多拠点テレワークを推進すべき3つの理由【富士通 x 大分】
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多拠点テレワークを推進すべき3つの理由【富士通 x 大分】

碇 邦生(大分大学/合同会社ATDI)

東京と地方の多拠点テレワークは定着するか?

日本におけるテレワークは、お世辞にも浸透しているとは言えない状況である。しかし、企業単位でみたときには大きな変化が起きている事例をいくつも確認することができる。その中の1社が富士通だ。

富士通が全社員のテレワーク化に着手することをプレスリリースしたのが2018年のことで、2020年のコロナ禍によって導入は加速した。その結果、「出社しなくても仕事はできるし、首都圏に住む必要は必ずしもないよね」と考える社員が一定数出てくるようになった。また、遠隔地に住む親族の介護や単身赴任などの地理的な要因から生じる Well-being(肉体的・精神的に満たされた状態)の減少も、テレワークによる柔軟な働き方が一役買うようになっている。

そのようななか、「本人が希望し、所属長が認めたときに地方移住を前提としたテレワークを認める」という方針を打ち出し、その提携相手として大分県がいち早く名乗りを上げた。

すでに数名が移住し、東京と大分の二拠点生活をスタートさせている。日経クロステックの記事では、大分県での居住を始めた2名の従業員を紹介している。現状では、大分県に縁のある従業員からの希望が中心のようだが、新たな働き方の1つとして有効性が確認されると、制度の利用者も移住先候補も広まっていくことだろう。

二拠点テレワークをなぜ推進するのか?

全員が同じオフィスに出社し、顔を突き合わせて働き、就業時間で同じ時間帯に勤務する。これが従来の働き方の常識であり、労務管理も基本的にはこの常識を前提として制度設計がされてきた。神戸市水道局の事例で、職員がお昼時間の混雑を避けるために昼休みの5分前にお弁当を買いに出ていたことがわかり、職務専念義務違反として処罰されたことがある。規定に違反していたために処罰されたわけだが、この規定の背景にあるのが「全員が同じオフィスに出社し、顔を突き合わせて働き、就業時間で同じ時間帯に勤務する」という常識だ。テレワークで尚且つ遠隔地になると、この前提は崩れるし、そもそも規定が実態にそぐわなくなる。ここで、規定は規定だから実態を規定に合わせろというと、従業員や職員の職務満足度も職務意欲も下がり、生産性も低下する。

これまでの前提とは異なる働き方を受け入れるということは、従来の常識を前提とした制度や規定もすべて変えるということだ。この煩雑さと変更にかかるコストの大きさが、多くの企業をテレワークや多拠点生活の容認に対して二の足を踏ませる要因となってきた。しかし、富士通は従来の常識を変えるために、制度も規定も変えるという変革の大ナタを振り下ろした。

富士通の変化に対する思いは、日経の記事によると従業員の Well-being を高めることが主目的として挙げられる。

なぜ Well-being が経営の上で重要かというと、Well-being は3つの成果指標の先行要因として強い影響力を持つためだ。3つの成果指標とは、「従業員の創造性向上」「優秀な人材(特に外国籍)の誘因」「仕事へのエンゲージメント(熱意をもって取り組めているか)の上昇」である。Well-being を疎かにすると、従業員は創造性を発揮しなくなって言われたことしかしなくなり、優秀な人材は離職し、残った従業員は仕事に対する熱意もなく惰性で仕事をするようになる。休み明けの朝に「仕事に行きたくないな」という声はよく聞かれるが、そのような状況は本来は異常事態であり、放置してはいけないというのが Well-being を意識した経営だ。

多拠点テレワークを推進すべき3つの理由

富士通だけではなく、大分県で大学教員をしていると東京と大分で多拠点生活をしている社会人と会う機会が度々ある。東京と大分の多拠点生活をしていることで有名なのは、日本テレビのモーニングショーのコメンテーターでおなじみの石山アンジュ氏だろう。彼女たちのような多拠点生活者をみていると、多拠点テレワークによって従業員にもたらされる組織としてのメリットが3つあるように思われる。

① 移住ワーケーションの目的は「従業員の Well-being」
② 多様な選択肢を与えることがキャリア自律を育む
③ 移住先のコミュニティが飛躍的な成長のトリガーになる

1つ目のメリットは、富士通の狙いでもある Well-being の向上だ。私自身も東京での生活から大分に移住してきた一人だが、大企業並みの所得を維持した状態で地方都市に住むと生活の質は格段に向上する。毎日の朝の通勤ラッシュに悩まされることもなければ、家計のためにたいして美味しくもないチェーン店で食事をする必要もない。某天丼チェーンと同じ値段で、職人が揚げた地物の天丼を楽しむことができる。親元に移住できるのならば、介護の問題で離職に追い込まれることもなくなる。

地だこ天丼

(写真:お食事処ぶんごの地だこ天丼 850円、大分県国東市安岐町)

2つ目のメリットは、働く場所を自由に選択できるようになることで、自分で自分のキャリアを組み立てていこうという自律的な思考が身につく。このことは、ヤフーが早くから目をつけて取り組んできた。2014年にオフィス以外の好きな場所で働ける「どこでもオフィス」というテレワークの制度を設け、現在は無制限リモートワークかつ副業人材の積極活用も行うなど、働き方を自由に従業員が選べるようにしている。そうすることで、「自分が最も自分らしく生きることができるのは、どのような働き方なのか」を自律的に考える契機となっている。

日本社会におけるキャリアの最も大きな問題は、自分のキャリアを自分で考えることができないことだ。そのため、法政大学の田中教授がプロティアン理論を提唱するなど、キャリア論の研究者は30年以上にわたって様々な理論を解決策として提示している。しかし、なかなか成果が出ないのは、日本の人事制度が「会社都合の異動」と「転居を伴う異動」という個人の自由意志をないがしろにしてきた人材配置を基本としてきたためだ。自分が何かの領域の専門家になろうとしても、意思決定がブラックボックス化された異動によって反故にされるリスクがある。そうなると、自分で自分のキャリアを自律的に考えるよりも、流れに身を任せてドリフト(漂流)してしまった方が良い。ドリフトした場合は、自分が異動先で成果を出せるかどうかは完全に運任せになってしまう。しかし、働く場所を自由に選べることで、流れに完全に身を任せてしまう運任せのキャリアから、自分で意思決定をして自律的にキャリアを考えることが可能になる。

3つ目のメリットは、移住先の地域のコミュニティと関わることで、自分の世界を広げることができることだ。転職が珍しいものではなくなってきたとはいえ、日本人の平均勤続年数は世界で最も長い部類に入る。特に、大企業を中心とした新卒からの終身雇用というルートは未だに根強い。そうなると、交友関係が会社と家族以外には存在しないという社会人は案外多い。実際に、リクルートワークス研究所の調査によると、日本人の多くが社会人になってから交友関係が広がっていないという結果が出ている。そうすると、「わが社の常識が世界の常識」となってしまう。

交友関係が狭まると、新たなことを学ぼうという意欲が下がり、洞察力が低下し、短慮な意思決定が増える。つまり、従業員の成長を促すためには交友関係を広げることが良い。多拠点生活は交友関係を広げることに効果的だ。物理的に接するコミュニティの数も倍になる。地域差はあるが、地方も人口減少が深刻化しているため、昔のような余所者を阻害するようなことが減ってきている。また、地方はほどよく狭いため、コミュニティのキーパーソンがわかりやすい。キーパーソンと繋がると、交友関係が一気に広がる。

テレワークを導入し、定着してきた企業は、是非、地方との多拠点生活を検討して欲しい。多拠点生活は、うまく使うことで地方の人口減少という社会課題の解決に貢献できるだけではなく、組織にとっても個人にとってもメリットが大きい。企業の組織力を高めるのに効果が期待できる施策である。



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碇 邦生(大分大学/合同会社ATDI)
大分大学経済学部の教員&大学発シンクタンクATDI代表。(主なトピック:採用や育成等の人材マネジメント、新規事業開発など)※日経電子版キーオピニオンリーダー ※コメント返信は原則控えています。質問はTwitter(@IkariOita)へお願いします。