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任天堂が独自なゲームをつくることができる裏側をトレース

「任天堂の基本軸はハードとソフトを一体で作り、独自の遊びを提案すること。だから他の会社と競争をしていないし、価格競争をする気もありません。

日本経済新聞 マリオの父は滑らない 映画大ヒット、宮本茂氏の仕事術

2023年に最も影響を受け、尊敬したブランドはどこか?

自分にとっては…

任天堂です。

自分は、社会人になってから全くと言っていいほどゲームをやらない人間になってしまっていました。
学生の頃は、ポケモンをゲームボーイでプレイし、家族で任天堂DSで脳トレをみんなで遊んでいました。

仲良くしている友人が、任天堂Switchに激ハマりしていたことをきっかけに
今年の夏にNintendo Switchを購入しました。

任天堂らしい体験

Switchの体験は、ゲームに苦手意識をもつよになっていた自分でも、即のめり込むことができました。

懐かしいドンキーコングで遊び、リングフィット アドベンチャーで運動をしたりと、ゲームが家族とのコミュニケーションを取り戻してくれたことにも感謝です。

任天堂のゲーム体験の奥深さに魅了されると同時に、気になってきてしまったのが、
なぜ任天堂は、任天堂らしい独自の体験をつくれるのか?

ということです。

改めて、任天堂の歴史をさかのぼると、ゲームボーイもWiiもSwitchもどれも、ゲームの形を見ただけでも「任天堂のゲーム」だと認識がされる設計になっています。

ということで、2023年最後のトレースとして、任天堂は、なぜ独自なゲームをつくれるのか?をテーマに書いていきたいと思います。

ポイントを3つに絞ってお伝えしていきます。

1. 任天堂は、競合や海外事例をみて発想しない

任天堂の有価証券報告書には、下記のような記載があります。

当社グループは、「娯楽を通じて人々を笑顔にする会社」として、どなたにでも直感的に楽しんでいただける「任天堂独自の遊び」を提供することを目指しています。この独自の娯楽体験を実現するために、ハード・ソフト一体型のゲーム専用機ビジネスを経営の中核に置き、どのような娯楽でも「いつかは必ず飽きられてしまう」という考えのもと、世界中のすべての人々に向けて独創的な商品やサービスの提案を続けて いきます。

任天堂 有価証券報告書より引用

IR資料に記載がある任天堂の戦略を図解してみました。

任天堂の戦略を図解

普遍的なDNA
誰もが直感的に楽しめる任天堂独自の遊びを提供し続けること
一貫した戦略
1. ハードソフト一体型の遊び
2. ゲーム人口の拡大=任天堂IPに触れる人口の拡大

戦略を整理して理解できるのは、
任天堂の独自なゲーム開発は、
哲学と戦略方針が一貫性から生まれていることです。

もう少し細かく整理していきます。

任天堂から学ぶ戦略の一貫性とは何か?

戦略には一貫性が必要だ
と言われることが多々ありますが、何に対して一貫性を持たせることかが曖昧になりやすいです。

任天堂がもっている一貫性を整理すると、3つに分類することができます。

1. 哲学の一貫性(思想をブラさない)
2. 領域の一貫性(ハードとソフトを一体型)
3. 方針の一貫性(ゲーム人口の拡大)

その中でも、独自性の鍵を握っているのが哲学の貫かれ方だと捉えています。

貫かれる創業の哲学「娯楽に徹せよ。独創的であれ」

任天堂の経営哲学に、土台を築き上げた山内溥さんからの教え「娯楽に徹せよ。独創的であれ」という考え方があります。

何がすごいかというと、
歴代の社長・ゲームクリエイターの方々は、
一貫して全員が共通の哲学に立ち返って戦略を考えている
ことです。

いくつか抜粋してみます。

我々のビジネスはかってなかったものを世の中に送り出すこと
従来あったものをマイナーチェンジするという考え方はダメ

NHKアーカイブス:山内溥さんの言葉

私はものを考えるときに、世界に一つしかない、世界で初めてというものを作るのが、私の哲学です。それはどうしてかというと、競合がない、競争がないからです。

書籍:横井軍平の哲学 

「任天堂の基本軸はハードとソフトを一体で作り、独自の遊びを提案すること。だから他の会社と競争をしていないし、価格競争をする気もありません。

日本経済新聞 マリオの父は滑らない 映画大ヒット、宮本茂氏の仕事術

「当時の社長だった山内溥の言葉を借りれば、娯楽は生活必需品とは根本的に違う。必需品であれば2番手でも安くすれば売れるが、娯楽に二番煎じは通用しない。娯楽は何か一定の市場があるわけではないので、お客様に常に欲しいと思ってもらえるような独自の製品を生み続ける必要がある」

日本経済新聞 任天堂の古川俊太郎社長「二番煎じ、娯楽に通用しない」

ポケモンも哲学を貫いたからこそ勝負できた

任天堂はポケモンIP戦略の成功がわかりやすくありますが、ポケモンを世界で勝負していく意思決定も「他と違うことをすることに意味がある」という考え方に基づかれていたようです。

こちらは、当時の岩田社長のインタビューにあった言葉です。

ポケモンを海外展開する際に、現地の関係者が言ったことを今でも忘れません。「こんなかわいいのはモンスターじゃない」と。米国で売りたいならこうしろと、筋肉ムキムキにした企画案の絵が送られてきた。そのときに前社長の山内溥(現相談役)は「成功例がないのなら、なおのことチャレンジする価値がある」と言いました。娯楽はほかと違うから価値があるわけで、違うものがうまく行ったときにはすごく大きくなる。日本のまま変えずに行け、というのが山内の示唆でした。

岩田聡・任天堂社長--日本人が面白いと思うものは世界で見ても「面白い」!

競合がこれをやっているから、海外でこのようなモデルが出てきたから…など外から発想するのではなく、内側から発想し続けているのが任天堂の魅力をつくり出していることがわかります。

組織に浸透する独自なことを追求する哲学

任天堂関係者のインタビューを読み漁ると、任天堂のゲームクリエイターの方々は、
「自分が一人のゲーマーとしてワクワクするか?」
と向き合った上で、企画・開発をしていることがわかります。

この「開発者に訊きました」シリーズは、任天堂のものづくり哲学が理解できる素晴らしいコンテンツです。

任天堂は組織全体で独自性を考え続けているのでは?

まとめると、このような問いをもって、任天堂の人たちは仕事をしているのではないか?という仮説です。

2. 最新の技術に頼らない、先にアイデアをつくる

2つ目の任天堂の独自性を支える要素として、最新技術・テクノロジーに頼っていないということです。

最近だと、Nintendo Laboが典型例だと思います。

自分も買って組み立てていますが、組み合わせている素材はダンボールですが、好奇心がくすぐられる感じがたまりません。

『Nintendo Labo』は、「つくる、あそぶ、わかる」という新しいコンセプトをもとに開発された、あそびの発明キット。
「ダンボール」と「Nintendo Switch」、「ゲームソフト」を組み合わせて、ピアノやつり、バイクやロボットなど、いろいろなコントローラーに変身してあそぶことができます。
あそんでいるだけでいつの間にか、あそびの発明家になれちゃうかもしれません。

Nintendo LABO 特集より引用

枯れた技術の水平思考

ゲーム&ウォッチの開発を支えた、天才ゲームクリエイター・横井軍平さんは
「枯れた技術の水平思考」という言葉で表現をされています。

参考書籍:横井軍平ゲーム館: 「世界の任天堂」を築いた発想力 (ちくま文庫)

枯れた技術とは、最先端ではないが、すでに広く使われて、ノウハウも固まり不具合も出し尽くして安定して使える技術のことです。

AI技術、特別なタッチスクリーン技術を使って魅力的な体験をつくろう…
といった発想ではないわけですね。

SONYプレイステーションとの比較

よく任天堂の比較で出されるのがSONYのプレイステーションです。

プレイステーションは高い技術力を追求する方向性が強いです。
ソニーが長年のテレビや音響機器事業で培った優れた技術資産をもっているためです。
例えば、PS4とSwitchを技術面(例:画質・映像の処理(CPU・GPU))で比較すると、PS4が勝ります。

一方で任天堂は、新しい遊び方を追求する方向性が強いです。
そして、基本戦略である「ゲーム人口の拡大」と連動しています。

Switchで出しているゲームは、大人と子供が一緒に楽しめる、家族旅行中でも楽しめるなど、新しいシーンを訴求しているのが任天堂らしいコミュニケーションです。

世界のアソビ大全51のゲームなど典型的だなと思っています。

決して、SONYをネガティブに語っているわけではなく、任天堂とSONYを比較するとブランドの違いが面白いことがわかります。

そして、任天堂は技術ではSONYには劣るけれど、その分アイデアで勝負することに振り切っていることが「任天堂らしさ」につながっていることがわかります。

3. 特定のファンだけのために作らない

3つ目は、任天堂の市場と文化との向き合い方です。

任天堂には、ゲーム単位、特定IP単位(マリオやカービーなど)で世界中にファンがいます。

しかし、任天堂の戦略の素晴らしさは「ファンに依存しない」ことです。

岩田社長が2005年に語られている任天堂の戦略がもっともわかりやすかったので引用します。

ビデオゲームビジネスの未来のために、我々は市場を拡大しなければなりません。
そのために、過去の成功体験を捨て、原点に立ち返って。
誰にでも前提知識なく楽しめる、間口が広くて奥が深い。
そういう商品を展開していくことに、業界全体が一丸となって努力していく必要がある。
そういうふうに私は考えています。

言い換えればゲーム人口の拡大を目指すということです。
そもそも、ゲームを楽しむ人が増えない限り、市場の拡大はありえません。

YouTube:ゲーム人口の拡大に向けて/任天堂 代表取締役社長 岩田聡 ※音声のみ

顧客ピラミッドの考え方をもとに、任天堂の戦略を図解します。

任天堂は、「ゲーム人口の拡大」を掲げて、大人から子供まで、ゲーム上級者でも初心者でも楽しめる体験設計をしています。

ユーザー層の幅が広いから、大人と子供が一緒に遊ぶ、レベル感が違う人が一緒に遊ぶといった、「任天堂らしい遊びの場」が生まれるのだと考えています。

大きな問いをもって戦略をつくる

任天堂の企画プロセスを想像してみます。

任天堂は、どうやってファンに愛されるのか?
という問いではなく、
ゲーム産業や文化が発展し続けるためには?
ゲームが人の生活を豊かにするためには?

という大きな問いと向き合っていると考えています。

この「顧客を絞り過ぎない」問いをもっているからこそ、
生み出されるゲームや体験が任天堂らしいものになっているのではないでしょうか。

任天堂から学ぶ独自性の磨き方

ここまで任天堂が独自なゲームをつくれる理由に関するトレースをしてきました。

そして、任天堂Switchを遊びながら、そもそも遊びとは何かについて考えていました。

遊びは、唯一の解があるわけではない。
それぞれの人が導き出せる固有の解があるのが楽しさだと捉えています。

そして、その人のゲームレベル、シーンに合わせて楽しめるのが任天堂で遊ぶことの楽しだと解釈しています。
大人と子供が勝負して、子供が勝つ可能性が高いのが任天堂ゲームの特徴ではないかと。
(ちなみに、ゲーム上級者の妻に、初心者の自分が勝ちました!)

任天堂から学べる独自性のつくり方

最後に任天堂とブランド戦略づくりについてまとめます。

任天堂からは、独自性を磨きたいと考えながらも、表面的なマーケティング施策から「みんなと同じ状態」に陥っている病から抜け出せる可能性を感じています。

ご自身が関わられているブランド戦略づくりに活かす視点をまとめます。

この3つの視点で、独自性を磨くための問いを投げかけると、無意識的にみんなと同じ状態になっている要素から抜け出せるはずです。

1. 哲学と戦略の一貫性
・戦略や顧客体験に、どんな哲学があるか?
・その哲学と、顧客体験・戦略は一貫性を持てているか?
2. 競合とケンカをしない
・自分たちのらしさとは何か?
・競合が見て「バカな?」と感じるような「今までにない要素」はあるか?
3. ブランドに関わる人口の拡大
・どうすれば大人も子供もおねーさんも楽しめるか?
・人が根源的に楽しめる要素はあるか?
・誰もがなじめる言葉を使えているか?

2024年は、任天堂を徹底的にトレースして、日本企業・文化が世界に影響を与えるための考え方を体系化していきたいと思います。

最後に。

ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー、任天堂のコンテンツのこだわりに感動しました。
Amazon Primeなどで公開されているのでぜひ見てみてください!

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