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管理職が必要なGoogleと管理職はいらないティール組織【日経COMEMOテーマ企画_遅刻組】

上司がいなくても仕事は困らなかった

多くの企業や働く人々にとって、今年は意図せずにテレワーク元年とも言える状態になりました。入社以来、まだ1度も出社していないという新入社員も少なからずおり、職場の仲間とも顔を合わせる機会が激減していまいました。このような変化にストレスを感じる一方、「在宅の方がストレスが少なくていいよね」という声も一定数聞かれます。

そして、職場に行かなくなり、同僚や上司と顔を合わせなくても仕事ができるようになると1つの疑問が沸いてくるようです。

「上司っていらないんじゃないの?」

そのような声を反映してか、日経新聞電子版COMEMOにて「#管理職は必要ですか?」というテーマ募集がなされていました。

管理職が必要かどうかというのは、新しい問題ではなく、昔からある問題です。例えば、バブル期に増えすぎた役職のために意思決定のプロセスが複雑化し過ぎてしまうという問題が起きました。そのため、管理職の数を減らそうと組織の階層を減らすフラット化が流行しました。

そして、「組織にとって、最適な管理職の数はどれくらいか?」という課題が長年、経営者の頭を悩ませています。

このことは日本だけの問題ではなく、世界的にみられる傾向です。

Googleは管理職が必要だった

一般的に、組織階層が少なくなると意思決定のスピードが早まり、活発な意見交換がなされるためにイノベーションが推進されると言われています。そのため、比較的、創業から日の浅いベンチャー企業やイノベーションを売りにしている企業では管理職不要論が幅を利かせることがあります。

そして、管理職が要らないのではないかというのは、世界で最もイノベーションを起している企業の1つである Google でも同様でした。

記事にもある通り、当初、Google の創業メンバーたちは自分たちの組織には管理職はいらないと考えていました。すばやく動く必要のあるプロダクト開発チームには、管理職がいない方がエンジニアはより良く働けると信じ、全廃に踏み切ります。そして、その状況に創業メンバーであるラリー・ペイジらは満足します。「ほら、管理職はいらないじゃないか」と。

しかし、実際に現場のエンジニアから聞こえてきた声は、ラリー達の見えている世界とは異なるものでした。エンジニアは管理職を欲していたのです。

たしかに、コミュニケーションの伝達役としてだけであったり、ドラマ半沢直樹で描かれるような組織内政治や上役への忖度ばかりをしている管理職だと必要ないかもしれません。しかし、Google では、業務の効率化や意思決定における責任の明確化、メンバーの人材育成にとって、管理職は欠かすことができない存在だったのです。

Googleの面白いところは、「それなら、最も良い管理職とは何か?」を極めようとしているところでしょう。莫大なコストとデータ分析によって、管理職のマネジメント行動についての知見を蓄積し、現場で活用できるようにノウハウやツールを提供しています。

このあたりの知見は、Google re:Work という公式サイト上で公開されていますので、是非ご覧になってみてください。

ティール組織は管理職がいらない?

さて、Google では管理職がいるという結論が出ましたが、それでも腑に落ちないという方がいらっしゃるのではないでしょうか。数年前に、大ヒットしたビジネス書『ティール組織』(フレデリック・ラルー、英治出版)で描かれたように、管理職にいない、管理をしない組織というのは次世代の在り方のようにも見えます。

管理職がいない会社として成功し、代表例といえるのはブラジルのセムコ社でしょう。奇跡の経営と言われる同社は従業員数が3000名を超えるにもかかわらず、管理職はいません。

個々の従業員が自分で自分の仕事をデザインし、まるで遊んでいるかのように働いています。そのような同社のポリシーは、「The Seven-Day Weekend (7日間の週末)」です。仕事は誰かにやらされるものですが、週末の遊びは自分から好んで行います。そのため、人は仕事のときよりも週末、遊んでいる方が高い集中力を発揮します。

それならば、管理されず、ルールがなく、従業員が遊ぶように主体的に働ける組織を作ろう。リカルド・セムラーは、親から引き継いで経営者となった自分の会社を作り替え、教育改革まで手を付けなくてはならないと3つの学校を経営しています。リカルド・セムラーの経営哲学は、TEDでの公演をご覧いただくのが最もわかりやすい教材です。経営者として、働く人々の幸せに対して、どれほど真摯に臨んできたのかがわかります。

理想とする組織や職場のなかに管理職はいるか

さて、管理職が必要だと結論付けた Google は遅れていて、セムコが最先端なのでしょうか。話はそんなにも単純なものではありません。重要なことは、自分の働く会社や職場を自分はどうしたいのかという理想の姿を描いているかどうかです。

Google の場合には、世の中を変えるようなプロダクトを生み出し、世界中に広めていくというアウトプット(成果)ベースの信念があります。そして、この信念に引き寄せられて、世界で最も求職者の多い企業でもあります。Google での経験を通して成長し、自分の付加価値を高めて世の中を変えたいという人々です。彼らは Google の文化を重要視し、自らを Googlee と呼び、宣教師のように退職した後も Google で学んだことを次の職場で広めていきます。このような良くも悪くも意識の高い人材が集まるところでは、やはり誰かが舵を握る必要が出てきますし、従業員の付加価値を高めるサポート役が求められます。最高の人材が最高のチームで最高の成長を遂げられるというのが、従業員が Google に期待されていることだからです。

このように、自分の会社で働くことでどのような付加価値を身に着けることができるのか、予め明示することが欧米企業の当たり前になってきています。このことを従業員価値提案(Employee Value Proposition)と呼び、求める人材の価値観や仕事へのスタンスを明らかにし、そのような人材が会社に入ることで何を得ることができるのかが明示されるのです。

一方、セムコの場合には、Google ほどアウトプット・ベースの組織ではありません。自分の会社に関わった人々が幸せな人生を送れるようにしようという価値観を大切にしています。TEDの講演でセムラー氏が語っているように、儲けを運用して増やそうとはせずに、誰かに共有してしまうシェア・ベースの組織と言えるでしょう。自分の幸せや情熱、夢といった未来を創り上げるのに大切にしたいことを共有し、同じ思いを持った仲間同士で事業化させていくのです。

セムコでは、シェア・ベースの組織にするために大きなコストをかけています。そして、なによりも管理をするのではなく、個々人が自分の幸せについて理解してアイデアを出すことが求められます。

このような価値観を持つ組織では、理想とする組織や職場の中に管理職はいません。リーダーはいるかもしれませんが、個人の幸せや自主性をコントロールしようとする要素は不必要だからです。

さて、それではみなさんの理想とする組織や職場をイメージしてみてください。そこは管理職が存在し、チームとしてより高みを目指して成果を出そうという在り方でしょうか? それともなければ、管理職がおらず、個人の自由な発想や夢、アイデアが尊重され、その実現を促すことを第1義とする在り方でしょうか?

重要なことは、管理職がいるか・いらないかではなく、自分たちの理想とする組織や職場に必要か否かです。そして、理想とする組織や職場のイメージを持つために、常に考え続けることが経営者やリーダーに求められることだと言えるでしょう。

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