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高齢者になるとお金を使わなくなる問題

高齢化になればそれだけ人口に占める高齢者の割合は増えるわけだが、こと経済を回すという意味での消費の観点からいえば好ましくない。なぜなら高齢者は消費しないからだ。

一時、高齢化に伴ってシルバーマーケティングなどが喧伝されたことがあったが、今やすっかりそんな言説は言われない。実際に、シルバー層を対象としてマーケティングしたところで儲からなかったからだ。

高齢者は消費をしなくなるのである。めちゃくちゃ貯金があるにも関わらず、だ。

とはいえ、貯金があるといっても、何歳まで生きるかわからない状況の中で、怖くて使えないという気持ちはわかるのだが、高齢化不可避の中でこれは実は由々しき問題なのである。

もちろん、高齢者となって会社を退職し、給料がなくなったら定期収入がないわけだから、現役と同じような消費はできないという物理的な問題もあるだろう。実際、年金だけになったとすれば、厚生年金がある人であっても月12-13万円、生活保護と同等のお金しか入らない。だからこそ、今65歳以上の就業率が爆上がりしているわけだが、まあ、働けるうちは働いた方が健康にもいいだろう。

しかし、高齢者の消費が増えない一番の理由は「高齢者になるとそもそも欲がなくなる」し、「なんもかんも面倒くさくなって消費しなくなる」からである。そして、意外に忘れていることは「高齢者になると対人関係が極端になくなりお金を使わなくなる」ということである。

消費の原動力は対人関係なのである。誰かと一緒に飯を食いに行くとか旅行に行くとか趣味のために出かけるというのがあるからこそお金を使う。そういうきっかけがなくなった場合、下手をすれば一日中家にいて、テレビを見て、家にある物を食って、1円も使わずに過ごすことも可能だ。

しかし、それを継続するといつの間にか本体は涅槃に逝ってしまい、身体は液体化してしまうので注意が必要だ。

人口ボリュームが多くなる高齢者が消費してくれないと経済が停滞する。大袈裟じゃなく、高齢者が金を使わないと日本経済は終わる。

いろんなところのシンクタンクの計算によれば、40-50代の団塊ジュニアの人口ボリュームがマックスの今現在が国内消費支出の最大値であり、今後彼らが高齢者となるに従い、そもそも消費市場規模が激減していく。
市場規模が激減すること=経済がより停滞するということである。これは本当にヤバい問題で、どうにかして高齢者には金を使ってもらわないと困るのだ。

なぜならもう高齢者は社会から支えられる側ではなく、支える側になってもらわないと困るからだ。その意味でも、個人的には後期高齢者の医療負担とかは現役と同等にしてもらいたいものである。

しかし、そうはいっても高齢者は、そもそも「欲がなくなる」のだから消費しろといっても響かない。そもそも面倒でしんどいから旅行だって行かない。「地球の環境のために」とかそんなもんを訴求しても効かない。どうでもいいからだ。高齢者向けの料理教室なんかやったってどうせすぐ飽きる。そもそも高齢になって新しいことにチャレンジすることすら面倒くさいし、意欲が継続しない。

もともと趣味とかある高齢者は勝手に消費してくれるからいいが、そうじゃない高齢者が圧倒的に多い。

しかし、そんな何の欲も趣味も友達もない高齢者でも必ず使う費目がある。それが食費である。これからは高齢者にいかに「毎日の食でお金を使ってもらえるか」が重要になるだろう。

そこに気付いたのか知らないが、いつのまにか、ジャパネットたかたがそれに乗り出している。

それは、彼らの商品ラインナップを見るとよくわかる。ここはテレビ広告を「店」として高齢者層をメイン顧客としてやっているが、かつてジャパネットといえば、エアコンや掃除機、液晶テレビ、調理家電など高齢者にとっては「どれを買っても一緒だろ」的なアイテムをいろいろ親切な説明をつけて、なおかつ別にいらねえ的な付属品もつけて、割引します的な最終的なひと押しで買わせる商売である。家電以外では羽毛布団もよく扱っていた。どれも「モノ消費」というか、生活必需品をベースとしたラインナップだった。

しかし、ここきて、ジャパネットのラインナップに「グルメ」が増えているのである。

販売アイテム数で比較するとわかりやすい。
エアコン・扇風機関係195点 冷蔵庫・洗濯機関係250点、調理家電関係229点、掃除機関係55点、テレビ・オーディオ関係は149点、お布団・寝具関係は231点。それに対して、グルメ関連商品は309点で唯一300超えともっとも多い。※2023年9月9日時点のもの

まあ、売上構成的にいえば単価の高いエアコンや冷蔵庫の方が大きいのだろうが、ああいうものは一回買えばそうそう買い替えるものではない。食品はいわゆる「消え物消費」といわれるもので、人間生きていく上で食事は必須だから、一度買ったらしばらくいらないというものでもない。
しかも、ご丁寧にサブスク形式にしているので、解約しない限り死ぬまで届ける。場合によっては死んでも引き落とされる。よくできている。単価は安くても長生きな高齢者のライフタイムバリューを獲得するという方向で、高齢者向けの商売としては間違っていない。

高齢化特に過疎化した地方においてはコンビニもなければ、かつてあった商店街もなくなっている。交通インフラも不便になって、もはや自分で車を運転して買い物にいけなくなった高齢者にとっては、定期的に「生きる糧」を届けてくれるサービスはありがたい。

そのうちジャパネットでは、定期的に看護師が定期健診してくれるサービスなども売り出すんじゃないだろうか。

こういう方向で、黙っていたら節約して消費をしない高齢者の消費を喚起する「お膳立て」は考えていかなければならないだろう。なんといってもそのうち4割近くが高齢者になってしまうのだから。金を使ってもらわないと困るのだ。

ちなみに、本記事はジャパネットから金をもらって書いたものではないし、宣伝のつもりで書いてもいない。そもそも私はジャパネットを利用したこともない。




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荒川和久/独身研究家・コラムニスト
長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。