2021年は「フードテック元年」になるか?【日経COMEMOテーマ企画 #新レストラン考_遅刻組】
既存産業×テクノロジーが新産業を生む
DX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉を聞かない日がないほど、近年、ありとあらゆる分野でのテクノロジーの活用が進んでいる。アナログではないと無理だと考えられてきた分野ほど、DXによって大改革が起きている。その最たるものの1つが、「食」に関する産業だ。
「美味しい料理」と「素晴らしい接客サービス」は、職人的な勘と経験がものをいう世界だった。しかし、テクノロジーが導入されることで、全く新しい「食」の世界ができつつある。
日経COMEMOのテーマ募集に沿って、考えてみたい。
周回遅れで広まったフードデリバリー産業
「食」のDXで、最も注目を集めているのが『Uber Eats』に代表されるフードデリバリー(料理宅配代行)サービスだろう。それまで、お店に行かないと食べることができなかった個人経営の飲食店の料理を、アプリで注文するだけで自宅で楽しめるようになった。サービス開始当初は問題も多かったサービスだが、コロナ禍で外食が自粛されるようになり、一気に浸透した。
市場が一気に広がったことでプレイヤーも増え、業界団体も作られるようになった。
しかし、世界的に見るとフードデリバリー・サービスが国内定着するまでに要した時間は諸外国と比べるとだいぶ遅い。『Uber Eats』の本場である米国や欧州はもちろんのこと、中国や韓国などの東アジア、タイやシンガポールなどのASEAN諸国、ドバイなどの中東諸国といったように、日本で受け入れられる前に世界的にはコロナ以前から当たり前のサービスとなっていた。
そのほかにも、テクノロジーの活用が遅れている分野は数多くある。『フードテック革命』(日経BP)の著者である田中宏隆氏らは、「フードテック革命に日本不在という現実」があると警鐘を鳴らしている。
フードテック元年にしないと、また周回遅れになる
『フードテック革命』(日経BP)では、これからの「食」のビジネスはターゲットが変化していくと述べている。既存の事業では、顧客に提供する価値は「時短」「節約」「おいしい」「健康的」「高品質」「安全」などの、生産者から消費者に提供する一方通行のベクトルで表されるものだった。
しかし、今後の「食」のビジネスでは6つのターゲットが重要になる。
第1のターゲット:調理を楽しむ/丁寧に作る・食べる
第2のターゲット:ヴィーガン/フレキシタリアン/ミートレス・マンデー
第3のターゲット:発見する喜び/エンターテインメント
第4のターゲット:食のパーソナライズ化/医食同源
第5のターゲット:コミュニケーション/文化継承・創造
第6のターゲット:孤食防止/フードロス削減
これらのターゲットへ提供するサービスは、「良いものを顧客に提供する」という一方通行のベクトルでは成り立たない。顧客からの細かいメッセージや要望を逐次キャッチアップしていくコミュニケーションができるか、それらの要望を満たすための必要な技術を有しているか、自分たちのターゲットとコミュニケーションをとるためのメディアを活用できるかなど、顧客と生産者が双方向の価値の交換が必須となる。簡単なものは、GoogleビジネスやInstagramなどのSNS活用だろう。もっと大がかりなものになると、食物由来の人造肉やAIによる接客サービスのパーソナライズ化などがあげられる。
歴史を顧みると、テクノロジーが「食」の在り方を大きく変えるというのは昔から頻繁に起きてきた。それは、クール宅急便のような「冷凍輸送技術」の発展や「回転すし」による寿司の大衆化があげられる。テクノロジーの活用に積極的なことで知られるくら寿司は、独自開発した特許技術の宝庫だ。もっと古くには、日本の清酒産業の黎明期にもテクノロジーの影響がある。
フード×テクノロジーは、まだ世界でもブルーオーシャンの多い分野だ。2021年は、日本におけるフードテクノロジー元年となるような革新的な挑戦が生まれることが期待される。
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