様々なタイプの起業家がスタートアップを活性化させる
起業家のバリエーションが増えてきた
一昔前までは、起業家、特にスタートアップの起業家というとITや先端テクノロジーを駆使する20代~30代の若者というイメージが強かった。代表的な起業家は、24歳でサイバーエージェントを立ち上げた藤田晋氏や、32歳で楽天(当時はエムディーエム)を立ち上げた三木谷浩史氏だ。そして、成功した起業家はそのまま自分の会社の経営者を継続するか、バイアウトをして投資家として起業家を支援する立場に回ることが多かった。
しかし、日本経済新聞の記事にもあるように、成功を収めた起業家が経験を活かして更に大きな挑戦をするケースが増えてきた。
スタートアップに特定の型を絞らない
一方で、スタートアップを目指す起業家を支援する施策をみていると、想定している起業家のイメージに偏りがあるようにも感じられる。例えば、多くの国立大学が教員や院生の起業を促すような施策を講じているが、その多くが理系の研究室での研究成果を活かすタイプが想定されている。もっと言ってしまうと、民間企業と組んで、研究開発を委託するR&D型の起業で活用しやすい施策が多い。生命科学領域の研究室が製薬会社からの支援を受けて起業するケースが典型例だ。
それ以外の、自分たちでプロダクトを開発したり、そもそも大学の研究とは関係がないタイプの起業はあまり想定されていない。
また、起業のエコシステムが東京に集中しているため、首都圏以外の地域でスタートアップを目指すことは容易ではない。比較的支援が整っているとされる福岡であっても、日本全国規模や世界を狙うような起業家はなかなか出てきにくく、出てきても事業規模の拡大とともに東京に移転してしまう。
加えて、地方の起業支援では「地域密着」と「地方の課題解決」を前提としたものが多く、スタートアップと言いながらも、事業規模が小さく、成長可能性も限られたアイデアが求められがちなのも課題だ。
スコットランドの田舎町から、世界的なクラフトビールの流行を作り出した『Brew Dog』のように、どこからどのようなスタートアップが生まれるのかはわからない時代だ。それは、先端技術を使ったハイテク産業なこともあれば、クラフトビールや中国の大人気ティードリンクチェーン「HEYTEA(喜茶)」のようなアナログな産業から生まれることもある。
最近、首都圏や福岡などで起業支援に携わる人や起業に興味を持つ若者と話をしていると、「スタートアップとはかくあるべし」と特定の型に凝り固まった発想の人と出会う機会が少なくない。しかし、毎年、次から次へと出てくるユニコーン企業の一覧を見ていると、スタートアップに型なんてないことを思い知らされる。それほど、業種も業態も多様であるし、起業家のバックグラウンドも様々だ。
中には、アメリカの地方都市で趣味の帽子とアクセサリーのお店を営んでいた若い女性がふとしたきっかけで、カスタムオーダーメイドのジュエリーECサイトでユニコーン企業にまで上り詰めた事例もある。先述した『Brew Dog』の創業者2人が起業する前の職業は漁師だ。
日本では、若者だけではなく、シニア人材の起業からユニコーン企業が生まれる可能性だって大いにある。健康寿命は長くなっており、知的好奇心も若者に負けない、熟達したシニア人材は数多い。そのような人材が、柔軟な発想で事業を考えることでスタートアップ企業が生まれるだろう。実際に、ネット保険の先駆けとなったライフネット生命を創業した出口治明氏は、60歳を過ぎてからの挑戦だった。
スタートアップとはかくあるべしという固定観念にとらわれることなく、多様な起業家がスタートアップを目指すことで、日本から次のユニコーン企業も生まれ、社会の活性化に繋がっていくだろう。