2018年中は、リスク資産全般が弱含む中で新興国通貨と資産も下落に見舞われた。この背景にはいくつかの要素がある。

まず、春以降のドルの急上昇。米国政府による中国をターゲットにした関税引き上げが4月以降に過激な貿易戦争と化し、それにより失うものが最も少ない国と見なされたドルが他の主要通貨および新興国通貨全般で大幅上昇したこと。ドル建ての対外債務が大きい新興国ほど、先行きのドル調達に懸念が生じて、対ドルレートが下落した。

次に、個別各国の政治リスクが意識された。欧州においてさえBrexitやイタリア総選挙など政治イベントがリスクオフ要因となる中で、メキシコやブラジルなど多くの新興国で大統領選挙あるいは議会選挙が行われたため、主要国投資家による新興国資産のロングポジションに調整、あるいは通貨に為替ヘッジが入った。

だが、今年の貿易戦争を背景にしたドル高は、中国の成長率にダイレクトに影響するという点で、これまでの周期的なドル上昇とは性格を異にする。ここ数年にわたり6%台後半で推移していた中国の成長率が5%台まで切り下がることがあれば、中国向けに資本財を輸出してきた欧州主要国や、コモディティを輸出してきた中南米諸国の成長にも打撃となるためだ。

だからこそ、新興国通貨全般の対ドルレートは人民元の対ドルレートと連動しやすくなっている。これまでは、中国を中心とする製造業製品のサプライチェーンに組み込まれているアジア通貨(韓国、シンガポール、マレーシアなど)が人民元との連動性が強かったが、今年に入り中南米通貨(中国に銅を輸出するチリとペルーなど)や中東欧通貨(ドイツのサプライチェーンに属するポーランドとハンガリーなど)でも、従来対比で人民元との相関度が増している。それぐらい中国が成長ペースを維持できるか否かは世界経済とリスク資産にとって意味が大きい。

もっとも、新興国通貨と資産全般に対するポジション調整は、メキシコやブラジルの大統領選挙が終了した夏場には鎮静化し始め、今年に入ってからの最弱通貨だったトルコリラとアルゼンチンペソが反転上昇した9月にはピークを打ったと見てよいだろう。加えて11月末の米中首脳会談で貿易戦争の解決に向けた大きな一歩が記されたことも、新興国市場には好材料となった。

もう一つ、2018年の新興国通貨下落において特徴的だったのは、経常収支と対外債務という観点で脆弱度の高いトルコリラとアルゼンチンペソを除けば、大半の新興国通貨の下落が穏やかな度合いにとどまり、かつ相互間で同程度の下落幅となったことだ。これは、上記の2国を除けば、かつて「フラジャイル」と形容された脆弱性が構造改革により緩慢ながら改善に向かっていることを反映している。

さて2019年の展望だが、まずドルは多くの通貨に対して緩やかに下落する公算が大きい。今年のドル上昇はFedによる金融引き締めが着実に続く中で、他の主要中銀が政策正常化にようやく差し掛かった段階にあることも影響していた。米国経済はすでにサイクルの終盤に近付いており2019年半ばにはFedも引き締めを中止する可能性が高く、これは新興国通貨の対ドルレートには好材料となろう。さらに、Brexitが「合意なき離脱」以外の結末となれば、欧州の政治的リスクは和らぎ、ユーロのサポート要因となるため、これもドル安を促すと思われる。

新興国サイドの政治的イベントとしては、大国ではインドの総選挙(5月)が最も注目されるが、2018年中に相次いだ大国の選挙(メキシコとブラジル)ほどには、リスクオフ要因とされる可能性は低い。

やはり重要なのは、米中貿易戦争の行方だろう。90日の猶予期間中にどれほど進展があるのか。中国の成長が大きく減速する可能性が懸念される局面が復活する場合、昨年同様にボラティリティが上昇する可能性がある。それでも、Fedの金融引き締め休止が支援材料となるとみられ、新興国通貨と資産が持続的に下落する可能性は低い。

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