米家計部門の貯蓄急増が落とす影

リーマンショックすら霞む落ち込み
日々明らかになる基礎的経済指標は「予想通り壊滅的」という結果が続いています。もはや数字がショッキングでも金融市場はそれほど意に介しておらず、株価は連日高値を更新している始末です。このメカニズムには過去の貯蓄に関する寄稿でも解説させて頂きましたので割愛致します:


最近ですと5月29日に公表された米4月個人消費および所得はこれからの米国ひいては世界経済が辿っていくだろう未来を暗示していました。米4月個人消費(季調済)は前月比▲13.6%と現行統計が始まった1959年以降で最大の落ち込みを記録しました。


米経済の約60%を占める個人消費がこうした仕上がりとなったことで4~6月期の成長率が大恐慌以来の悪化となる可能性は相当に高まったと考えられます。今回の個人消費の落ち込みが歴史的に見て、どれほど異常事態なのかは、このように数字図表を見れば一目瞭然でしょう。2000年代前半のITバブル崩壊も、2008年9月のリーマンショックも今回のショックの前では霞んでしまいます。


迫りくる「貯蓄過剰の世界」
なお、消費が急減する一方で個人所得は前月比+10.5%と過去最大の伸びを記録しました。これは市場予想の正反対の結果です。給与所得が予想通り激減したものの、「コロナウイルス支援・救済・経済保障法(CARES法:Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security Act)」に基づく失業手当の給付が予想を遥かに超える伸びとなった結果です(この点、定額給付金の支給遅延が話題となっている日本と対照的です)。具体的に見ると、「賃金・給料(Wages and salaries)」は同▲8.0%と減少している一方、「失業保険などの労働者補償(Personal current transfer receipts)」が同+89.6%と補って余りある伸びを示しました(図表)。「所得が急増して、消費が急減した」ので当然ながら貯蓄(所得-消費)は急増し、結果として4月の貯蓄率は前月の12.7%から4月は過去最高の33%へ急騰しています。ちなみに過去10年平均では7.6%です。

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この貯蓄率上昇には2つの解釈があり得るでしょう。貯蓄を①経済再開後の成長をけん引する原資と見なすのか、②経済停滞の元凶と見なすのか、です。通常の景気後退であれば①の発想に基づき、期待を膨らませるのが妥当でしょう。実際のところ、そのような展開をメインシナリオに置くのが現状では多数派と見受けられます。


しかしながら、今回のように先が見通せないショックでは②の可能性も視野に入ります。①を楽観シナリオとすれば、②は悲観シナリオとも言える。上で「米国ひいては世界経済が辿っていくだろう未来を暗示している」と述べたのは、②の見方に立つもので、冒頭でご紹介した寄稿で議論した論点を再度確認するものです。その寄稿ではアフターコロナの経済・金融情勢では、マクロ経済を考える上での貯蓄・投資(IS)バランス上、家計や企業が消費・投資意欲を控え、民間部門全体が貯蓄過剰を常態化させる恐れがあると述べました。その結果として、物価や金利が低位安定する、すなわち「世界経済の日本化」というあまり明るくない未来を論じています。もちろん、米4月個人消費・所得で見たような極端な動きはあくまで疫病と財政政策によるショックが同時発生した特殊なケースでありますから、今後、何度も繰り返される結果ではないでしょう。とはいえ、当面の貯蓄率(可処分所得に占める貯蓄の割合)が長期平均(例えば10年平均で7.6%)と照らしてどのように推移していくのかなどは今後の米国経済を占う上では極めて重要な視点になると筆者は考えています(図表)。

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