見出し画像

コミュニティマネージャーへと"進化"する管理職~「実態に組織をあわせる」これからのマネジメント~

 Potage代表 コミュニティ・アクセラレーターの河原あずです。コミュニティづくりのノウハウを活かし、企業向けの組織開発や人材育成研修のお手伝いもしています。

 何度かCOMEMO向け記事で取り上げてきた「コロナ禍で変化する働き方」に関してですが、最も変化が訪れる職種に「管理職」があります。働き方改革の名のもとにコロナ禍前に変化は進んでいたのですが、リモートワークなどが当たり前になる世の中になることで、更に加速した、という表現がより正確かもしれません。

 コミュニティづくりの専門家である私は、管理職の変化を促す根本は「組織のコミュニティ化の広がり」にあるととらえています。不確実性の高い環境においてビジネスを継続させていくには、旧来型のピラミッド組織ではなく、それぞれの決めたミッションをもとに生まれたチームが自律して動いていく組織形態の方がより柔軟に事業環境の変化に対応できるためです。

世の中の組織のコミュニティ化が進む

 「管理ゼロで成果はあがる」の著者で、50人の社員がフルリモートワークの会社・ソニックガーデンを経営している倉貫義人さんは、コミュニティ型の会社経営を実行する1人です。マネージャーが部下を評価することもなく、ノルマもなく、給与も一律で賞与は山分け、複業もOKという会社ながら、成果を上げ続けています。もちろん、フルリモートワークをコロナ禍前から実践しているので、大きな業務上の変化もないとのことです。

 ソニックガーデンがなぜ、そのような組織形態を実現できているか。それは、組織がコミュニティ化しており、従業員一人一人の自律をうながしながら運営されているためです。

 ソニックガーデンは「プログラマを一生の仕事にする」というビジョンを掲げています。この明快なビジョンに共感する人たちが集まるので、キャリアプランのミスマッチや、カルチャーギャップが起きにくくなっています。

 そしてもちろん「プログラマを一生の仕事にする」ためには、自分たちで仕事をつくって、売上を立てなくてはなりません。そこで従業員一人一人は「ミッション→仕事」を生み出し、ミッションを遂行するためにチームを結成します。

 この「コミュニティといういけすの中でチームが存在する状態」をつくれているから、コミュニティ型の会社の運営はうまくいっているのではないか、と倉貫さんは先日ゲスト出演いただいたイベントで述べていました。

 「会社はビジョンをもって人を集める。そして集まった人たちがミッションを生み出し、遂行のためにチームをつくり、自主性をもって形にしていく。」

 これが倉貫さんの事例を元に導き出される「コミュニティ型の会社」の形態です。後でまた出てくるので、ぜひ覚えておいてください。

 ※なお、下の倉貫さんの記事では、チームとコミュニティのちがいをソニックガーデンの事例から考察していて、非常に参考になります。

企業の理想の人材像が浮かびあがらせる未来の組織像

 このようなコミュニティ型の会社運営は特殊に見えるかもしれませんが、今後ますます広がっていくのではないかと私は考えています。

 人事部の方々と仕事をしていて、どのような社員を育てたいかと伺ったとき、ほぼ例外なくみなさんが一様におっしゃるのは「自律して動ける人材」というキーワードです。

 リモートワーク環境になり、同じ場所で分業をしながらプロジェクトを進めることが困難になった今、自律して動ける人材、すなわち「今組織にとって最善の行動は何かを自分で考えて行動に移せる人材」の必要性はますます増しているのです。外部環境が激変し、既存事業が力を失いつつある中で、新規事業を立ち上げなくてはならない組織にとってはなおのこと、「指示を待つのではなく、自分で考えて動ける人材」が組織変革にとって重要だと認識されています。

 しかし、旧来型のピラミッド組織は、自律性をうながす組織運営とは真逆で、仕事を細かく切り分け、一人一人に分け与え、その進捗を管理することで成立しています。指揮系統も強いことが望まれていますし、平たく言うと、部下が勝手なことをやっては困るという考えを元にした「性悪説」の運営形態です。

 「自律型人材の必要性は明白に増している。しかし、管理形態は、ピラミッド組織を維持する。」この矛盾した状態が続くと、現場の人材とマネジメントとの衝突が起きることは自明です。

 その衝突を解消するために、多くの会社が動くでしょう。具体的には、現場の自律性を促進するために、目的別に1つ1つの小規模のチームをつくり、チームのメンバーに裁量をゆだねる形に移行していくのではないでしょうか。

 「会社はビジョンをもって人を集める。そして集まった人たちがミッションを生み出し、遂行のためにチームをつくり、自主性をもって形にしていく。」

 すべての会社がそうなるとは言いませんが、より多くの会社がこのような「コミュニティ型組織」へと移行していくと私は考えています。

 大企業の中にも、リモートワークを推奨し、ジョブ型の雇用形態に移行する会社が増えていることは、その証明と言えます。ジョブ型の根本的な考え方は「自分で仕事(ミッション)を宣言し、会社と契約する。ミッションに適合するチームに属し、労働形態はより柔軟性を与えられる」というものです。この考え方を推し進める会社には、会社のビジョンに共感をし、ビジョンに照らしたミッションを宣言し、自律して動ける人材が残っていくことになるでしょう。そしてこの組織を的確に回していくには、それぞれの宣言したミッションを基礎として運営していく必要が出てきます。このようにして、ジョブ型雇用が呼び水になって、現場の自律性をさらに促すためにピラミッド組織が解体され、組織のコミュニティ化が加速していくのです。

必要なのは「実態を組織にあわせる」マネージャー

 では「コミュニティ型の組織」において、必要なマネジメントとしての資質は何でしょうか。こちらも、イベントで聞いたソニックガーデンの倉貫さんのお話にヒントがありました。彼は、自身の経営者としての仕事について、次のように述べていました。

 「みんなの実態にあわせて組織をちょっとずつ変えていくこと」

 たとえば「AということをやっているチームのメンバーがいつのまにBという動きをほかの人と始めることがある。そうすると三か月前に決めたチーム編成と実態がずれて気持ち悪くなる。だから、実態にあわせてBをやるチームという風に変える。実態に組織をあわせる」という塩梅です。

 そして、自分では「なんでBをやっているのだろう?」と疑問に思って、不安になっても、「君のミッションはAだからAをやりなさい」というのではなく、Bをやらせるためのチーム編成に変えるというのです。場合によっては、新しい制度を、人の動きにあわせてつくることもあるとのこと。ソニックガーデンが早々に取り入れて,、今では先駆者の称号を得ているフルリモートワークも、実はもともとは一部社員の例外的な動きを公認するために制度化されたのがきっかけだったそうです。

 要するに倉貫さんがやっていることは「それまで起きていなかった例外的な動きが社内で発生した際にそれを止めず、続いていくように、最適化する」という行動です。社員の自律的行動が続いていくように、状況を整えて、あとはただ各チームの動きを見守っているわけです。

今後、管理職はコミュニティマネージャー化する

 倉貫さんの言葉を解釈すると、コミュニティ型の会社のマネージャーの仕事は「メンバーの自律的行動が続くように状況をなんとか整えていくこと」ということになります。

 従来のピラミッド型組織は、組織にとっての例外行動をとる社員の行動を、組織の方針にあわせて矯正することで成立していましたが、それでは社員の自律的行動は促せません。むしろ、例外行動を許容する文化をつくり、それを下支えする制度をつくること、そして、メンバーの動きの実態にあわせて、編成をチューニングしていくことが大事なのです。

 このマネジメントのありかたは、日本の会社員のみなさまが思い浮かべる管理職の概念とはだいぶ異なるでしょう。むしろ「管理職」よりもありかたとして近しいのは「コミュニティマネージャー」です。

 共著書の『ファンをはぐくみ事業を成長させる「コミュニティ」づくりの教科書』にも書きましたが、コミュニティマネージャーの仕事は大きく分けて以下の2つです。

 ①ビジョンを掲げて、コミュニティを運営する 
 ②コミュニティの文化を生み出し、維持する


 倉貫さんの例にあてはめると、しっかりと対応していることがわかります。

 ①ビジョンを掲げて、コミュニティを運営する

「プログラマを一生の仕事にする」というビジョンを掲げて、それに共感する人を集めること。そして、それを外にも広めていくこと。

 ②コミュニティの文化を生み出し、維持する

 プログラマたちが新しい仕事を生み出し続けられる環境を整える。一人一人のメンバーとのコミュニケーションをしっかりとり、状況を把握する。実態と組織形態にずれがうまれたら、実態にあわせる。

 つけくわえると、コミュニティマネージャーにとってもっとも重要な資質のひとつが「イレギュラーにおきるコミュニティにおける課題を"なんとかする"力」です。

 そもそもManageの意味を英和辞典で調べると真っ先にでてくるのは「どうにかする」「なんとかする」「うまくやる」という意味です。決して「管理する」という意味が先にきていないのです。

 組織のマネージャーの役割は、現場が自律的に動けるように「なんとかする」こと。一見新しく、しかし語源通りの定義が、今この時代だからこそ、必要なのかもしれません。

 いずれにしても、管理職がルールや組織にあわせて人をしばる人から、コミュニティマネージャーへと変わっていく。これは間違いなく、時代の変化にあわせた進化です。自律的な働き方への変化が進む中で、人の動きを中心にしたチーム運営へと、舵を切ってみてはいかがでしょうか。

※こちらは本文で触れた倉貫さんの著書です。コミュニティ型組織運営の具体的な実践法が網羅されています。

※コミュニティづくりのノウハウはあらゆる組織づくりにも応用可能です。こちらもよろしければぜひお手にとってみてください。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?