。今回の京都に向けては2022年末からチームで日本に移り住み、日本全国を丹念にリサーチ。直接生産者を訪れて探し回って集めた素材を大きな部屋いっぱいに並べ、チーム皆で改めて試食する。そして、試作品を組み合わせたりしながら、チームで話し合ってアイデアを出していく。誰もがプロトタイプを試作でき、シェフにピッチすることができる。これらのプロセスは企業であれがR&Dとオープンイノベーションのそれである。具体が気になる方は、ドキュメンタリー映画『ノーマ、世界を変える料理』をおすすめします。
今回のポップアップでは、食材もお酒も日本産のものを使用していました。北欧と日本の共通項として「発酵」があります。その背景にあるのは、冬が長く日照時間が短い風土。北欧で発酵の技が発展してきたのは、冬に備えて食品を保存させるためです。これは日本においても東北や山間部などと共通の点があることに加え、味噌や醤油などの生活に密着した発酵食品もあります。
事実上ノーマ初の支店と言われた、飯田橋の「イヌア」(現在は閉店)。ここでヘッドシェフを務めたトーマス・フレベルさんは長年ノーマに務め、レゼピさんの右腕として活躍した人物。今回のポップアップにも参加していましたが、イヌアではほぼすべての調味料を自作していたことでも注目を集めました。
レストランの裏側にはメインダイニングと同じくらいの広さのラボとキッチンがありました。以前ラボを見学させてもらったことがあるのですが、所狭しと日本各地から集めた食材が並べられ、発酵のための恒温槽も複数稼働しており、まさに「実験室」という佇まいを強烈に記憶しています。
京都のポップアップは先日5月20日でフィナーレを迎えました。今後デンマークの店は一旦閉め、新たな味わいを研究するラボとして再始動するとのこと。商品開発をしてインターネットでの販売も開始し、さっそく日本の旨味をノーマ流に解釈した「Dashi RDX(だしリダクション)」などを発売しています。
近年経営の世界で話題となっているコンセプトに「両利きの経営」があります。既存事業の競争力に磨きをかける「深掘り」と、新たな事業機会を発掘・育成する「探索」を同時に進めることが、企業の持続的成長に寄与するというものです。
誰もが認める世界No.1のレストランとなったnomaも、その地位に甘んずることなく「深化と探索」を続けてきました。そして、海外からのゲストが大半であったnomaにとって、コロナ禍は大きなインパクトだったことでしょう(今回の京都も私がいった日は海外からと思われるゲストが半分以上でした)。その結果、本体のレストランをクローズするという判断をして、新たな形にトランスフォーメーションするわけです。今後も世界各地でポップアップレストランをやっていくのでしょうが、そのこと自体がさらなる知の探索のプロセスとなり、コア・バリューである「独創的なレシピ開発と調理法」を強化していく。私からすれば、両利きの経営の美しいお手本に思えます。
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