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エンゲル係数高止まりで広がる生活格差

日本でも、経済的なゆとりを示す「エンゲル係数」がコロナショック以降高水準にあります。背景には、食料品価格の上昇と支出全体の減少があります。コロナ感染に対する恐怖心により移動や接触を伴う支出の節約が続く一方で、世界的に経済が正常化に向かうこと等で食料品の価格が上昇基調にあることが主因となっています。

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そして、日本のエンゲル係数の変化率を要因分解すると、直近9月は食料品の消費量減だけで▲1.2ポイントの押し下げ要因となる一方、食料品価格上昇と消費性向の低下要因を合わせれば+1.6ポイントの押し上げ要因となっています。つまり、食費の節約を凌ぐ食料品価格の上昇と移動や接触を伴う支出の減少が近年のエンゲル係数押し上げの実態となっています。

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ここ元の物価上昇は、輸入原材料価格の高騰を原因とした食料・エネルギーの値上げによりもたらされており、国内需要の拡大を伴わない物価上昇により、家計は節約を通じて国内需要を一段と委縮させています。その結果、企業の売り上げが減少して景気を悪化させていることからすれば「悪い物価上昇」以外の何物でもないでしょう。

気候変動問題を抱えて世界が脱炭素化に舵を切る一方、今後も世界経済が正常化に向かって高い経済成長を遂げれば、世界の食料・エネルギー需給はひっ迫します。また、中長期的にも人口の増加や所得水準の向上等に伴う需要の拡大に加え、世界的な都市化による農地減少も加わり、食料・エネルギー価格は持続的に上昇基調を辿るでしょう。

相対的に食糧・エネルギーの価格が上昇すると、特に低所得者層を中心に負担感が高まり、購買力を抑えることになります。そして、低所得者層の実質購買力が一段と低下し、富裕層との間の実質所得格差は一段と拡大します。更に深刻なのは、我が国では高所得者層が縮小し、低所得者層が拡大傾向を示していることがあります。これは、我が国経済がマクロ安定化政策を誤ったことにより企業や家計がお金をため込む一方で政府が財政規律を意識して支出が抑制傾向となり、結果として過剰貯蓄を通じて日本国民の購買力が損なわれていることを表しています。

こうした中で、日銀はインフレ目標2%を掲げています。しかし、輸入食料品やエネルギー価格の上昇により消費者物価の前年比が+2%に到達しても、それは安定した上昇とは言えず、『良い物価上昇』の好循環は描けないでしょう。このため、日銀のインフレ目標については、米国のように「食料・エネルギー除く総合(コアコアCPI)」のインフレ率を考慮することも必要でしょう。

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