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グローバルビジネスで重要な「宗教」との付き合い方

正月に神社に行き、夏にはお寺に盆参りに行き、年末にはクリスマスでキリストの生誕祭を祝う。最近は、秋にハロウィンで大盛り上がりを見せる。そのような日本は、無宗教であり、どのような宗教行事もお祭りとして受け入れてしまうごった煮の文化的特徴を持つ。これが良いことか悪いことかは置いとくとして、世界的には特異であることは間違いない。多くの国では、宗教が文化や人々の価値観に及ぼす影響は小さくない。

特に、イスラム教圏は宗教による影響がひときわ強い傾向にある。イスラム教を国教と定めるマレーシアも、信教の自由を認めているものの、宗教による影響が強い国の1つだ。マレーシアのイスラム教徒は人口の約6割程度だが、連邦立憲君主制をとっており、国王はイスラム世界における君主号であるスルターンである9人の州王による互選によって決まる。

そのようなマレーシアで、日本の伝統文化の盆踊りが政治騒動となっているという。長年、マレーシアで人気行事として受け入れられ、州王からも認められた活動だが、イスラム保守政党が問題視している。

近年、イスラム教徒の多い国では、このような「イスラム教の伝統的な教えを守るべき」だとする動きが強まっている。マレーシアでは、90年代後半から00年代に推進されたIT先進国政策によって、イスラム教による制限や教えの順守が緩和される傾向にあった。しかし、2010年代後半から、緩和しようという動きを見直し、厳格さを重視しようという声が大きくなっている。同じような動きは、インドネシアやバングラディッシュなどの他のイスラム教圏の国でも見られる。

さて、このような宗教の影響だが、日系企業の現地法人の経営者や現地スタッフと話をしていると、日本人駐在員や日本本社のグローバル戦略での懸念事項となるケースが多い。それというのも、日本人駐在員や日本本社に宗教を重視するという価値観がないために、現地の人々の宗教に対する姿勢や考え方を理解することが難しい。

例えば、マレーシアは国境をイスラム教徒定めているが、信教の自由がある。そのため、他の宗教行事にも敬意を払い、祝日や休業の設定を行うことが多い。中華系住民のために旧正月を休みにしたり、キリスト教系住民のためにクリスマス休暇が設けられる。ホテルのビュッフェなどの飲食の場でも多様な宗教に配慮して、品数が豊富に揃えられることが多い。

こういった宗教に対する敬意や配慮が、宗教観の薄い日本人にはいまいちピンと来にくい。ハラルフードの対応をしたり、女性従業員が肌を人前で露出しないような服装をするなどの行動はチェックリスト的に対応ができても、「なぜローカルスタッフがそれを重視するのか」という文化の理解が難しく、コミュニケーション上の問題となるという声はたびたび耳にする。

このような現地の宗教を理解して、適応することは学術的には駐在員の異文化適応の文脈で語られることが多い。例えば、INSEADのブラック教授は、マレーシアでの事例として、公共の場で男女仲睦まじくデートをしていた白人男性がムタワ(宗教警察)に拘束され、強制送還される事件を紹介している。イスラム教圏の国には、通常の警察とは別に、イスラム教徒としてふさわしい行動をとっているかを監視する組織が公的や私的に設けられていることが多い。現地の宗教観を理解することは、駐在員の異文化適応のために必須だ。

国によっては、キリスト教の聖人のお祝いであるバレンタインデーを不道徳なものとして捉える国もある。

しかし、グローバルビジネスやマネジメントの文脈で、ことさら宗教の重要性が語られる場面は少ない。グローバル環境でのコミュニケーションの問題を取り上げた、INSEADのエリン・メイヤー教授の『カルチャー・マップ』でも宗教についてはほとんど書かれていない。

宗教についての理解が浅くて薄い日本人にとって、グローバルビジネスにおける宗教の扱いと付き合い方、理解を深めて敬意を持つことは必要なスキルだといって差し支えないだろう。

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