行動を創造する「ことば」の力。
1年くらい前から「行動創造」をテーマにした挑戦を始めている。次世代データマーケティング研究会という早稲田大学の恩蔵教授と共に進めている取り組みだ。限られたパイのシェア争いの世界観ではなく、新たな行動を起こして、新たなパイを生み出すという世界観を、日本に広めていきたいという意思を持った活動だ。まだほんの出だしではあるものの、多様な企業や組織の方々と議論する中で、この世界観が、消費財はもちろん、BtoBでも、観光や地域の活性化においても極めて重要な概念だと改めて感じている。
行動創造には「ことば」が大事な役割を果たす。研究会ではThe Breakthrough Company GOの三浦さんと一緒に活動しているが、三浦さんの紡ぐ「ことば」にはいつも驚かされる。心に刺さる「ことば」の持つパワーに強い刺激を受けている。そんな力を少しずつでも身につけようと、時間ができると「ことば」の探索に励んでいる。そこでアンテナに引っかかってきたのが、「令和なコトバ」という特集記事だ。巷で話題のコトバを取り上げて、意味やそれが生まれた背景などを教えてくれる。
まずは、変わった名前をつけて、意図的に人に覚えてもらうという行動創造だ。もちろん、本格的な美味しさという本質的な価値があってのことなのだが、思わず引き込まれる。「考えた人すごいわ」「あせる王様」「どんだけ自己中」「天才わっはっは」「告白はママから」「並んで歯磨き」などの名前のパン屋さんが実際にあるという。看板を一度みたら絶対忘れないインパクトだ。「あれは何屋さん?えーパン屋さんなの!!えーーとても美味しいの!じゃあ買いにいかなきゃ!!!」これらのパン屋の近くでは、こんな会話が聞こえてくると思う。全国に300店舗以上もあるのだそうだ。パンが日本人の主食の一つであるが故に、日々の生活の中で新たな人の流れを生み出すきっかけにもなっているに違いない。
次は、新宿にできた巨大街頭ビジョンの話だ。放送の合間合間に出没する巨大な猫がいる。日本を超えて、アメリカのテレビ局CNNが「キャジラ」と名づけるぐらいの注目度だ。因みに「キャジラ」はキャットとゴジラから作った造語だ。ディスプレイに突然現れる大きな猫は「昼寝をして下に落ちそうになったり、はたまた夜はあくびをして寝てしまったり」となんとも可愛らしい。猫好きはもちろんだが、日常のストレスをさっと忘れさせてくれる力がある。日本では「キャジラ」ならぬ「ニャジラ」と呼んでいる人が多いようだが、「ニャジラみた??」という会話を通じて、心にふとゆとりを生む「ことば」として活躍していると思う。
「脳内旅行」は、コロナ禍で現地、特に海外にはなかなか行けない中、うずうずした気持ちとうまく付き合うために生み出した新たな楽しみ方だ。部屋を訪ねてみたい国風のインテリアで模様替えしたり、その国で流行中のメニューをデリバリーしたり、「半径5メートルで楽しめるコト」で盛り上がる。さらに、その国の調味料を調達し、本格料理をつくり、その国での食べ方を再現して楽しむ人もいるようだ。「脳内旅行って意外と楽しいよ」こんな会話で盛り上がり、自分なりの創意工夫を自慢するケースもたくさんありそうだ。
次に目に止まったのは、笑いを絡ませ表現に奥行きを持たせるという話だ。「知らない」という一つの「ことば」だが、関西人はなんと多様な意味をもたせているのだろうか。羨ましくなる。その中でも最も注目したのは「知らんけど」だ。関西人は真面目な会話をしていても、最後に「知らんけど」と付け足す人が多いという。「確信はない/責任はもてない」という意味合いを足すためにつけるというが、自分自身でも日常の中で似たような言い回し「分からないけど」を使っているのに、ふと気づいた。少し違うのは「責任を持てない」を超えて、「自分で思う具体はこうだけど、別の具体をぜひ考えてね」という感じだ。「知らんけど」にも、情報を記憶することを超えて、自分なりの感覚や考えを持って欲しいという気持ちが含まれているのではと妄想してしまった。もっと使っていきたいと思った。
「社内動画部」という「ことば」からは、「確かにー」という感覚が湧いてきた。最近、社内に動画部を作って、社員が制作した内製(インハウス)動画を使う企業がどんどん増えていると思う。撮影機材や配信機材が安価になったので当然と言えば当然かもしれないが、「社内動画部」という「ことば」があるだけで、興味を持つ人の数が明らかに変わると思う。飲み会や社員旅行など、異なるタスクを進めている社員が集まる機会が減っている中、楽しみながら交流するという貴重な機会にもなりそうだ。別の会社に勤めている友人とも共通の話題として盛り上がれる。新たな活動を端的な「ことば」で表せると、色々なところで行動が創造できると感じた。
最後は、なにかと物議を醸し出している「〇〇ガチャ」という「ことば」だ。この記事からは「ことば」が使い方次第であるということを強く思い知らされる。最近では、「〇〇ガチャ」を、さまざまなツイていないことの象徴として使うケースが多いというのだ。恐らく、この「ことば」の始まりは、いわゆるショッピングセンターなどにある「ガチャガチャ」というカプセルトイの自動販売機だったと思う。何が出てくるかが分からないワクワク感、自分の欲しいものが当たった時の嬉しさ。「ガチャ」は、そうした楽しんでいる様子を表現する「ことば」だったと思う。それがなぜか、嘆きの「ことば」として使われているのだ。そしてその嘆きが今の世の中の閉塞感の中でSNSを通じて増幅してしまっている。そう思っていなかった人に対しても何処かで嘆きが侵食を始めている。
「ことば」の力は、とても強力だ。大きなうねりを生み出せる。ポジティブなうねりも、ネガティブなうねりも生み出せる。もちろん「ガチャ」の中にも、ポジティブなものがある。とてもポジティブな使い方で、今もなおワクワクを生み出しているものがある。「JALガチャ」は、その典型例だ。通常の半分以下のマイルで飛行機に乗ることができるというものだ。しかも、行き先はJALにお任せで、日本の魅力を再発見してもらうというものだ。お得感は満載だし、ワクワクが止まらないと思う。
日常にワクワクを生む。日常を創意工夫で彩る。「ことば」の力で、こうしたポジティブな活動を増やし、うねりにまでできたら、なんと楽しいだろうか。一人ひとりが「ことば」の力を再認識して、楽しく優しい日本を作る一役を買う。ぜひ、みんなで挑戦していければと思っている。
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