急激に変化する社会環境に対応できる労働基準関係法制を
今年の12月24日、厚生労働省で行われていた労働基準関係法制研究会の報告書が取りまとめられました。
この報告書では、労働基準法を中心とした法改正等の方向性が示されています。
今後、労政審での議論、そして法改正を要する内容については国会での議論を経ていくため、この報告書の内容がそのまま実現するわけではありませんが、労働法政策的にはとても重要な報告書でしょう。
総論的課題にも着目
この報告書では、労働時間規制や、休憩、休日、インターバル規制、副業・兼業の労働時間通算の問題等、各論的にも重要な項目が多く整理されています。
これらの項目は企業の労務管理の実務にダイレクトに影響してくる内容であるため、注目がされやすい内容です。
ただ、この報告書の総論的課題は、今後の個別的労働関係法制の在り方にかかわるきわめて重要な課題が整理、議論されています。
総論的課題としては、①労働者性、②「事業」概念、③労使コミュニケーションの在り方が議論されています。
労使コミュニケーションの在り方は長期的な労働法政策にも関係する
私としては、今後の個別的労働関係法制との関係では、③の労使コミュニケーションの在り方の議論に特に注目しています。
労働契約も契約であるので、個々の合意によって自由に労働条件を設定するという考え方もあり得ます。
しかし、労働関係においては、交渉力の格差等があることから、合意のみによって自由に労働条件を設定できるとすると、労働者に劣悪な労働条件が設定される可能性があることから、労働基準法において最低基準を設けています。
このような構造からすると、労使間の合意、コミュニケーションと労働基準法は密接な関係性があります。
個々の労働者と使用者との交渉力格差に対応する手段として、労働組合による集団的な交渉という手段があり、現時点においても労働組合の役割が重要であることは確かです。
しかし、この報告書にもあるように、そもそも労働組合の組成率は低下しており、2023年時点において16.3%にとどまっているようです。特に、中小企業においては労働組合が存在しない会社が多く、中小企業にも適用される労働基準法において労働組合のみに依拠した法制度を採用することは現状困難といえます(それゆえ、従業員代表という仕組みがとられています。)。
報告書では、こうした課題意識のもとで、大きく①労働組合の活性化を前提とした労働組合による労使コミュニケーション、②過半数代表者の基盤強化、③労働者個人の意思確認等の方向性が挙げられています。
労使コミュニケーションと労働法制の方向性
さて、今回の報告書を読んだときに感じたこととしては、(個々の改正点はともかく)労働基準法等の抜本的な見直しがなされたのは、1987年以来でああり、今回の議論までにかなりの期間を要しているという点です。
この報告書でも触れられていますが、それまでの間、働き方は多様化しています。
そして、これからも社会環境の変化は非連続的かつ急激に訪れることが予想されます。
そうした変化が見込まれる中において、数十年に一度の見直しの議論をしていたのでは、環境変化、働き方の変化に対応できなのではないでしょうか。
したがって、個人的には、今後、労使コミュニケーションの活性化を前提とし、集団的な合意によって大枠や最低ラインを決定しつつも、個別的な合意によって柔軟に労働時間規制等を設定できる仕組みができた方が良いのではないかと考えています。
今回の報告書でも、「労働基準関係法制の意義を堅持しつつ、 労使の合意等の一定の手続の下に個別の企業、事業場、労働者の実情に合 わせて法定基準の調整・代替を法所定要件の下で可能とすることが、今後の労働基準関係法制の検討に当たっては重要である」とし、現在においても高プロ等で一部導入されている「集団的合意+個別合意」という制度の拡大の方向性は示されています。
今後の社会環境変化を踏まえと、こうした方向性を迅速に進めていくべきであろうと考えています。
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