雑誌をつくるように、コミュニティをつくる
2024年12月からオシロ社では自社で運営するコミュニティをスタートさせた。第一弾は、「ビジュツヘンシュウブ。」という美術と編集を組み合わせた企画だ。今回の連載では、「ビジュツヘンシュウブ。」が生まれた背景や“コミュニティベースドメディア”としての活動内容について紹介していきたい。
「美術雑誌の編集部」を擬似体験できるコミュニティ
「ビジュツヘンシュウブ。」(通称「ビジュヘン。」)はオシロが自社で運営するコミュニティだ。出版社が雑誌を創刊するように、われわれコミュニティ社がコミュニティを創設する。そんな表現が自然かもしれない。
「ビジュツヘンシュウブ。」の名の通り、美術というテーマを雑誌の編集部を模した世界観で、コミュニティの中でさまざまなアーティストやクリエイターへの取材、内覧会への潜入取材を疑似体験できたり、さらにはコミュニティに入った「部員」起点での発信もできる。
ただコンテンツを読むだけではなく、コンテンツが生まれていくプロセスを体験でき、これまでのメディアではなかなかできなかった多様なアクティビティを通して、編集者の深い視点からアートを知れる機会を提供していくつもりだ。
雑誌に編集長がいるように、コミュニティにも導き手が必要なのだが、今回ビジュヘン。の編集長的なポジションを務めていただいているのが、長年『BRUTUS』(マガジンハウス社)の美術特集を手がけた「フクヘン。」こと鈴木芳雄さんだ。
鈴木さんは「奈良美智、村上隆は世界言語だ!」「杉本博司を知っていますか?」「若冲を見たか?」「緊急特集 井上雄彦」など、現在でも燦然と輝く素晴らしい特集を担当したことで知られている。編集者としての功績もさることながら、日本のアート・美術界に多大な貢献をされた人物だ。現在でも編集者/美術ジャーナリストとして活躍するかたわら、明治学院大学や愛知県立芸術大学の非常勤講師として美術史の教鞭をとる。
その鈴木芳雄さんが世界的なアーティストに取材するプロセスを疑似体験できるだけでなく、コミュニティ内で鈴木さんとコミュニケーションが取れたり、定期開催される「編集会議」で直接ご本人の話を聞くこともできる。人数限定で鈴木さんの取材に同行できるイベントも計画している。日本を代表する著名なアーティストが名を連ねていて、身震いするほど豪華だ。近日中に情報解禁予定、乞うご期待。
2024年12月12日にはコミュニティオープンを記念し、現在東京都庭園美術館で展覧会を開催している、ガラス作家の三嶋りつ惠さんをお招きしたトークイベントを開催した。
イベントは二部構成で、第一部は三嶋さんの作品や現在開催中の展覧会の話を中心に。第二部では鈴木さんが文章の編集・リライトを担当した三嶋さんの寄稿記事について、編集のポイントについてリライト前後の記事を比較しながら解説された。
90分ほどの限られた時間だったものの、アーティストの言葉を引き出す対話のあり方や、魅力を引き出す編集や執筆のヒントなど、鈴木さんの編集者としてのエッセンスが随所に感じられるイベントだった。実際、イベント終了後のアンケートにはたくさんの感想や質問が寄せられた。
ビジュヘン。という新しいメディアがとても素晴らしい場になると確信できるイベントだった。実際、コミュニティがオープンし、編集者として活躍されている方も入部していただいている。本当に学びや視野を広げられるコミュニティになりそうで、ぼく自身がワクワクしてしまっている。
OSIROで実現する「コミュニティをベースとしたメディア」
自社運営型のコミュニティをビジュヘン。でスタートさせたのは、もちろんオシロ社が掲げるミッション「日本を芸術文化大国にする」を実現させるためだ。ただ、上記のようにコミュニティを「美術雑誌の編集部」としているのには、一つの理由がある。
日本の芸術文化を発展させた立役者は誰かといえば、ぼくはその最高峰には出版社があると考えている。
しかし、インターネットという一つの変革によって、すべてが変わってきてしまっている。メディアそのものだけでは売れなくなってしまったのだ。
下記の記事にも名指しで言及されているように、特に雑誌は他ジャンルの書籍と比べると返本率が高いため、物流コストが急騰する現在ではなおさら不利な状況にあるだろう。
一方で、テレビにはTverがあり、ラジオにはradikoがある。そして、出版社もKindleなどの電子書籍や媒体のアプリ化などによって、徐々にインターネットとの融和を図っている。しかし、そういった中でも「雑誌」という存在は、デジタルによる代替が非常に難しい媒体だと思っている。
雑誌の良さは誌面上に配置されたダイナミックな写真や大胆な構成、そして、編集者やデザイナー、ライターの方々がクリエイティビティを終結させ、こだわりにこだわり抜いた「その一冊、その一ページ」でしか生まれない素晴らしい誌面ができることにある。
そういった細部に宿る意匠はインターネットでは代替しきれないものがあると考えている。だからこそ、ぼくは雑誌が大好きだし、雑誌がなくなってしまうことも悲しく感じている。
しかし、現代の流れからいって、紙雑誌の購読数を増やしていくことは難しいだろう。むしろ、これまで雑誌が担ってきた部分を、どのように新しい形としていくべきか。
ただ情報を享受するだけではなく、体験し、そして発信(アウトプット)するまでの「体験価値」を編集していく必要がある。そんな時代になってきているのではないだろうか。「見て/読んで楽しむ」時代から、今度はコンテンツそのものへ参加・体験する方にウエイトが高まってきていることからも、雑誌というメディアも「参加/体験型」に価値転換も図る時期を迎えている。
そういったことからも、今後雑誌のあり方としては、「コンテンツが集約する媒体」という位置付けではなく、参加型の体験価値と共通する価値観の読者同士がつながっていく「熱量の高いファンが集う場」へとシフトをしていくべきという考えだ。これが、ぼくの考える「コミュニティベースド・メディア構想」である。
詳細については、以前書いた下記の連載記事をご覧いただきたい。
しかし、コミュニティベースド・メディアを構築していくためには、OSIROの仕組みはもとより、これまでメディアを編集されてきた方々の力が必要不可欠だ。
だからこそ、自社運営型第一弾のコミュニティは、オシロ社のミッションを体現するテーマとし、美術・編集文脈で素晴らしい知見と実績を持つ鈴木さんにナビゲートをお願いした。
こうしてスタートしたのが、「ビジュツヘンシュウブ。」だ。
自社プロダクトで自らコミュニティを運営する意義
OSIROの開発思想は「人と人が仲良くなる」ことに特化している。もともとのサービスが生まれた経緯をいうと、孤独なアーティストやクリエイターが活動を継続するには点でバラバラの「応援者」が集い、仲良くなり、「応援団」になることが大切だと考えたからだ。そういう状態が作り出せれば、「お金とエール」が永続的に受け取れ、表現活動が持続できる。
継続性を生み出すためには、コミュニティオーナーとメンバーだけでなく、メンバー同士が仲良くなる必要がある。そのため、OSIROは開発当初から「人と人が仲良くなる」機能の実装や仕組みの構築に注力してきた。
こうして、クリエイターやブランドがOSIROを導入し、コミュニティを活性化するソリューションとしてご活用いただいてる。しかし、オシロ社としてはそれに甘んじてはいけないと考えている。なぜならコミュニティを立上げ、運営を継続するための課題はまだまだあるからだ。
コミュニティを立ち上げ、人に集まってもらい、人と人が仲良くなり、そこが居場所になる。これらのプロセスにはどのようなことが起こっているのか。それらをさらに促進、進化していくためにも、自社でコミュニティを立ち上げることで、進化改善サイクルのスピードを上げられると考えた。そのように本気で挑む気概が社内にない限り、オシロ社のミッション「日本を芸術文化大国にする」を成し遂げることはできない。
オシロ社として運営するコミュニティがミッションを体現するだけでなく、自社でコミュニティを運営することで新たな知見を得て、すぐさま知見をサポートで活かすだけじゃなく、プロダクト開発にもフィードバックすることで、現在そして未来のお客さまによりよいコミュニティ創出が支援できる体制を構築する。