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「自律分散型経営」には、有事への備えが肝心

ロシアとウクライナの情勢が長期化し、イスラエル・ハマスの軍事衝突も収束を見せないまま2024年に突入した。今年は複数の国で国政を左右する選挙が重なるスーパーサイクルの年であり、地政学的な不安定さは続くことが予想される。

これは、グローバルに事業展開する日本企業にとっては大きな環境変化だ。組織やサプライチェーンを経済合理性の視点だけから組んでしまっては、必ずしも紛争や国同士の対立などに備えられない。そのため、日立製作所のように世界をエリアに区切り、エリアの中である程度閉じた運営をする「自律分散型グローバル経営」を志向することは理にかなう。

これは日本企業に限らないトレンドだ。例えば、欧州企業が中国での製造を欧州に戻す動きは顕著である。また、経営を分散化するため、世界統括の責任を減らし、代わりに各地域にマーケティング責任者を置く消費財企業などの動きも「自律分散型」を目指す証しだろう。

実際、「自律分散型」ポートフォリオの構築や組織運営のサポートを依頼するコンサルティングの需要は大きい。しかし、この実践は言うはやすし。見落とされがちな二つの視点を提示したい。

まず、「隠れた関連性」に注意したい。エリアを分けてそれぞれ独り立ちさせたつもりでも、実はあるエリアの地政学的な問題が他のエリアに飛び火したり、直接紛争にならないまでも大きな影響を与えたりすることがある。

例えばイスラエル・ハマスの軍事衝突は西欧諸国で親イスラエル派と親パレスチナ派の分裂を生んでいる。ソーシャルメディアの発達により、企業の政治的なスタンスがより問われるようになった現在、姿勢の打ち出し方によっては、企業ブランドを大きく損なう結果になってしまう。サプライチェーンと市場を「自律分散」させても、地政学的な問題によって、複数のエリアが「共倒れ」するリスクは残る。

次に、実際に紛争が起こったエリアから、「安全に素早く抜けられるか?」という問題がある。ロシアとウクライナの情勢が変わった2年前、西欧諸国が非難するロシアから事業を引き上げる速度において、グローバル企業のばらつきが目立った。遅くなった企業は西欧の消費者から非難を浴びたが、これはいくつかの理由で退出が難しい事情を抱えたためと思われる。

まず、ロシアでの売上割合が大きい場合、確かにためらうだろう。さらに、バックオフィスの事情も見逃せない。例えば、グローバルITシステムとの依存が大きい場合、おいそれとローカルな事業を畳めない。また、グローバル経営において、スケールメリットを取るために人件費の安い地域にバックオフィス業務を集約する「シェアド・サービス」はよく取られる手法だが、ロシアの業務をシェアドで請け負っている場合、これを解きほぐすのに時間がかかる。

さらに、ロシアでの組織構造が入り組んでいて、現地パートナーがあったり、法的なエンティティが複数入り乱れていたりする場合、清算や売却が遅くなってしまう。

このような教訓を踏まえると、「自律分散型グローバル経営」を実践するには、サプライチェーンとフロントオフィスの地産地消にとどまらず、一貫した企業姿勢の打ち出し方から各エリアの「切り離し可能性チェック」まで、検討項目が複数あることがわかる。

世の動向により、地政学環境の変化は受け入れざるを得ない。経営者は「グローバル経営」の意味を本質的に検証する必要に迫られている。

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