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クッション1つはさんで人間関係を楽にする技術 ('24法政ライフキャリア論 「すごい会議」太田智文さん回)

プロティアン=変幻自在なキャリア、をテーマとした法政講義では、会議を通じた組織変革で著名な『すごい会議』の太田智文さんにも登壇いただく。

とはいえ3ヶ月前まで高校生だった相手に、企業組織改革、とは難しいので、「これまでの学生生活の中での、人間関係の悩みを、ビジネス目線で見直すこと」をテーマに設定した。レスリング選手が柔道に出場するかのような専門外だけど、ビジネス思考入門編、としてちょうどよくなった感触。

プロの技は、細部から違う。発する一言、間のとりかた、視線ふくめた細かな所作、一つ一つのの洗練度&完成度が高い。今の大学生世代は目立つことを避けがちで、とくに大教室では遠慮がちなのだが、次々と質問が出てくる。すばらしいパフォーマンスをステージ上の一番近くで見れるのが、こういう講義の楽しいところ。

今回、まとめていうと、「1つクッションをはさむこと」による効果、だと思った。


「私が言うには」

6月29日の日経記事:"令和なコトバ「内面開示」 ただの雑談のはずなのに緊張" に、自分の好きなものを話すことにも抵抗感ある若者世代がとりあげられている。

SNSネイティブな世代は、コミュニケーションに対して鋭敏だ。しかしそのままでは損。「好きなものなら気軽に話せるだろう」と親切なつもりの年上世代の投げかけに緊張してしまうのは損。

そこで、「クッション言葉」を1つはさむことで、自己主張が格段に楽になる。

A.「このスマホケースは紫色です」
B.
私が言うには、このこのスマホケースは紫色です」

*このスマホケースは黄緑色!

この違い。B.のようにワンフレーズをはさむだけで、聞く相手の受け入れ姿勢が大きく拡がる。ということは、話す側が楽に話せるようになる。教室中が深くうなずいていた。

これを一般化すると、

①「私にはこのように見えています」、と自分の立場を明確にする。
②すると、ちょっと変なことですら、堂々と言えるようになる。

ということで、つまりは、

① まず自分が変わることで
② 相手の変化を自然と誘発する

という関係ができている。

外にも、

「成長するビジネスパーソンは、素直=Coachableな人」

「やってみて、失敗してみればいい」

といった言葉も教室内の納得度が高かった。「素直」であるとは、「自分が正しい」という認識を、一時的に消してみること

そして、①やってみる=自分自身が変わると、②それを見た相手(とくに上側の人)が、見方を変え、評価を上げる。するとチャンスが増えてきて、成長の軌道にのる。

「素直&行動、というクッション」をはさんで、世界と向き合ってみること、ともいえる。

素直さの重要性は他のゲストさんたちも共通して言う。重なると説得力がでてくる。プロティアンキャリアでいう「環境適応」=Adaptabilityの重要性だ。自分探し=Identity追求だけしていてはダメ。

「高校生フリーライダー」問題

もう1つ。今の高校は(高校による差が大きいと思うが)グループワークでの活動が普通にある。高校生から「フリーライダー問題」=サボって、グループの成果にだけ乗っかる人、という概念を体験してる学生さんもいる。高校=詰め込み勉強、みたいなのはもはや前世紀だ。

この問題には、どのようなクッションをはさめばよいのか?

「ビジネスの世界ではそもそも平等はない。できる人に仕事が集中し、昇進していくもの」
「わりきって、その人にもできるような単純なタスクを用意し、与え、できたら褒めればいい」

というのが、太田さんの回答。聞いた学生さんが最初びっくりして、深く納得していた。

たぶん高校で先生方がグループワークなどを通じて目指している理想的世界観とは異質なのだと思う。高校とビジネス(とくに経営層)との違いは当然あるわけだが、現実にふりきっていればこそ、嘘がなく、救いとなる場合もある。これまで「フリーライダーずるい、私に負担が集まる」と被害者意識になっていたものが、「おかげでリーダーシップを鍛えられる、社会に出て発揮してみたい!」と転換できるようになる。逆側、貢献できてない側にとっても、「できることを自分なりにやれば感謝される」わけで、救いとなる。

別の質問では、「1000人の組織で大事な会議を開く、あなたなら何人を呼ぶ?」この投げかけに、学生さん「できるだけたくさん?」と答える。太田さんは「3人に絞る」

ビジネスの世界はこうして動いていく。このイメージがあれば、就活で多数あるらしい「サークルの副部長アピール」がズレがちな理由もわかる笑。

この手法は、相手(環境)をいきなり変えようとしない、ということ。かわりに、「人の集団とはそういうもの、リーダーシップとはそういうもの」という新しい認識を、はさむ。

抽象化していえば、

① 今の相手(環境)のままで、まず自分自身の認識を変える
② すると相手(環境)が変わろうとし始める

ということ。
結果として、自分が楽になる。

現実はなかなか変わらないが、①その現実を自分はどのように見るのか、という認識は変えられる。すると、相手に対して効果的な働きができるようになり(できることだけをやってもらって、褒める)、②最終的に、相手が変わり、環境が変わる。

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雨域:7/31 日経電子版オピニオン「COMEMO注目の投稿」に選出:

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以下、講義録として、キャリア理論の解説です。

付録:プロティアンキャリアで説明すると

ここで頭の体操として、この太田さんのお話全体をプロティアンキャリア理論にあてはめてみたい(なぜならそれテーマの講義だから)。そのためには、対象を、個人のキャリアではなく、太田さんが指導する会社組織へと置き換えればよい。

まずIdentity/Adaptability 軸でみると、

  • 太田さんの仕事とは、「組織の適応力=Adaptabilityを高めること」といえる

  • 会社組織とは、いろいろなIdentityを持った社員が集まり、それぞれAdaptabilityを発揮して、1つの組織Identityを形成する場

  • そのAdaptの過程では、まず「目的を明確にすること」がなにより大事

  • 講義も、1つの組織集団のようなもの。だから「講義参加の目的」が大事。それぞれの参加目的を明確にし、全員の共通点を明確にする

といえる。次に、資本の視点でいえば、

  • 太田さんの仕事とは、「組織の社会関係資本を育てること」ともいえる

  • 会社組織の財産は、おカネに変えられるもの(商品やビルや工場など売れるもの)=金融資本ぽいもの、だけではなく、稼ぐための知恵・ノウハウ=ビジネス資本ぽいもの、さらに、社員同士のコミュニケーションそのもの=社会関係資本ぽいもの、もある

  • このうち、社会関係資本の部分を、社員同士のコミュニケーションの方法を改善することで、育てている

ともいえる。

このように理論にあてはめてみることで、個人のキャリアも、会社組織も、育てるための共通の法則が見えてくる。世の中、いろいろな情報があるけど、つきつめると、シンプルな原則にいきついていく。

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八田益之(「大人のトライアスロン」日経ビジネス電子版連載中)
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