中小企業は社長のコミットで人材獲得が変わる

苦労して採用しても、すぐに退職する中小企業の採用事情

人手不足は深刻な問題だ。特に、地方の中小企業にとっては人材を採用したくても、求職者との接点を持つだけでも一苦労だ。そもそも、地元の労働市場に求める専門性や能力を持った求職者がいないために大都市圏から移住してもらうことも少なくない。移住を伴う転職となると、またハードルが一段上がる。
加えて、苦労した採用したとしても、職場に馴染んで成果を出し、長期的に活躍してもらえるかというと、そこも難題だ。特に、就職後3年以内の離職率は企業規模が小さくなるほどに高くなる。厚労省の調査によると、従業員数30人以下の企業における就職後3年以内の離職率は約半数に上る。100名未満の企業でも、約4割以上が3年以内に離職している。

苦労して採用できたとしても、半数が早期離職してしまうのでは中小企業としては辛いものがある。それでは、どのように対策をとるべきかというと、そのカギは社長だ。

中小企業の武器は社長が近いこと

日経新聞の記事で、東京都大田区で町工場のダイヤ精機を経営する諏訪貴子社長の取り組みが紹介されている。諏訪社長は、2007年から新入社員と交換日記を続け、新入社員の採用と定着で効果を発揮している。

新入社員が活躍できるかどうかを左右する要素として、採用研究では「大事にされている感」と「対等な仲間として迎え入れられている感」が重要だと指摘されている。

例えば、採用プロセスに関する研究では、活躍している社員が入社時にどのような採用時の体験が「大事にされている感」と「対等な仲間として迎え入れられている感」を高めたのかを分析し、採用プロセスに取り組むことがされている。このような取り組みを「候補者体験(Candidate Experience)」と呼ぶ。

そして、入社後に定着して成果を出すようになるまでの数か月から1年ほどの間に関する取り組みを「オンボーディング」と呼ぶ。新入社員の「大事にされている感」と「対等な仲間として迎え入れられている感」を高めるために、会社や職場が取るべき行動を分析し、具体的なチェックリストにまで落とし込むなどのマネジメント手法がある。

「候補者体験(Candidate Experience)」と「オンボーディング」の双方で非常に強力な施策は、経営者のコミットだ。最終面接で社長からビジョンやパーパス、企業文化について直接語られることは、候補者にとって強い誘因となる。同様に、入社後にも定期的に社長とコミュニケーションを取ることは、新入社員のモチベーションとコミットメントを刺激する。

大企業では従業員数が多く、なおかつ新入社員も多いために経営者が直接コミュニケーションを取ることは困難だ。これは急成長中のスタートアップ企業でも同様だ。しかし、中小企業は異なる。時間の捻出方法もさまざまだ。外資系IT企業のコンカーは、働きがいのある会社ランキングでの評価が高いことで有名だが、三村社長の昼食時間をできる限り従業員と共にとるようにしているという。社長とランチを囲むことで社員に「大事にされている感」と「対等な仲間として迎え入れられている感」を高めることに貢献している。

従業員数が少ないからこそ、経営者と従業員の距離が近い。中小企業はこの武器を積極的に活用すべきだ。人手不足が深刻化するなかで、他社と同じことをしても人材の獲得と定着は難しい。


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