成長と分配:誤解と整理

 成長と分配という言葉が、盛んに論じられています。
 残念ながら、議論が大変混乱しているし、間違った議論が多いと思うので、冷静に整理したいと思います。
 まず混乱しているのが「分配」の対象です。まず分配する対象には、ストックとフローがあります。両方大事です。

1. ストックの原資
 まず、ストックに着目します。この場合、分配するのは富、即ちお金です。分配の原資は経済成長によって得られるという議論を多くの方々がされています。分配するためには、その原資として、経済成長、すなわちGDPの成長が必要だというのです。
 残念ながらGDPを増やしても、配分の原資であるお金は一銭も増えません。GDPは生産の指標なので、サービスやものの生産が増えるだけです。
 基本に戻りましょう。お金の総量を一定とすると、経済活動は、お金を人から人へ移動させているだけです。この結果、社会におけるお金の配分を変えているだけです(その結果、モノやサービスが生み出され、授受されています)。
 誰かの黒字は誰かの赤字です。総量は変わりません。だから、GDPの成長がないと配分の原資がないという議論は根本のところで違っています。
 分配の原資を増やすには、お金の総量を増やすことが必要です。そのためには、(1) 政府が債務を増やすか(即ち、政府の赤字を大きくする)か、(2) 銀行が融資を増やすか、この2つしかありません。
 国民に配分された富やお金(ストック)を「分配」と捉えると、ともかく、分配の原資を増やすには、政府債務を増やし、銀行の融資を増やすことが必要です。そして、政府債務や銀行融資を増やすのを阻んでいる障害を取り除く必要があります。
 この20年日本で行われてきた、政府の借金を減らそうとする政策(消費税やプライマリバランス論)や銀行の貸し出し時のリスクをより厳しく見る規制は、すべて、分配の原資を減らす政策といえます。これらは、分配の原資を増やすという目的で行われてきた面があります。全く逆向きの政策を行って来たことになります。
 これをいかに克服するかという議論になります。

2. フロー(生産)の原資
 もう一つ重要なのがフローの分配です。ここでも議論が混乱していますので整理します。
 モノやサービスが生み出され、提供される(ものの生産と提供を以下ではサービスに含めます)と、その背後ではお金が動きます(これをフローということにします)。逆にいえば、お金が移動するとサービスが発生します。
 お金は人や法人の間で移動するだけで、増えることも減ることもありません。しかし、それに付随してサービスが生産され、それを受ける人が出ることで我々の生活は豊かになっています。このサービスの生産とそれに伴うお金の動きの総量を見ているのがGDPという指標です。
 この生み出されたモノやサービスは、社会の中で分配されます。この国の総量がGDPであり、これを人数で割れば一人当たりの生産性になるわけです。このモノやサービスの生産と受け渡しと同時に、反対向きにお金が動きます(従ってここではこれをフローと呼びます)。フローの原資を増やすには、生産性を高めることが有効です。
 ところが、日本はデフレが続いています。これは、供給力に対して、需要が小さいことを意味します。だからモノの値段が下がる訳です。既存のモノの供給力を高めるような意味で生産性を向上しても、需要が足りないのですから、ますますデフレが深刻化するだけです。
 だから、新たな需要を生み出して、生産性を高めなければいけない訳です。このためには、2つの方法があります。
 第1の方法は、新しい需要を生み出すような新規事業を生み出すことです。これは単純には、事業を成長させることです。ただし、他の会社が生み出している付加価値を奪って、自社の成長を実現しても、社会や国レベルで見ると総量は変わりません。新たな顧客の需要を生み出すことではじめて原資が増えるわけです。
 第2の方法は、政府が需要を生み出すことです。現在議論されている、国防や経済安全保障やインフラの強靱化や基礎研究の強化などの、民間では投資が困難なニーズへの投資を政府が行うことで、需要が生まれます。それにより生産が生まれます。すなわち、国の財政支出を増やすことで、原資が生まれるということです。
 結局、新しい需要を生む事業を創るか、政府が新たな需要を生み出すために財政支出をするかが必要ということです。特に即効性があるのは後者です。

3. 統合した原資
 分配にはストックとフローがあります。その両者の原資を増やす必要があります。
 そのためには、第1に、銀行から借り入れをして新規事業をつくることです。第2の政府が財政支出を増やして、公共事業を拡大することです。
 この両方が大事です。プライマリーバランスや財政規律論は、後者を不可能にする政策です。


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