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若手社員から学ぶことで得られるもの。部署や世代を越えたコミュニケーションは「組織活性化」以上の効果につながる。

皆さん、こんにちは。今回は「若手社員から学ぶこと」について書かせていただきます。

若手社員がメンターとなって、上司や先輩社員に何かを教えたり、アドバイスをすることを「リバースメンタリング」と言いますが、このような手法を取り入れる企業が増えてきました。実際に正式な“制度”として導入していなかったとしても、日常的にベテラン社員が若手社員から学ぶ場面は多々発生しています。かくいう私も、若手社員から日々多くのことを学び、吸収し、実務に生かすサイクルが自然と出来上がっています。

リバースメンタリングの元をたどると、1990年代後半にゼネラル・エレクトリック(GE)が若手にITスキルを教えてもらう機会を作ったことが始まりだと言われています。その後、多種多様な業界で同様の活動が取り入れられ、現在では日本企業での導入も目立ってきており、コミュニケーションの活性化につながる制度として注目されているのです。

若手社員から何をどのように学ぶべきなのか。
その結果得られるものは何なのか。具体的に考えていきます。

資生堂は、若い世代が年配者の先生役となる「リバースメンタリング」で組織を活性化している。若手社員が幹部に先端のデジタル技術や消費トレンドを教え、新規事業も議論する。組織の垣根を越え、異世代での立場を逆転させた交流に延べ1千人が参加した。変化の激しい時代にイノベーションの土壌をつくり、若手のキャリア形成の意識を高める効果も生む。

■「若手社員から学ぶこと」で得られる6つの効果

リバースメンタリングの一番分かりやすい事例は、「最先端のIT技術」や「世の中で流行っているトレンド情報や知識」などを若手社員から教えてもらうことではないかと思います。

残念ながら年齢を重ねれば重ねるほど、最先端のトレンドに疎くなっていってしまう人は多いはずです。「どのようなアプリやサービスが流行っているのか」「どのようなデジタルツールを使いこなしているのか」「若い世代ではどのようなことに関心があり、どのようなことがよく話題になるのか」など、若手世代を取り巻く知識や情報をキャッチアップしておくこと、世の中の動きを的確に把握しておくことは、どのような仕事であれ大事なことです。

さらに、「知識やスキルの習得」だけでなく、「若手世代の価値観を知っておくこと」、そして「ベテラン社員の価値観も伝えること」によって相互理解を深めていくことも、チームや組織で一緒に働く上で同じくらい重要な要素です。

引用した記事には、

かつての資生堂は日本企業にありがちな「組織の縦割り」「年功序列」が強く、年の離れた社員同士のコミュニケーションは活発とはいえなかった。14年、日本コカ・コーラ出身の魚谷雅彦氏(現会長)が社長に就いた後、グローバル化や外部人材の登用を加速。RMは多様化する組織の絆を強め、立場の異なる社員同士が率直に意見を交わし、イノベーションを生む土台づくりの役割も果たすようになった。

とあります。このように、立場や育ってきた時代背景の異なる社員同士(主に年の離れた社員同士)のコミュニケーションを活性化し、お互いが学びを得られる状態を構築することによって得られる効果は以下のようなものです。

1、新しいアイディアや視点を持つことにつながる
→これまでの経験や知識をもとに、日常的に関わる人たちだけでアイディアを出し合うよりも、若手社員からも学ぶ姿勢を持つことで、伝統的なアプローチ手法にとらわれずに、従来よりも創造的な発想や解決策を得ることができます。

2、新しい技術やデジタルツールなどの知識を得られる
→デジタルリテラシーの高い若手社員は、最新の技術やデジタルツールに詳しい人が多いです。働き方改革の流れもあり、生産性向上への意識も高いため、DX化や効率化のためのスキルを持っていることも多々あります。このような分野こそ積極的に若手社員から学び、知識を増やしていく必要があると思います。

3、優秀な若手社員の育成と定着につながる
→若手社員にとって、自分の働く組織が学びや成長の機会を提供してくれる場であるかどうかは非常に重要なポイントです。知識や経験を共有し合うことができる環境、刺激を与えたり与えられたりすることができる環境があることは、優秀な人材の定着にも直結します。

4、組織全体のモラルやモチベーションの向上につながる
→若手社員から学ぶ機会を作ることで、一方的な上司から部下へのコミュニケーションだけでなく、相互理解を深める過程を通じて、組織全体のモラルやモチベーションを向上させることにもつながります。信頼関係が深まることで、仕事に対する情熱やエネルギーを高めることにもなります。

5、組織全体のチームワークや一体感の創出につながる
→部署や世代を越えてコミュニケーションを取り連携を深めることで、効果的なチームワークを生み出す可能性が高まります。業務内容によっては、関わる人や業務範囲が限定されることで孤立感を持つ人が少なくないですが、「縦」だけではない「ナナメ」のつながりや人間関係の構築は、組織への帰属意識やエンゲージメント向上にも寄与し、結果的に会社の競争力を高めます。

6、若手社員の持つ力を早期に引き出すことにつながる
→若手社員が、部署も能力も経験も異なる様々な人とのコミュニケーションを通して、人に「伝える力」や「教える力」を引き上げることにもつながり、将来のリーダーを育てる機会にもなります。人に何かを教える機会そのものが、マネジメントスキルを向上させるきっかけになるのではないかと思います。

まとめると、若手社員から学ぶ機会を作ることが、個人の成長機会を生み出し、組織にとってイノベーションを生み出すための組織風土の基盤にもなり得ます「異なる立場や意見を持つ人同士でコミュニケーションを取ること」や「異なる世代間で知識や経験の共有をすること」は、組織の競争力を高めるための重要な手段の一つなのです。

  • 年功序列で、年齢や勤続年数を重視する企業

  • フラットな組織というよりも“トップダウン”型の企業

  • 平均年齢が高く、上が詰まっている状態の企業

というような状態にある企業ほど、リバースメンタリングのような手法を導入した方が良いと思います。導入によって組織の硬直化を緩和し、組織の活性化を後押しすることになるはずです。

■若手社員のアイディアを効果的に引き出す工夫

実際に若手社員のアイディアが「企画・商品開発」や「新規事業創出」、「新たな収益源の発掘」などにつながるケースも事例として着実に増えています。

JR東海が新たな発想による収益拡大策を相次ぎ打ち出している。1日、JR名古屋駅の1番線の線路の上に居酒屋「世界の山ちゃん」が開店した。駅ナカの充実は鉄道各社が力を入れるが「線路ウエ」の店舗は珍しい。きっかけは20代の若手社員のひと言で、意外な発想のくみ上げが実現につながった。

伊藤忠商事はキャラクターが動画を配信する「VTuber」を活用した医療情報の配信に取り組んでいる。オリジナルの動画を制作し、医師から高い評価を受ける。保守的な医療業界と若年層からの人気が高いVチューバーとの意外な組み合わせは、若手社員が組織の垣根を越えて知恵を出し合い、密に連携したことで実現できた。

クボタが二酸化炭素(CO2)排出量の削減につながる新規事業を創出するため、スタートアップとの連携を強化する。

若手社員の発想やアイディアを効果的に引き出すためには、以下のような工夫が必要です。

●アイディアを出しやすい、自由でオープンな雰囲気を醸成する。
→自分の意見を堂々と言えるようなフラットな組織文化がないと、せっかくの良いアイディアを引き出すことができません。若手社員が自分の意見を伝えやすい雰囲気を醸成し、アイディアを発表したり、好きなことや得意なことを人に伝えたいという意欲を掻き立てるような文化にしていくことが大事です。

●アイディアを育てる場や機会を作る。
→発明的なアイディアがいきなり生まれることはありません。何か少し別の角度からの着眼点やひらめきを、チームの中でのディスカッションを通じて大きく育てていく場を意図的に作った方が良いでしょう。周囲の人の力を借りて自分のアイディアが膨らんでいくことで、感謝の気持ちや組織への貢献欲も高まります。

●社内外のネットワークをフル活用する。
→異なるバックグラウンドや経験を持つ人との交流を通じて、自部署にない視点、自社にない視点を取り入れることができます。若手社員が広く情報や経験を共有し合えるような人脈形成やコミュニケーション活性化の仕組みを複数用意することが有効です。

●アイディアをアウトプットすることでのメリットを明確にする。
→たとえば、アイディアコンテストのようなものに応募することで「新規事業を自分で立ち上げるチャンスがある」というような明確なメリットを提示することも有効です。優れたアイディアに対してその対価や報酬を提示することで、認知が広がり、より多くのアイディアを集めることもできます。

●アイディアを練るために必要なインプットやスキル向上の機会を提供する。
→アイディアを練るためのトレーニングの場やスキル習得の場を作り、基礎的な考え方や、前提となる情報提供を積極的に行うことで、個々人の自信につなげることができます。上司や先輩が若手社員をサポートし、彼らのアイディアを大きく育てたり、実行フェーズにおいて一緒にコミットすることも重要です。

●アイディアを提案してくれた社員に対して、しっかりフィードバックを行う。
→何が良くて何がダメだったのかを的確に伝えることで、次回以降の提案の精度が上がっていきます。ただ意見やアイディアを吸い上げるだけで終わらないように注意する必要があります。せっかく出した意見に何のフィードバックもないと、本人が「頑張っても無駄」「ただアイディアを搾取されるだけ」と感じてしまいがちです。

これらの工夫によって、若手社員からのアイディアを効果的に引き出し、組織のアウトプット力や企画力、設計力、実行力などを高めることができます。

■サイバーエージェントの事例

当社での若手社員の活性化施策は、おそらく数えきれないくらい存在しますが、一部ご紹介させていただきます。

●「若手横断組織」の設立と必要な施策の立案&実行
→上司や先輩が指示をした仕事だけをやっていれば良いという文化ではないため、若手主導で自主的な横断組織を立ち上げ、会社の経営課題や若手社員が抱えている課題を解決するための施策を自ら考え、実行しています。抜擢された社員が研修機会を得て、知識やスキルの向上を目的としてお互いに切磋琢磨するような場もあります。

●新規事業立案や経営課題解決案の提案
→年1~2回、「あした会議」と言われる会社の未来を考える会議体が存在します。若手社員がチームのリーダー、もしくはチームの一員となり、新規事業案や組織課題解決案を考え、プレゼンする機会があります。

●アイディア立案コンテストの開催
→これまでも数々のアイディア立案コンテストを開催してきましたが、来月は「生成AI徹底活用コンテスト」というコンテストを社内で開催予定です。今話題の生成AIを活用し、どのように業務に生かすのかを徹底的に考える機会となりますが、若手社員からベテラン社員まで幅広く自分のアイディアを企画・立案できます。(なんと賞金総額1000万円です。)

●自分のこれまでの歴史やバックグランド、価値観などを役員向けに発表
→会社の規模が大きくなるにつれて役員と若手社員の接点が薄れていってしまいますが、定期的に活躍社員と役員の接点を作り、若手社員を深く知る機会を設けています。“自分史”を役員向けに発表する機会はその一つです。


つまり、

1、若手が自分の考えやアイディアを発信する場が多くあること
2、自ら立案した企画などの実行責任が伴い、やりがいを感じやすい状態にあること
3、部署横断の横やナナメのつながりが密にあること
4、年齢や職種を越えて、異なる立場の人同士が相互にコミュニケーションを取る機会が多いこと

というような状態を構築することによって、若手社員の能力ややる気を適切に引き出していくことが重要なのではないかと思います。そのためには、ベテラン社員が積極的に「若手社員から学ぶ」「若手社員の意見に耳を傾ける」という姿勢を持ち続けなければなりません

当たり前のことのように思えますが、年齢や経験を重ねると、自分なりのやり方が確立されてしまうため、人の意見に耳を傾けるという機会が少なくなるばかりか、「若い世代から“学ぶ”なんてもってのほか」と感じてしまう人は少なくないと思います。

しかし、あらゆる産業のデジタルシフトや環境問題、働き方や就労に関する価値観など、従来の価値観だけでは対処が難しい経営課題はどんどん増えていきます。若手世代が何を考え、何を重視し、どのような考え方をしているのかなど、その発想に耳を傾け、企業経営に生かしていかなければなりません。

社会構造や価値観の変化が激しい時代において、これまでの常識や勝ちパターンは早いサイクルでアップデートされ続けていきます。経験や実績が十分なベテラン社員も、過去の成功体験だけに囚われず、若手社員のアイディアや発想に突破口を見い出していく必要があるのではないでしょうか。

日常業務で上意下達がベースにあるような組織では、部署や世代を越えた相互コミュニケーションが十分とは言えません。リバースメンタリングのような若手社員からの学びの機会を通して、能力やスキルを倣い、若手社員の本音を知り、個性や個々の意志を尊重しながら、成果の最大化、及び企業価値向上へと直結させることの価値は計り知れません


#日経COMEMO #NIKKEI

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