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パートに年収300万円を払えるか、企業は決断を迫られる

日本の労働市場で長年議論の的となってきた「年収の壁」。これは主に主婦層が税金や社会保険の負担を避けるために働く時間を調整し、年収を106万円や130万円以下に抑える現象を指す。この壁を越えることで、税負担や社会保険料の支払いが発生するため、働き控えを選択するケースが多かった。しかし、近年、人手不足や最低賃金の上昇が進む中で、この「壁」を意識せずに働くことが可能な新しい働き方が広がりつつある。

「年収の壁」の背景と現状

「年収の壁」の問題は、税制や社会保険制度の影響を強く受けている。パートやアルバイトの労働者は、一定の年収を超えると社会保険の加入義務が生じ、さらに税金負担が加わる。そのため、少し多く働いても手取り収入が増えないばかりか減少するという逆説的な状況に直面する。その結果、パート労働者は労働時間を調整し、年収を一定以下に抑える選択を余儀なくされてきた。

しかし、人手不足が深刻化する現在、企業は労働力を確保するために賃金を引き上げるだけでなく、「年収の壁」を超える働き方を支援する制度を整え始めている。日経新聞の引用記事で紹介しているように、コストコや物語コーポレーションなどの企業が示すように、高時給や社会保険料の補助を通じて、従業員が安心して働き続けられる環境を提供する動きが顕著だ。

働き控えから「壁越え」へ

「年収の壁」を越えて働くことに魅力を感じさせるには、経済的合理性が不可欠だ。時給1500円を超える水準であれば、年収200万円台後半以上を目指せる可能性が高くなる。このような水準に達すると、税負担が発生しても手取り収入が大幅に増えるため、働き控えを選ぶよりも経済的なメリットが生まれる。一方で、単に労働時間を増やすだけでは、税負担の増加と生活とのバランスが崩れ、働く意欲が削がれる可能性がある。育児や介護といった非正規雇用を選ぶ背景にある事情と、長時間労働を求められる働き方の間には、依然として溝が存在している。

また、大卒新卒者の平均年収が240~300万円とされる中、パート従業員に同等の給与を支払うことは、企業にとって新たな課題を投げかける。非正規雇用が正社員と変わらない待遇となれば、非正規の雇用意義そのものが問われることになる。

非正規雇用の位置づけの再考

非正規雇用は元来、労働市場における「雇用の調整弁」としての役割を担ってきた。働く側には柔軟な時間調整が可能であり、企業側にとっても必要なときに必要な労働力を確保する手段だった。しかし、人手不足が続く中でこの運用に限界が見え始めている。高時給や待遇改善が進む一方で、企業は非正規雇用者に長期間の勤務や責任ある仕事を求めるようになり、調整弁としての役割が薄れつつある。

欧米では非正規雇用が正社員となる前の移行期として機能することが一般的だ。一方、日本では非正規雇用が長期的な働き方として定着してきた。しかし、非正規雇用者に高いスキルや責任を求める状況が進むにつれ、欧米型の「正社員への移行期」としての非正規雇用へとシフトする可能性がある。

新しい働き方への道筋

「年収の壁」を越える働き方を広げるためには、政府や企業によるさらなる支援が求められる。社会保険料の補助や奨励金制度、資格取得支援など、従業員のキャリア形成を後押しする施策がその一例だ。

非正規雇用は今、転換期を迎えている。これまでの「調整弁」としての役割を見直し、正社員への移行やキャリア形成の一環として位置づけるのか、それとも新たな価値を見出して非正規雇用を進化させるのか。選択の時が訪れている。働き手と企業の双方にとってメリットのある持続可能な働き方を模索することが、これからの日本社会にとって重要な課題である。

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