ステレオタイプの見方に注意~既存勢力が悪とは限らない
今週以下のニュースが話題となりました。
銀行絡みのこの手のニュースを見ると普段銀行部門の存在にさほど興味がない人でも鬼の首を取ったように既得権益や参入障壁といったフレーズを想起させて、銀行は古い・非効率・努力不足等の論陣を張りたがるように感じます。これらの指摘が全て間違っているとは思いませんし、銀行部門が変わるべき過渡期に差し掛かっているのは異論の余地がないところでしょう。
しかし、上記のニュースを受けて「欧米は送金手数料が安い」という角度で論を進めるのは如何なものかと思いますし、まして参入障壁云々の議論も少し腹落ちしません。
まず、欧米には口座維持手数料というコンセプトが日本よりも古く根付いている一方、日本は長年無料でした。この差は決して小さいものではないはずです。また、日本人が長く親しんで利用している高機能のATM網も日本ほど敷き詰められている国は珍しいという実情もあります。今でこそキャッシュレスの波が来ていますが(危機で現金回帰しているという日経報道(※1)もありますが・・・)、日本の世の中として現金主義が長く続き、市井の人々がATM網の恩恵を享受してきたのは紛れもない事実のはずです。金融サービスにおいて欧米が進んでいる部分が多いのは事実だとしても、何が何でも「欧米がベター」は適切ではありません。個別論点を切り出して議論を進めると全体像を見失うでしょう。
また、参入障壁という論点にしても、銀行の送金サービスは参入が禁止されているわけではないかと思います。フィンテック企業が既存銀行と同程度の堅牢性や信頼性を担保して、申請して既定基準をクリアすれば参入できるわけですから、そうすれば良いだけだと思います。そういう意味で参入障壁が不当に高い、守られている、既得権益などというフレーズは少し違和感を覚えます。現にネット専業銀行は参入し、上手く立ち回っているかと思います。「新規参入はしたいが、既存プレーヤーの従っている規律には従えない」というのは通じず、それで爪弾きされたのがリブラだったわけです。
とかく「新しい勢力が正義で、古い勢力が抵抗している」というステレオタイプな見方は分かりやすいものの、必ずしも正しいとは限らないはずです。銀行憎しの議論が日本では支持されやすいだけに、冷静な視座を持ちたい所です。このように書くと「ポジショントークだ」という声も出てきやすいかと思いますが、その上で銀行部門が岐路に立たされているのも認めなければならない厳然たる事実かと思います。新規参入業者が沢山出てきて、結果的に既存業者も努力して追随する、という展開になれば良いなと思います。