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副業政策のゴールはどこか

三井物産では、労組が人材戦略を提言し、副業制度につながっており、労働者側からのプレッシャーで副業を解禁するという流れが見られます。

働き方改革以後の副業実施状況

働き方改革以降、政府をあげて進めてきた副業推進政策ですが、「副業をやっている人」と「副業希望者」とでは、後者の方が多い状況であり、「やりたいけどできない」という状況になっています。
さらに、働き方改革で、この差は縮まるかと思うと、そうではなく、令和4年度就業構造基本調査の結果では、むしろこの差は広がっています。

総務省「令和4年度就業構造基本調査」より

副業実施者は増えていること、副業希望者も増えていることをとらえて、副業推進政策には意味があったとみることもできるでしょうが、やはりこの差が広がったことはやや残念とも言えます。

ただ、副業推進政策のゴールはどう見るべきかというと、それもまた難しいように思われます。

法的観点からのゴール

まず、法的観点から考えてみると、これまで私のnoteで繰り返し述べてきているとおり、副業は原則として労働者の自由と解釈されています。これは、働き方改革前から、裁判実務上定着した考え方です。

ところが、雇用慣行上は、「副業はやってはならない」という慣行が強く、いまだに「副業は原則としてできない」と考えている企業、働き手も多いです。

実際、「副業は禁止」と就業規則で定めている例も多く、法的観点からは、まずこのような就業規則が見直されることが一つのゴールになると思われます。

慣行の変革のゴール

上記とも関連しますが、働き方改革の副業推進政策として、まず行われたのは、①モデル就業規則の改定(原則禁止⇒原則OK)、②副業・兼業ガイドライン策定です。

重要なのは、これは法改正を伴う政策ではないということです。
つまり、働き方改革がやろうとしたのは、「もともと副業は原則として自由であったのに、原則禁止とする慣行があるので、この慣行を変えていこう」という慣行の変革、機運醸成の政策であったと言えます。

その後、副業・兼業ガイドラインは改定され、複数事業労働者の労災保険制度や雇用保険マルチジョブホルダー制度の創設といった法改正もありますが、これも「原則として自由」ということを前提とした環境整備の政策です。

したがって、こうした「副業は原則禁止」という誤った慣行の変革も、一つのゴールといえそうです。
この点は、副業希望者の増加からみて、少なくとも働き手においては、やや変革の兆しが見えつつあると言えるかもしれません。

何人が副業すればよいのか

最も難しいゴールとしては、「じゃあ何人の人が副業してれば政策目的を達したことになるのか」というと難しいところです。

参考までに、欧米諸国の状況をみると、まず、2018年のJILPTの「諸外国における副業・兼業の実態調査 ―イギリス、ドイツ、フランス、アメリカ―」によると、欧米の就業者全体に占める複業就業者の割合を見ると、イギリスでは3.9%(112万人)、フランスでは5.4%(139万人)、ドイツでは6.9%(307万人)となっています。
アメリカでは、自営業を含む複数就業者のデータはないものの、主・副ともに被用者の場合で4.9%(755万人)となっています。

このようにみると、欧米と日本とで、それほど大差はないようにも思われます。
いくら日本でも「副業が当たり前に!」といわれるようになりつつあっても「就業者の半分の人が副業をしている」ということにはらないように思われます。

ただ、かつて欧米の副業制度の調査を行った際に、「副業はやってはいけない」という意識は低いという声が聞かれ、慣行の面では違いがあるかもしれません。

日本独自の政策目的もあるのではないか

上記の欧米諸国との比較でみると、量的な面では、欧米諸国と比べても遜色ない状況です。
とすれば、「もうこれ以上の推進政策はいらないのではないか?」とも思えそうです。

しかし、個人的には、そこはNOだと思っています。

やはり、法的観点から「原則禁止」と思っている企業・働き手が相当数いること、雇用慣行としてもそう思っている企業・働き手が相当数いることから、その点の改善は求められます。

また、日本型雇用慣行に変革の兆しがあるとしても、すぐには変わらないとすると、日本型雇用慣行を維持しつつも労働市場の円滑化を図る手段として、副業・兼業という選択肢が有効となり得ます(昨今の政府の副業推進政策は、この「円滑な労働移動」の手段として位置づけられています。)。

さらには、欧米諸国と比べると、日本は少子高齢化の先進国といえ、今後働き手は減っていきます。
そうすると、「既に欧米と同じくらいの副業者数だからOK」ということにはらず、人材獲得という観点から、やはり今後も、副業・兼業の推進が必要になってくると思われます。


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