まずオファーを取ろう。話はそれからだ。
僕は転職でキャリアを作ってきた人間です。また、上場企業の執行役員という立場から面接官をすることが多く、マーケターのキャリア支援を行う社団法人でアドバイザーもやっています。
そんな経験を見込んでもらってか、転職のアドバイスを求められることが割と多いのですが、毎回、ほぼ全員に言うことになるセリフがあります。
それは、
まずオファーを取ろう。話はそれからだ。
です。
これはどういうことか、というと、そのままの意味でして、何にせよまずは応募してオファーを取りましょう、という話です。
転職相談をしてくれる人は、要は転職するかどうかを悩んでいるわけですが、僕からすると悩んでも悩んでも答えが出ないのは当然です。
何せ、転職する場合の条件が固まっていないのですから。
今の会社で働き続ける上での条件は比較的クリアでしょう。現年収、就業環境、仕事仲間などは今皆さんの目の前に広がっています。それが将来どう変化するかは、比較的不透明ではありますが、つぶさに把握できる現状から、ある程度正確に予測することができるでしょう。
それに対して、転職したらどうなるか?はほぼ100%予測不可能です。この予測可能性を上げる唯一の手段が、どこかに応募してオファーを取ること、なのです。
オファーを取れば、年収や就業環境、上司や同僚がどんな人か、というオプションがもう一つ生まれます。そこで初めて、比較し、選択すべきオプションが、私たちのキャリアの上にポツンと現れるのです。独立や起業のプランを具体化する、のでも同じですが、ここではそれは考えないものとしましょう。
本来悩むことができるのは、その時点からなのです。
にも関わらず、オファーも取っていないのに、ましてや応募もしていないのに、あまつさえ活動もしていないのに、転職すべきかどうかを迷うのはなかなかに非効率です。初めから答えが出るはずもない問い、に答えを探しているような状態なのです。
となると、どうすればいいのか。まずは、何にせよ興味のある企業や求人に応募してみることです。
ただ、闇雲に応募してはそれもそれで非効率です。そこで、応募する以上は絶対にオファーを取る、という心がけで応募します。
つまり、キャリアを整理して自己PRを磨き、応募企業を徹底的に分析し、応募企業の勝ち筋や成長戦略なども真剣に考えてみます。興味のある企業を洗い出したら、そうした心がけが持てるかどうかで応募先を絞り込みます。
重要なのは、これらをその企業に転職をするため、ではなく、キャリアの選択肢を広げるためにする、という心がけです。
先ほどお話ししたように、その延長線上でオファーを取らない限りは、転職という経路でキャリアの選択肢が広がることはありえません。なので、転職するかどうか、悩む権利を手にするために、まず何にせよオファーを取りにいくのです。
転職で人生を好転させるポイントは、
転職とは、まずオファーをとるゲームなのだ
と考えてみることなのです。
そう考えて面接の準備をすることは、ビジネスパーソンの経験として無駄になりません。それどころかものすごい有益です。自分の会社や業界以外のことを、それほど真剣に研究する機会はあまりないでしょう。
そうした経験は、普通に仕事をしていたのでは絶対に実現できないやり方で、自分の知見や経験を広げてくれます。そうなると、最終的な転職の成否に関わらず、ライバルに大きな差をつけることができるのです。
面接に進むことができれば、一線で活躍するマネージャーや幹部、時に経営者と1時間みっちり話をすることができます。それもそれでとても勉強になります。
そして、そうした経験は、何より面白いのです。社長が自ら出てきて、直接色々と話を聞ける社会科見学など、転職活動をおいて他にありえないでしょう。
転職活動というのは、コスパ最強の「おもしろ学びコンテンツ」なのです。
そういう考えの人に応募されては企業も迷惑、でしょうか?
業界や自社を徹底的に分析し、勝ち筋や成長戦略を提案してくれる。問いかけには楽しそうに目を輝かせて受け答えし、オファーを取りたい、という熱意に溢れている。そんな人に応募してもらうことが?
むしろそういう人にこそ、オファーを出したくなる企業が多い、のではないでしょうか。
そうしてオファーを勝ち取ることができたら、そこで晴れて転職というオプションを手にするわけですが、そこからは大手を振って迷うことができるようになります。今の企業に残るべきか、転職をするべきか。
そんな中で、たとえば収入面が転職のネックになるのであれば、その旨を伝えて年収の交渉をするといいでしょう。
そうしたすり合わせをするのは、こうしてオファーを取った後で、というのがおすすめです。
オファーを出す側の企業は、会社の機関として意思決定します。応募する側は一人の人間ですが、オファーを決めるのは会社の機関なのです。オファーを出すかどうか。出すとしたらどんな金額で出すか。それは例え社長が社長の一存で決める場合でも、個人ではなく会社の機関としての意思決定となります。
億万長者の社長なら、個人としてフェラーリを買うのは簡単でしょうが、社用車として会社でフェラーリを買うとなると色々面倒なことがありそうですよね。この違いを意識するべきなのです。
これは、オファーという意思が簡単には定まらない、ということを意味しますが、一度定まった意思はある程度固定化される、ということでもあります。つまり、一度オファーを出す、という意思決定がされると、会社というのは今度はそれが確実に実行・実現されるように挙動し始めるということです。
ちょっと難しい話になってしまいましたが、要は年収などの条件のすり合わせは、オファーが出た後にした方が圧倒的に有利だということです。
オファーを出すかどうか、も正式決定できない段階で(面接官としてはオファーを出したくても、会社としてしかるべくプロセスを踏まないとオファーは出せない段階で)、オファーの具体的な条件を約束することは困難です。
そのような難しいことをさせるより、オファーが出た後で、そのオファーを実行・実現するべし、というモードになった相手に交渉を仕掛けた方が圧倒的に有利、なのです。
晴れてオファーを手にすることができ、そうした交渉ができるようになってから、最終的に意思を固めるには大体1〜2週間の時間が確保できることが多いでしょう。
短い? いや、悩むのに十分な時間、ではないでしょうか。2週間毎日考え続けて答えが出ない問題に、+2週間の時間があれば答えは出るものでしょうか?
諸々条件がクリアになった上で、2週間じっくり考えてみて、やっぱり今の会社がいい、となればそれは一つの答えです。
そうなればより迷いなく今の仕事にコミットすることができますし、転職活動の過程で高まった自己理解は、今後のキャリアを照らすともしびになってくれるに違いありません。業界研究、企業研究、先方との会話を通じて広がった知見・経験は、今の仕事に新たな視点を与えてくれるでしょう。
というわけで、冒頭の台詞を、ここでもう一度くり返させていただきます。
まずオファーを取りましょう。話はそれからです。
皆さんの転職活動が、皆さんのキャリアを豊かにしてくれることをお祈りしています!
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