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なぜ日本では新型コロナワクチン接種が進まないのか?

 国内で新型コロナワクチンの接種を受けた接種を受けた医療従事者は284万人超となり、対象者全体(480万人)の約59%、2回完了したのは110万人超で23%程度となっています。高齢者は、6日までに24万人超となりましたが対象者全体(3600万人)のわずか1%未満にとどまっています。

 一方、国民へのワクチン接種が進んでいる欧州諸国では経済・社会活動の緩和への動きが強まっています。

欧州各国で新型コロナウイルスを抑えるためのロックダウン(都市封鎖)を緩和する動きが広がっている。ドイツではワクチンを接種すれば夜間でも外出できるようにし、イタリアは外国人観光客の受け入れを始める。フランスも段階的に制限を撤廃する方針だ。

 政府は「安心した日常を取り戻すことができるかどうかはいかに多くの方に接種できるかにかかっている」と言明し、高齢者接種について「1700を超える市町村のなかで約1000は7月末に終えられる状況だと報告を受けている」と述べ、「1日100万回の接種を目標とし、7月末を念頭に希望する全ての高齢者に2回接種を終える」との見通しを示しました。

本当にスケジュール通りに進むのでしょうか?

 日本で新型コロナワクチン接種がスムーズにいかない点にはいくつかのハードルがあると考えられます。私が考える主な理由は以下の3つです。

① 在庫が少ない

 5月の連休明けには潤沢にワクチンが供給され接種がスムーズに進むだろうと言われていましたが、いまだにそのような情報は入ってきません。自治体によってかなり差はあると思いますが、私の勤務する東京都千代田区では医療者への接種でさえも供与されるワクチンが少なく、必要最低限で請求してくださいと指示がでています。月末からは高齢者向けの集団接種が開始されますが、一日に可能な人数は限られています。市区町村の人口や自治体の権力?によってかなり差があるとも聞きますが、いまだに供給量が足りていないのではないかと推測されます。

② ファイザー製のワクチンの手間

 現在国内で使用されているワクチンはファイザー製の「コミナティ筋注(一般名:コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)」ですが、主成分であるmRNA(メッセンジャーRNA)は環境に不安定なため有効性を保つために使用上様々な制約があります。

 私の施設はワクチンの有効期限である6か月間保管可能な超低温冷凍庫(マイナス60-80℃)がないので、保管可能な基本型接種施設から分与していただき、個別接種をする連携型施設となっていますので、必要に応じて基本型接種施設にワクチンを受け取りに行くことになります。1瓶(ワクチンの瓶はバイアルと言います)で6人分のワクチンが作れるので6の倍数の人数の予約を取ったうえでバイアル数の予約を入れます。但し、一般のワクチンを保管する5℃の冷蔵庫での管理では5日以内に使用しなければならないので、1週間以内しか予約を入れることができません。さらにバイアルに入っている5℃で溶解した濃縮液を生理食塩液で希釈して6人分のワクチンを注射シリンジに分注するのですが、その作業をした6時間以内に全員に接種し終わらなければなりません。具体的には以下のような感じです。

月曜日(6人)・火曜日(12人)・木曜日(6人)・金曜日(18人)
1日に5人とか、10人とかでは残りが破棄になってしまうのでまずこの人数調整にかなり手間がかかります。何とか1日の予約人数が確定してこの場合に必要なバイアル数は7バイアル(42人分)となりますが、5日以内にすべて使用しなければならないので5日以内に予約を集約させる必要があります。さらに基本型接種施設からのワクチン分与日と本数の制限があるので、それに合わせて受け取りにいかなければなりません。

 このような作業を診療の合間に連日行う手間がどれほどのものかお分かりいただけますでしょうか?高齢者のかかりつけが多い開業医などでは6の倍数での予約は難しくないかもしれませんが、それでも手間はかかると思います。このような状況では個別接種がスムーズにいくはずがなく、スピードを上げるには超集団接種でもしないとスケジュール通りにはいかないと思います。すなわち、インフルエンザワクチンのように100人分などを保管しておいて診療の合間などにいつでも接種できるような状況とは全くことなりますので以下の会見には驚愕しました。

③ 自治体の一元管理と融通の利かなさ

 診療所などの小規模施設に勤務する医療者向けの接種では、所属医療機関所在地の医師会が管轄となって管理番号が登録された問診票が用意され、その問診票により区内の連携型医療施設での接種を行うことになり、接種実施医療機関では被接種者の住民票がある自治体へ接種費用を請求することになります。この登録がされていない方への接種はたとえワクチンが余ったとしても実施しないように自治体から指示があるとも伺っています。とにかく一元管理が行われ、副反応などの報告を義務付け、接種費用の請求も手間がかかる等、インフルエンザワクチンのように卸業者から入手したワクチンをただ接種すれば良いというわけにはいかないのが現状です。予防接種法による定期予防接種などでもここまで面倒な作業はありません。これをワクチン接種などを普段行っていない医療者に課すこと自体もブレーキとなっているとも推測されます。

どうしたら効率よく接種できるのか?

 このように新型コロナワクチン接種の効率の悪さは際立っているとしか言いようがありません。打ち手が足りないとの提言もあり歯科医や薬剤師に協力要請を行っているようですが、日常的に業務を行っている方々への新たな負担を考慮するならば、フリーランスを中心とした医師の求人サイトでは多くのワクチン求人が出ており、インセンティブも高く設定されているようですので、時間的余裕がある潜在する医師からの協力を得る方が効率的であるようにも感じます。慣れない人間が恐る恐る接種するよりも慣れた人間をできる限り招集して行う方が効率よく行えると思いますが、地域での集団接種の場合、これは医師会の役割であると考えます。また集団接種では問診者と接種者をあえて分ける必要性もなく、問診をした医師がそのまま接種すればスペースも人員も減らすことができます。さらに接種後の対応として、限られたスペースでの過剰なディスタンス(マスクをして黙っていれば距離を詰められる)、施設内での長すぎる待機時間(車など施設外で待機していただく)などの見直しなど、工夫すればさらに人数を増やしたり時間の節約ができることもあるような気がします。

 私は小児科医として乳児への定期ワクチン接種、渡航外来でのトラベラーズワクチン接種など研修医の頃から25年以上ワクチン接種を実践してきましたが、日常的にワクチン接種をしている医療者にとっては、アナフィラキシーが一定の割合で起こること、筋肉注射の方法、接種後の注意点等は当たり前のことであり(その一方で当たり前のことに対して国民はこれまであまり関心がなかったことも事実ですが)その当たり前のことを新型コロナワクチンだからと言ってメディアが与えた国民へ不安を抱かせるような過剰な煽りもまたブレーキになっているのではないでしょうか?

#日経COMEMO #NIKKEI

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