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リスキリング経験は転職活動の必須スキルへ

6月20日(月)から連日、日経産業新聞と日経電子版にて「探訪リスキリング」という連載が続いています。日本でも少しずつ、リスキリングの成功体験を持つ方々の事例がメディアで取り上げられるようになってきました。以下の記事で掲載されているお二方の「初心者向けのリスキリング」の事例は、これからリスキリングに取り組む方向けの経験談として、とてもリアルで素晴らしいと感じました。

今回はリスキリングの成功体験がもたらす効果や未来のキャリアについて書いてみたいと思います。

1. リスキリング成功体験がもたらす市場価値


今年1月に実施されたイギリスのReed社の調査によると、英国の雇用者の60%が、

「リスキリング経験のある候補者や、異業種からの応募が増えている」

と回答したとのことです。

新型コロナウィルス感染症の影響で大きく仕事観が変わり、リスキリングすることでより良い職場環境や給与を提供してくれる企業への転職が増えているのです。これからは採用の条件等の中で、

「リスキリング経験があること」

が重要視されてくるのでは、と考えています。理由は、リスキリングを成功させた経験を持つビジネスパーソンの価値を分類すると、以下の7つの能力を持っているのでは、と推察することができるからです。

1) 未来志向の考え方

リスキリングを行う人は、外部環境の変化を捉え、自分の将来の方向性やキャリアパスについて考えた結果、行動に移すのだと言えます。場合によっては、現在の職務を継続することに不安を感じるからかもしれません。いずれにせよ、未来に向けて現状を変えようとする「未来志向」の人であることが分かります。企業の変革期に用いるシナリ・オプランニングのように、自分の人生の未来を見据えているが故に、リスキリングに取り組むことができるのです。

2) 変化への適応力

現在の仕事や職務をそのまま継続していて大丈夫と考えるのではなく、激しく変化する外部環境に適応してゆくべく、自分を変化させる「適応力」が高いと考えられます。シリコンバレーでは、この適応力を計測する適応指数、AQ(Adaptability Quotient) を向上させるプログラムなどに注目が集まっています。今後も著しく外部環境が変化してゆくと仮定すると、企業にとって「変化への適応力」がある人材はとても魅力的です。

3) キャリアオーナーシップ

ここ数年間、日本では自分のキャリアパスを自ら構築してゆくキャリア自律という考え方が主流になってきました。自らのキャリアを自ら構築してゆくキャリアオーナーシップを発揮できる人材を育てるにはどうしたら良いのか、とよくご相談を頂きます。リスキリングを成功させる人というのは、自ら自分のキャリアを創ってゆくことができる人だと言えます。またリスキリングを成功に導くまで努力できると言うことは、英語でよく使う褒め言葉であるself-disciplined(自己規律のある)、自らの生活を律することができる人であるとも言えます。

4) 学習能力

言うまでもなく、学習能力が高いこともリスキリングに取り組む方の能力として証明できます。DX(デジタル・トランスフォーメーション) 、GX(グリーン・トランスフォーメーション) 、SX(サステイナブル・トランスフォーメーション)といった企業変革が求めれる現在、所属組織の新たな方向性を先取りして、自ら学ぶことができる人材は喉から手が出るほど欲しいはずです。特に、海外企業の採用面接においては、fast Learner(習得の早い人)であることが、とても評価の高いポイントになります。

5) 継続力

通常の業務タスクをこなし、日々の様々な予定外の出来事やトラブルに直面しながらリスキリングを行い、成果に結びつけるためには、並々ならぬ努力が求められます。好きだから続けられる、といった場合もあるかもしれませんが、いずれにしても、リスキリングを完了するまで行う「継続力」があることを示すことができると言えます。

6) ストレス耐性

上記の継続力に加え、ストレス耐性が高い人という判断もできるかもしれません。所属組織の方針との中で、必ずしも自分の望まない方向にリスキリングをしなくてはいけなくなる方もいます。リスキリングを進めてゆく上で途中で挫折してしまうような辛い出来事が仕事であれ、プライベートであれ、起きる可能性も大です。そうした中、リスキリングを継続できるということ、そして「知らないこと」「分からないこと」に立ち向かってゆくことができるのも、「ストレス耐性」の証明であると言えます。

7) 目標達成能力

最後に上記で述べてきた1) から6) の集大成として、リスキリングを成功させるという「目標達成能力」が高い人材であることを証明していると思います。多くの場合、リスキリングは短期プロジェクトではありません。海外の調査結果で、成果が出るまで平均で約12ヶ月から18ヶ月かかるという試算も出ています。goal-oriented(目標指向型の) というのも海外企業含め、採用面接で高く評価されるポイントです。

2.  Skill-Based Hiring(スキルベース採用) への注目


新型コロナウィルス感染症の広がり始めた2020年頃から、"Skills as a new Currency" とか、"Skills are the new currency"という表現を英語のニュース記事で頻繁に見るようになりました。

意味としては、

スキルは新しい通貨になる

というニュアンスではないかと思います。人材流動化の流れの中で、高いスキルを持っている人は、採用される際に通貨と同じくらい重要な価値を持っている、と言えるのではないでしょうか。いったん仕事に就けば、昇給昇格のための手段にもなりえます。つまり、これからの時代、検証可能な高度なスキルを持っていることは、人材として通貨と同じくらい価値があるということなのです。このスキルに対して、かつてない程の注目が集まっています。

1) 大量退職時代における空前の人材不足


2020年から始まった全世界的パンデミックの影響で、多くの人々が職を失いました。その一方で、デジタル・トランスフォーメーションが進み、高度なデジタルスキルの求人数は増え続けており、米国では昨年から1,000万件以上の求人が毎月出ているにも関わらず、雇用者が求めるスキルを満たす候補者がいないため、空前の求人難が起きているのです。このスキルギャップの問題を解決する手段がリスキリングであり、それゆえ注目されているのです。それに拍車をかけるように、以前僕のブログでも取り上げさせて頂いた、

The Great Resignation(大量退職時代)

の問題が未だ続いており、現在でも毎月約450万人もの人々が自主的に会社を退職するという事態が続いているのです。

この事態を打開すべく、ここ数年間米国含むデジタル先進国では、今までの採用手法を見直す動きが活発になっています。

2) 学歴採用からスキルベース採用へ


こうした深刻な人材不足を打開するために、急激に脚光を浴びているのが、

Skills-Based Hiring(スキルベース採用)

という採用手法の変化です。なぜ、このスキルに基づいた採用手法に注目が集まっているのか、まずその背景についてご説明したいと思います。

スキルに基づいた雇用の主なメリットは、以下があげられます。

・より多くの候補者プールの確保
・採用までの時間短縮
・より正確なコンピテンシーやスキルの評価
・人材の定着率の向上
・多様性(マイノリティ人種、女性、障がい者など)のある人材の採用

このスキルベースの採用手法の中で、特に特徴的なのが、「学歴」「有名企業での職務経験」といった、従来の採用手法で重要視されていた要素を排除し、候補者の方が持っているスキルを純粋に評価して採用するというものです。同時に、従来は採用の大きな基準となっていた4年制大学の学位に対する過剰評価を見直す動きが起きています。

こうした抜本的な採用基準を見直し、スキルに基づいて評価することで、今まではリーチしづらかったコミュニティから優秀なタレント、即戦力を発掘できているのです。日本では学び直しの一環で、さらに大学や大学院で学び、学位を取得することに熱心ですが、とても対照的な動きと言えます。

3.リスキリング経験がもたらす未来の選択肢

最後に、リスキリングを行い社内での配置転換や転職によって新しい仕事に就く方々に、今後どのような未来の選択肢が広がっているか、についての最新動向をお伝えしたいと思います。デジタル分野のリスキリングを行った結果、デジタル分野の職種に就けるのは言うまでもないので、以下はリスキリング経験そのものが活かせる新たなポジションについてご紹介をしたいと思います。

1) リスキリング関連の新たな職種

米国版のIndeedでリスキリング関連で出ている求人情報を検索すると、リスキリング関連の様々な分野の新しい仕事や職種が見つかります。

Learning Designer

Indeed.comより掲載

これはアメリカの大学が募集している受講生の学習体験を向上させてゆく学習デザインやカリキュラム開発を担当する職種です。自分自身でリスキリング経験がある人にはもってこいのポジションです。

Learning Product lead Data and AIML Firmwide Learning

Indeed.comから掲載

これは米国の投資銀行JP Morgan Chase Bankが募集している、AIや機械学習分野のリスキリングを全社向けに進めるためのオンライン講座開発責任者のポジションです。AI分野のデータサイエンティストやエンジニアと協働が必要な分野で、デジタル分野のリスキリングを行なった人には更なるリスキリングを業務を通じて行うことができる職務です。

2) Chief Learning Officer設置の重要性


リスキリング経験が活かせる未来のキャリアの中で、マネジメントポジションにおいてリスキリング導入の責任者であるChief Learning Officerは、世界中の企業において現在設置が進んでいるポジションになります。

Indeed.comより掲載

こちらは米国の国会議事堂の保存を担う政府組織AOCが募集しているポジション例です。

Chief Learning Officer(最高人材・組織開発責任者)

このチーフ・ラーニング・オフィサーというポジションは今、全世界でとても注目されている職務で、企業がトランスフォーメーションを断行する上で、人材および組織開発、そして学習プログラムの制定を含めて、リスキリングを行う総責任者になります。リスキリング実施責任者が経営に直結するCレベルのポジションになっていることからも、いかにリスキリングが会社経営における重要な戦略的な位置付けになっているかが、お分かり頂けると思います。企業によっては、クライアント企業のリスキリングを成功させるためのポジションとしての職務を担っている方もいます。これから日本企業がリスキリングを進めてゆく上で設置が最も急がれるポジションです。

AT&T、HP、SAP、エリクソン、EY、シティバンク、JP Mogan Chase、3M、デルタ航空、ナイキ、マイクロソフト、マスターカード、メットライフ、ユニリーバといった名だたるフォーチュン500企業がこのチーフ・ラーニング・オフィサーを設置し、全社リスキリングを推進しているのです。

日本でいち早くこのチーフ・ラーニング・オフィサーを設置したマイクロソフトでは、日本企業向けにリスキリングを導入するための支援策を展開しています。以下は、2021年10月14日開催されたMicrosoft Japan Digital Daysにおいて、伊藤かつら執行役員チーフラーニングオフィサー(現在は人事院 人事官)が日本企業向けにリスキリングの進め方について説明している動画です。とても勉強になりますので、是非ご覧ください。


全世界的に企業がリスキリングを推し進める中で、自分自身のリスキリング経験が活かせるポジションは更に増えて進化してゆくものと思います。

参考までに日本のIndeedでリスキリングと検索すると、リスキリング関連のポジションはあまり出てきませんが、リスキリング環境が企業に整っていて、入社するとリスキリング研修を受けることができることをアピールする求人が出てくるようになりました。

Indeed Japanより掲載



3)リスキリング経験は転職活動の必須スキルへ


リスキリング機会を提供する企業も自社への評価を高め、採用力を強化することができます。そして、面接を受ける個人も純粋にスキルを評価してもらい、リスキリング経験が重要視される、そんなwin-winな雇用慣行が日本にも訪れることを願うばかりです。リスキリングの導入によって、日本の労働者の社内における労働移動が始まり、そしてその結果、社外への人材の流動化が進んでゆくのではないかと思います。時間はかかりますが、自らを変革しリスキリングできる人材は、社内においても社外においても、非常に高い評価を受けるのではないか、そんな時代がもうすぐやってくるのではと考えています。

最後に、僕自身の経験を少しだけ。僕がデジタル分野のリスキリングを開始する前、40代前半に行なった転職活動では100社以上落とされるという辛い体験をしました。ほとんどの場合は面接にも進めず、書類選考で落とされてしまいました。しかしながら、リスキリングを進めてきた現在は、LinkedIn等から様々なポジションのオファーを定期的に受け取るようになりました。現在50歳になりましたが、自らリスキリングすることで自分の未来の選択肢を切り開くことができ始めているのではないか、と思います。

僭越ながら、僕のリスキリング経験(@道半ば)について、日経電子版にてご掲載頂きましたので、お読み頂けましたら幸いです。


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