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台風15号の停電復旧はなぜ時間がかかっているのか

台風15号による停電がいまだ続いている地域の皆さんは、この暑さの中、いかにつらい時間を過ごしておられることかと思います。心より、お見舞い申し上げます。
今日19時に東京電力から出ているプレスによると、今日17時時点で約58万軒の停電を今夜中に約12万軒にまでは縮小できそうだとのこと。12万軒の方たちが心配ですが、行政の支援が届いていることを祈ります。

東京電力はもちろんですが、全国会口の電力各社から応援も駆けつけていて、9月10日10時現在で
 ・高圧発電機車の派遣(全電力会社 合計82台)
 ・作業員の派遣(電力会社直営830名 工事会社590名 合計1,420名)とのこと。現場では夜通しの復旧作業が行われています。今しばらく皆さん頑張ってください。

さて、そんな中で「なぜ復旧に時間がかかっているのか」なんて言うことを議論していられるのは正直呑気な立場だからできることなのかもしれないと思うのですが、今晩のインターネットニュースでこのテーマを取り上げたいからと出演を依頼されたり(都合あいませんでしたが)、いくつかメディアの方から問い合わせをいただいたので、一般的な考え方とここまでわかっている情報を整理したいと思います。

そもそも停電はなぜ起きるか。ご関心があれば2012年に書いた「停電はなぜ起こる」をご参照ください。簡単に整理すると、大きく分けて2つ理由があります。1つが、先日の北海道の停電のように、需給のアンバランスから来る「系統崩壊」によるものです。これは頻度としてはレアですが、北海道で実際起きたように、起こり得ます。この系統崩壊について語りだすと長いので、今回は割愛します。もう一つがまさに今回のように、電気を送る設備(送配電線)の事故等により電気の流れる経路が途絶してしまうことによる停電です。

通常は、送電線が途切れたとしても迂回ルートで送電できるようにしてあります。例えば平成18年8月に、旧江戸川にかかる東京電力の送電線(江東線)にクレーン船が接触したことで起きた停電は迂回ルートからの再送電が成功して1時間程度でほとんどの停電が復旧しています。今回も迂回ルートはあったそうですが、迂回ルートから全てのお客さまへの送電ができなかったと思われます。千葉の木更津あたりはこうした要因が影響しているようですが、最大停電軒数約934,900軒のうち、鉄塔倒壊(2基)による停電軒数は約11万軒で、全体から見るとそれほど多くないようです。

では、なぜこれほど大規模な停電が長期にわたって続いているのか。今回の特徴は、電柱の折損が非常に多くあったことだと理解しています。なんと電柱の倒壊が84基というのでいかに今回の台風がすさまじかったかということですが、電柱は、送電線という高速道路あるいは国道的な存在ではなく、お客さまの設備により近い市道あるいは村道といった存在です。そして、電柱に乗せる配電線も1か所が倒れたらそれでおしまいとはならないように、あみだくじのように電柱に乗せた電線も迂回できるようにはなっていますが、それでもどうにもならない場合も出てきます。電柱を建て直し、電線を張り替えるという作業が必要なところがあまりに多く発生しているというのが、現状だと思います。

今日頂いたメディアの方からのご質問が、とても普通の方の感覚のモノだと思ったのでいくつかお答えすると、
① 複数回線化などを進めて、どんな状況でも停電しないようにすべきではないのか?
→そもそも基本的な考え方として、送電線1回線、変圧器1台、発電機1台など、機器装置の1つが故障したとしてもそれだけで停電に(大規模停電に)つながることがないように、設備を計画することが基本とされています。
 「2台以上が同時に故障した時にも備えをしておくべきだ」と思われるかもしれませんが、それではキリが無くなってしまうので、どこかでリスクとコストのバランスを取らなければならないのです。送電システムの緊急時への備えについては、「システム内にN個の設備があると して、そのうちの1個の設備がトラブルで欠けただけでは停電しないよう対策を打つ。しかし、2つ以上の設備がトラブルで欠けた場合の停電は許容する」という考え方が万国共通でとられています。

② 多くの電柱が倒れたことでこうなったというのことだが、では、電柱を地中化しておけばよかったのではないか?。
→確かに今回のような事態は、地中化していれば避けられたかもしれません。景観などの点からだけでなく、これからこれほどの猛烈台風が増えるとすると、地中化を進める意義は今までよりも高いといえるのかもしれません。ただ、地中化するにはコストがかかることと(こちらのサイトによると、 舗道一体型電線共同溝方式(次世代新方式)で5.6億円/kmとのこと。)地中のケーブルに何かトラブルが発生した場合には地上の電線のようにすぐ作業ができないので、地面を掘り起こしてというところから始めないといけません。トラブルがあった場合の復旧にかかる時間は長くなる可能性もありますので、その点は覚悟する必要があります。

③ 結局、北海道の大停電に学んでいなかったということか。
→そもそも北海道の停電と今回の停電では停電に至った理由が全く違うのですが、「とにかく停電はあってはならない。発電設備も送電設備も、両方ともいくらコストをかけても良いから設備強靭化を徹底せねばならない」というのが北海道からの学びなのであれば、その点は学べていなかったでしょう。ただ、どれだけ強靭化を進めてもリスクはゼロにはできません。また、災害に備えて「いざというときの設備」を多く持つということは、普段あまり使わない設備をたくさん持つということです。その「無駄」を「保険料」として考えて、平時にずっと負担し続けられるかどうかというところかと思います。
 それよりは私は、社会が北海道の大停電に学んでいたのか、という方が気になります。設備である以上トラブルはあるし、エネルギーの安定供給が途絶することもあり得ることは、既に申し上げた通りです。特に行政機関や医療機関などは、そうしたリスクへの備えをどれほど講じてきたのでしょうか。現在、行政や医療の現場でも多くの方たちが必死に頑張っておられることともいます。こうした現場に頼るのではなく、トップがもっとリスク認識を事前に持っておくべきだったのではないかと思いますし、私たちも防災力を高めなければならないと、改めて思いました。



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竹内 純子(国際環境経済研究所 理事・主席研究員)

温暖化・エネルギー政策の研究をしています。現実的な移行とサステナブルな未来を考えています。 国際環境経済研究所理事・主席研究員/筑波大学・関西大学客員教授/U3InnovationsLLC共同創業者・代表取締役。

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