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トレンドを追わない「田舎の時代」で地方は強くなる(鈴木修 相談役のインタビュー記事から考える)

鈴木修会長の会長退任と相談役就任

2021年6月25日に開催されたスズキ株式会社の株主総会にて、鈴木修会長が退任し、相談役に退くことが発表された。生涯現役を標榜し、浜松の中小企業をグローバル企業へと急成長させたビジネス界の巨人の引退だ。

私が新社会人の時、新入社員研修で聞いた講話はいまだに忘れることができない。意思決定スピードの速さと思い切りの良さ、経営資源は有限であるため選択と集中が重要だということを教えてもらった。2012年の北米市場からの四輪撤退も特別驚くような意思決定ではなかった。加えて、そのときに二輪とATV、船外機を継続させるのに法的紛争を効率よく解決するのに米連邦破産法11条を活用するのも「らしい」決断だった。現在の二輪ラインナップに日本独自の400ccの車種がスクーターのバーグマン400しかないのも、同氏らしい意思決定だ。(バーグマン400は、AT限定普通二輪の教習車として人気がある)

そして、鈴木修氏らしさを表すのにもう1つ特徴的なのは「田舎の時代」と呼んで、地方都市に住む庶民の足を提供し、地方都市の活性化への貢献を大切にしてきたことだ。この地方都市と共に歩む姿勢は、日本国内だけではなく、世界規模で一気通貫している。日本海沿岸の京丹後市のスズキの副代理店に行くと、オーナーが「鈴木会長が挨拶に来てくれたのだ」と嬉しそうに語ってくれる。そして、世界に目を向けると、パキスタンでは小型トラックの代名詞として「スズキ」が使われる。何か荷物を運ぼうと思ったら、「ちょっと、スズキ呼んできて」のように使われる。それだけ、小規模な都市の実情と密着したビジネスを行っている。

流行に流されない地方独自の強みを見出す

鈴木修氏の過去の記事をみていると、「田舎の時代」とは地方都市の自立を前提としていることが見て取れる。過去のインタビュー記事では、「補助金政策っていうのは国民を堕落させる、なまくらにさせていくというのが源泉じゃないかな」という発言をしている。地方都市が、国からの補助金や助成金に頼らずに財政健全化を考えることの重要性を強調している。

また、地方都市における企業においても同様だ。地方の中小企業は、行政からの助成金や補助金が持続的な経営に大きな影響を及ぼしていることが多い。これは、コロナ禍のような有事ではなく、平時からだ。このこと自体は悪いことではない。地方都市を本拠にして、地元市場にサービスを提供する地域密着ビジネスでは逆に推奨されることかもしれない。しかし、地方都市を元気にするのは、補助金や助成金に頼らなくても事業を継続、発展させていくことができるビジネスモデルと事業規模の確立だ。特に、地元出身の大企業が地方の行政や活性化に及ぼす影響は大きい。浜松市のスズキとホンダ、豊田市のトヨタ、北九州市のTOTOのようなグローバル企業を目指すベンチャー企業が地方都市には求められる。

それでは、補助金や助成金に頼らない地方都市となるために、どのような新しい産業が考えられるのか。鈴木修氏はそこで、DXや副業人材のような最近のトレンドについて言及することはないだろう。スズキの事業でも、今はやりの電気自動車、水素自動車、自動運転車などの技術革新を追わず、トレンドに左右されることはない。

同氏はそのことを、「全然関係ないね、うん。ドイツのフォルクスワーゲンと戦っとるだけだから。地球の裏側でも戦ってる。東京に居るのと浜松に居るのとあんまり関係ないじゃないか。浜松という地方の目線で国内、そして世界を見ていく、それしかない」とインタビューで語っている。

重要なことはシンプルで、自社の強みは何かを見極めたうえで経営資源を注中し、地方の目線で国内、そして世界を見てグローバル市場で戦うだけだ。

「攻めの地方都市」となって自立する

鈴木修氏の経営手腕は、一企業だけではなく、浜松市政にまで大きな影響力を行使していた。浜松市財政に問題意識を持っていたことから、ヤマハをはじめとした地元経済界の有力者と協力し、鈴木康友市長の選挙活動を支援した。当選後は、スズキから人材を派遣し、「行財政改革推進審議会事務局」を立ち上げ、財政健全化ロードマップを推進した。具体的に行ったことは、事務局は土日も含めて何度も非公式の勉強会を開催し、行革審を通じて実現可能な提言を行った。その上で、306事案を分類し、「答申どおり実施」を108、「答申の一部を実施」を167、「実施時期が未定」を6、「実施していない」を25とし、市へ早期対応を求めた。スズキやヤマハで行ってきた、民間企業の業務改革の手法が行政にも有効であると示された事例だ。

鈴木修氏は、5年前のインタビュー記事で浜松市の状態について以下のように語っている。

「市民がのんびりしてるよ。『やらまいか(遠州弁で「やろうじゃないか」)』で、今までものづくりで発展したから、待ちの政治だね。積極的に前に進んでいくとかが、感じられない。やらまいかは、やめまいかになっちゃったな。」

発言では、市民や政治が「待ちの姿勢」となっていることを指摘している。しかし、このことは補助金や助成金がないと事業ができなくなってしまった、地方の中小企業にも言えることではないだろうか。たしかに、補助金や助成金は多くの企業にとって助けとなり、健全な事業活動の背中を押してもらえる。しかし、地方から世界を目指そうという「攻めの姿勢」を考えるときはスタンスが異なるように思われる。

前述したように、「寄付はするけど、補助金や助成金はもらったことはない」「地方から国内をみて、世界で戦う」という攻めの姿勢が、「これからは田舎の時代」と言うときに求められるスタンスではないだろうか。

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