女性管理職を増やすには外的キャリアの再設計が欠かせない
育休をとると昇進に響く
この4月から、「改正育児・介護休業法」が段階的に施行された。まずは、「育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け」と「有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和」からスタートする。その後、令和4年10月1日から「男性の育児休業取得促進のための子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設」と「育児休業の分割取得」、令和5年4月1日からは「育児休業の取得の状況の公表の義務付け」と段階的に進められる。
しかし、これらの施策に対する世の中の反応は冷ややかだ。日経ウーマノミクス・プロジェクトの調査では、最も効果がありそうだと選ばれた施策「従業員に対する個別の制度周知、取得の意向確認の義務化」でさえ、27%と低い。座談会でも、「正直に言うと、どの施策も効果は薄そう」という声が出ている。
育休取得に対する不安で最も大きいのは「復帰後の仕事への影響」(61%)であり、実際に育休をとった男性からも「復帰後の仕事への影響」(35%)があったと回答が出ている。座談会でも、昇進への影響が怖くて育休は取れないという声が出ている。
男性ですら不安なのに女性ができるのか
育休をとったら昇進できない。会社内でのキャリアは絶たれる。そう考えるのは男性に限った話ではない。出産と育児に対する女性の不安も同様だ。しかも、選択ができる男性とは異なり、子供ができると女性の場合は強制的に休まなくてはならない。
2021年7月に行われた帝国データバンクの調査によると、女性管理職の割合は平均8.9%で、過去最高水準ではあるものの低空飛行のままだ。政府目標である「女性管理職30%以上」を超えている企業は8.6%となっている。国際労働機関(ILO)がまとめた2019年の世界の女性管理職比率の平均が27.9%であり、大きな差がある。
結局のところ、男性でも不安を感じる状態で、結婚・育児をしながら女性が管理職になることを目指すのは現実的ではない。「結婚・育児」と「会社内のキャリア」のどちらかの選択を迫るような状況は是正されていない。
日経ウーマノミクス・プロジェクトの座談会では、「周囲に育休を取得した男性がいるが、本人のいない飲み会で、上司が『目標を達成していないのに、なんで休むのか』と陰口を言うのを見た。自分も育休をとったら『あいつは出世には興味がない』とレッテルを貼られる恐れがあるので、とらなかった。本当は数カ月から1年くらい育休を取得したい」という言葉が出ていた。つまり、上司や同僚から理解を得ることができるのかという、企業文化の問題だ。
本気で女性管理職比率を上げたいと考えるのならば、企業文化を変えるという大きな決断が必要だ。その覚悟がないままズルズルと時間だけが過ぎていくと、「女性が不幸になる、おっさんの国」というレッテルが世界から日本に貼られ(既に貼られている感じはある)、世界に取り残される。
世界経済フォーラムによる「ジェンダー・ギャップ指数2021」は、日本は120位であり、102位の韓国、107位の中国よりも低い。119位はアンゴラで、121位はシエラレオネだ。「教育」「健康」のスコアは世界最高ランクなのに、「経済」と「政治」のスコアが足を引っ張っている。「経済」の順位は156か国中117位であり、「政治」の順位は156か国中147位だ。
外的キャリアの再設計が急務
よく女性活躍推進のためにはロールモデルが重要だと言うが、私はロールモデルで解決しようとすることはお勧めしない。それは、「男性が有利なシステムで出世ができる女性を増やしたい」という男性目線でのロールモデルでしかないためだ。そのロールモデルを突き付けられた女性は「男性が有利なシステムの受容」を迫られることになる。それは、ロールモデルという名の選抜でしかない。
女性管理職を増やすということは、男性有利に設計されている「外的キャリア」を再設計するということだ。外的キャリアは、MITのエド・シャイン教授による三角錐モデルが最もよく知られる。
X軸での移動はさまざまな部署を異動することで「ゼネラリスト」として習熟し、Y軸での移動は組織内の階層を上がる昇進、Z軸での移動は特定の専門性を高めて「スペシャリスト」として習熟する。
結婚と育児のことを考えると、会社都合で居住地も含めて多様な部署を異動するX軸は負担が大きい。会社都合で引っ越しをさせたり、単身赴任をさせるのは、女性を専業主婦として扱うことを前提とした男性的な価値観が強い。Z軸の「スペシャリスト」は、そもそも日本では軽視されてきた。しかし、専門性の強いスペシャリストの業務は外注ができたり、付加価値が高い仕事も多い。産休や育休中に負担の少ない業務委託として依頼することで、休業中にも会社と繋がり、復職への不安を下げることもできる。
そして、最も強固に「男性総合職向け」に作られているY軸を、ジェンダーフリーに作り変えることが、女性管理職の増加の本丸だ。基本的には、トップから上位下達で変革することが基本となる。フランスの事例でいえば、上場企業が女性活躍推進に関わる指標をクリアできない場合には、役員報酬の承認が下りないようになった。かなり徹底したトップからの変革と言えるだろう。しかし、それだけの覚悟を示さないと、世界最低の国という現状から脱することはできない。
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