既存のビジネスモデルが破綻したときに「意味のイノベーション」を起こせるか?
船井電機の破産と中堅企業のビジネスモデル転換の課題
船井電機はかつて、ホームベーカリーや低価格テレビで消費者の心を掴み、特に学生や若い会社員にとっては身近な存在だった。しかし、長期にわたる競争力の低下と経営の迷走の末、破産手続きへと至った。筆者が大学時代に家電量販店でアルバイトをしていた当時、船井電機のテレビはリーズナブルで購入しやすく、アイワやツインバードといった同様に手頃な価格帯を提供するブランドと並んで人気があった。しかし、こうした一世を風靡した船井電機がなぜ没落の道を辿ることになったのか、そして他の中堅企業がどうすれば同じ轍を踏まずに済むかを考察したい。
船井電機のビジネスモデルの限界
船井電機の失敗の要因の一つに、特定のビジネスモデルへの過度な依存が挙げられる。船井電機は長年、北米市場での低価格帯テレビの販売を中心に事業を展開してきた。80年代にはホームベーカリーで成功し、90年代からはテレビを中心に成長を続けていたが、創業者退任後は北米の低価格テレビ市場に過度に依存したまま、価格競争の激化に対して有効な戦略を打ち出せなかった。特にサムスンやソニーといった大手との競争、さらには中国勢の台頭によって市場シェアを急激に失い、経営悪化を招いた。
ツインバードの挑戦
船井電機と似たような境遇にありながら、ビジネスモデル転換に成功した企業としてツインバードが挙げられる。ツインバードはかつて、安価でカタログギフトで取り上げられるような家電を中心に展開していた。しかし、近年では高品質で高価格帯の商品にシフトし、ブランド価値を向上させた。例えば、「全自動コーヒーメーカー」は約4万円という高価格でありながら、外部のコーヒー業界の専門家「カフェ・バッハ」の田口護氏との協力で高品質な製品として評価され、飛ぶように売れている。
ツインバードの成功の要因は、外部の専門家や市場のプロフェッショナルと連携し、自社の強みを生かしながら消費者のニーズに応える製品開発を行った点にある。このような外部リソースの活用は、製品の差別化とブランドの信頼性向上に寄与し、結果として新しい事業モデルを確立する一助となった。ツインバードは、変化する市場環境に合わせて柔軟にビジネスモデルを再設計し、自前主義に頼らずイノベーションを起こした好例である。
中堅・中小企業の新規事業開発と外部リソースの活用
船井電機が示すように、特定のビジネスモデルへの依存は中堅・中小企業にとって大きなリスクである。長期的な市場変動や技術革新によって既存のモデルが陳腐化した際、迅速な事業転換が求められるが、それには適切な準備と柔軟な対応力が不可欠だ。多くの中堅・中小企業は、船井電機と同様に新規事業の立ち上げを課題としつつも、明確な戦略を見出せずに手探りの状態にあるのが現状だ。
ツインバードが示したように、自前主義を貫かず、大学や特定分野のプロフェッショナルと協力することが新規事業開発には重要である。例えば、技術革新が加速する現代では、大学の研究機関やスタートアップと連携し、新しい技術や製品アイデアを取り入れることで、リスクを分散しながらイノベーションを推進できる。外部リソースの活用により、自社の限界を超えた発想や専門性が加わり、他社との差別化やブランド価値向上につなげることが可能である。
中堅企業が次の時代に向けてとるべきアプローチ
船井電機の破産は、多くの中堅企業にとって「他人事」ではない。特定のビジネスモデルに依存し続けるリスクを理解し、事業転換や新規事業開発に積極的に取り組む必要がある。特に重要なのは、変化が必要だと気づくタイミングで外部からの支援を受け入れ、柔軟な思考で取り組む姿勢だ。自社の内部リソースに固執せず、外部からの知見や協力を得ることが、ビジネスモデルの持続可能性を高める鍵となる。
また、事業転換や新規事業開発においては、消費者のニーズや市場環境の変化を的確に把握することが欠かせない。船井電機が陥ったような、時代遅れのビジネスモデルに固執するのではなく、常に変化を受け入れ、適応する柔軟な戦略を持つことが求められる。自前主義にこだわらず、外部の専門家や研究機関との連携を積極的に行うことで、企業の強みを新しい形で活かし続けることができるだろう。