「テレワーク時代の寅さん」になろう!~今の働き方を支える「場づくりファシリテーション力」~
姓は河原、名はあずさです。生まれと育ちは埼玉県上尾市。上尾総合中央病院で産湯につかった、人呼んで「Potageコミュニティ・アクセラレーターのあず」と発します。
そんなわけで、Potage代表取締役の河原あずさです。頭の中で渥美清さんの声がリフレインしそうな「男はつらいよ」の寅さんの名文句のオマージュからはじめてみました。なんで!?と思うかもしれませんが、これは今回のお題にちゃんとかかっていて、読むと伏線が回収されるのでご安心下さい。
さて今回のCOMEMOのお題は「テレワークに効くコミュニケーション」です。
テレワークのお題が続きますね!そういえば前回の投稿は日経新聞本紙にもとりあげていただきました。ありがとうございます。
ちょうど、このお題にはまるオンラインイベントを1月22日に開催しました。「場リキフェス」という、6時間半におよぶイベントです。場リキとは私はつくった造語になります。場のチカラ=場力=場リキです。「場をうみだす力、育てる力」とでも申しましょうか。もうちょっとビジネス用語的に表現するなら「場のファシリテーション力」ということになるかと思います。
このイベントのトークの内容は、リモートワークや自律的な働き方の促進により、「職場」でのコミュニケーションが大きく変容する現在の世の中の状況に対して大きな示唆を与えてくれるものでした。今日はその内容を抜粋しながら、ご紹介できればと思います。
「場リキフェス」は、COMEMOのKOL仲間の西村創一朗さんと主宰している、ステージのモデレーション、ファシリテーションのスキルをお伝えするオンライン講座「THE MODERATORS &FACILITATORS」(通称モデファシ)の卒業生有志と一緒に制作しました。
私や西村さんも含め、15名のモデファシコミュニティメンバーがペアを組み、それぞれの解釈で「アフターコロナ時代の場のチカラ」という大枠のテーマにフィットするゲストをたて、それぞれ40分のステージを企画しました。合計8セッションに総勢11名のゲストが登壇したのですが、みんなが持ち寄ったテーマは「キャリア」「スモールビジネス」「ファシリテーション」「音声配信」「野外エンタメ」「即興劇」「地域コミュニティ」「SDGs」と見事にバラバラ。それが「場の多様性」を表していて、とても興味深いものでした。
しかし、会を通じて、更に興味深いことが置きました。テーマはバラバラなのに、各セッションを通じて、共通する価値観やキーワードが、ゲストの口から続々と飛び出してきたのです。期せずして、「アフターコロナ時代に必要な場のチカラ」の根っこが、浮き彫りになったわけです。
ここで話は冒頭の口上に戻ります。実は、その「場のチカラ」の概念をとらえる上で一番キャッチ―なキーワードが「寅さん」だったのです。こじつけじゃないかって?それをいっちゃあ、おしまいよ。だまされたと思って、読んでらっしゃい、みてらっしゃい!(すみません、寅さん口調伝染しちゃいました)。
ファシリテーターとは「寅さん」である(by 長尾彰さん)
「寅さん」というキーワードは、コミュニティ・フィーカというYouTube番組を配信している卒業生ファシリテーターのペア、名嘉あづささんと、岩田かなみさんの企画したセッションで生まれました。ゲストは、数々の企業でチームビルディングや組織開発を手掛けるファシリテーターの長尾彰さんです。
そもそも、このセッションで長尾さんをブッキングする際に、ファシリテーター2人には長尾さんから宿題が出されたそうです。どんな宿題かといえば「男はつらいよ」シリーズを見てから臨んでください!と……。
「男はつらいよ、みたんですが、その理由がみただけではまだわからなくて……」というファシリテーター2人に、長尾さんはこう答えました。
「寅さん、力や社会性ないですよね?デリカシーも、友達づくり力もないし。場の空気読まないし。けどたった一つだけ言えるのは、寅さんは、自由だってことなんです。言いたいことを言う。やりたいことをやる。けど、自分ひとりで生きていく力はある。けど基本、力はないし、やりたいようにやる。人情にあつい。そしたら、周りが寅さんを助け始めるんです」
「寅さんって、よかれと思っていろいろやる。結果、騒ぎがおきる。けど、なんとなくうまくいく。ぼくはこの20年、寅さんみたいなファシリテーターになりたいと思っているんです。ファシリテーションって難しく考える必要なくて、みんなが仲良くなって、成果が生まれれば、もうそれでいいんです。力を発揮するというところから、できるだけ遠くにいたいというのが、ぼくの感覚です」
みんなが仲良くなって、成果が残ればそれでいい。そのために、力を発揮して、ふりかざしたりする必要はない。自然体でいい。つまりはこういうことを長尾さんは伝えていたんですね。
私もファシリテーターとして色々活動していますが、すごくはっとさせられました。そして、場リキ=場のチカラという概念が、すべてここに集約する気がしたんです。
居場所=コミュニティに宿るチカラって、すごく高いところから、大きなエネルギーを発揮して落としていくようなプロセスではなく、もっとじんわりとしていて、温かみがあって、理由がうまく説明つかないけど、なんだか居心地がいい。そういうものだと思うんですね。それを「男はつらいよ」で解説されたものだから、目からウロコが落ちまくってしまいました。
で、思うわけですよ。職場という「場」が「集約」から「分散」に大きく変化し、それぞれが自律的に判断して動くことが求められる世の中において、ビジネスパーソン(特にマネジメントやリーダー)に求められるのは、この「寅さん的なファシリテーション力」なんじゃないかな、と。
とはいえ、この説明がふわっとしすぎていて、上級者向けな自覚はあるので(笑)以下にその「寅さん的なファシリテーション力」を3つの構成要素でブレイクダウンしていこうと思います。
テレワーク時代に必要な寅さん力① 共感と共有を大事にする
まず、寅さんって、男はつらいよをみるとわかるんですが、人の気持ちをふるわせて、共感を呼んだり、自分の考えていることを共有することがとても上手なんですね(こと恋愛が絡むと途端に不器用になるのですが…)
平成6年公開の「背景車寅次郎様」に、「会社の仕事がつまらなくてやってられない」という甥っ子の満男に商売のいろはを伝えるために、鉛筆の売り方を寅さんが教えるエピソードがあります。「おじさん、この鉛筆、買ってよ」って言うだけで「買わないよ」と相手にされない満男に対して、寅さんがお手本を見せます。
そのシーンがまあ見事なのです。道行くおばちゃんに、鉛筆のなつかしさ、鉛筆の持っている原風景、感触、音、においなどなど、五感をくすぐるエピソードを口上で伝え「ボールペンは便利でいいでしょ。だけど、味わいってものがない。その点、鉛筆は握り心地がちがう。木のあたたかさ。六角形が指の間にきちんと収まる」とたたみかけます。
満男はなんで鉛筆を売れなかったか。機能しか伝えられないからです。けど、寅さんは五感に訴えて共感を呼ぶために、具体的な状況描写を語ることで、聞き手の「買いたい」という気持ちをいつのまに喚起したのです。
ちょうど「匂いと熱」というキーワードでコミュニティについて語ったセッションが場リキフェスにありました。株式会社協働日本の村松知幸さんがゲスト登壇されたセッションです。曰く「オンラインの時代であっても五感を駆使するコミュニケーションをとっていくことが大事なんです」とのこと。
SDGsのセッションに登壇した大川印刷の大川哲郎さんも「サステナビリティの施策を組織で広めるには、上から落とすのではなくて、共感と共有が大事なんです」と述べていました。彼はブルースの帝王・トランペットプレイヤーのマイルス・デイビスの言葉を引用して、こう解説します。「創造し続けるには、あなたは変化に敏感でなければならない。五感を使って、感じ取り、伝えていく必要があるんです」
寅さんは、コミュニケーションの一つ一つにまさに「匂いと熱」をこめます。そして、五感にうったえながらコミュニケーションをとり、共感を喚起して人を巻き込んでいきます。このような「感情に触れるコミュニケーション」が、なかなか五感で感じ取ることが難しいオンラインの場でこそ、より大事なのです。
テレワーク時代に必要な寅さん力② △ではなく〇のコミュニケーション
1,200人にものぼるコミュニティメンバーを集めていくにあたって大事にしたことをファシリテーターであるモデファシコミュニティメンバーの黄瀬真理さんが尋ねたときに、株式会社協働日本の村松知幸さんはこう答えました。
「役に立つことをやるためではなく、面白いとか、好きだとか、そういう動機で人が集まる場になったのが大きいんです。イメージとしては△ではなく〇で集まる場にしました。△は、てっぺんにいる人が、やりたいことを落としていく場ですが、〇は、みんながフラットで、みんながそれぞれの個性で、やりたいことをやるイメージです。そうすると、自然に「この場が好きだから」と口コミで広がっていくんですね」
これは会社組織においても同様のことが言えるのではないかと話を聞いて思いました。これまでの組織のありかたは、縦に落として統率をとっていくピラミッド組織(△)が中心でしたが、コロナ禍を経て自律的な働き方がより求められてくると、それぞれがフラットに有機的にかかわりあうフラット組織(〇)の方がフィットする状況へと変化してきているのです。私が「コミュニティ型組織」と呼んでいて、さまざまな企業で開発支援をしている新しい組織のイメージが、まさにこれです。
このような組織のマネジメントに必要なのは「〇(フラット)」への感性です。上からものを伝えるのではなく、階層や年次に関係なく、それぞれの価値観を尊重しながら、強みを大事にしながら、自立性を促すコミュニケーションが大事になってきます。(これを制度化して行動習慣に落とし込むのがさまざまな企業で導入されている「1on1」なわけですね。)
さて、先ほどの長尾さんの言葉に戻すと、寅さんは非常にフラットです。というか△的な「ヒエラルキー」という概念が彼の中には存在していないかのようです。家にあがりこむタコ社長のおっちゃんに対してもタメ口です。職業や年齢、性別や能力で人を「評価」するようなことをしません。相手のありのままを受け入れます。そして困っている相手には徹底的に伴走して、サポートを惜しみません。だからこそ、結果的に、人が寄ってきてくれるし、騒動に巻き込まれたときも、周りの人が自然と助けてくれて、結果すべてがうまくいくのです(寅さんの場合、恋愛だけはうまくいきませんが…)。
ゲストの長尾彰さんはファシリテーターとして大事な要件のひとつに「困ったときに思い出してもらえる存在になること」だと述べています。そのために必要なことは?と聞くと長尾さん曰く「仲良くなること。そして成果を残すこと」。
フラットですぐに溶け込める人の周りには、フラットな人が集まってきて、場をつくります(そしてその場を人は「コミュニティ」と呼びます)。そして、Googleのリサーチで有名になった「成功循環モデル」という概念によれば、結果の質を上げるためにもっとも重要なのは、関係の質を向上することです。
「〇」の概念を理解し、誰とでも仲良くなり、状況に応じて的確に順応しながら周りをサポートする能力が、今の時代まさしく大事なのです。
テレワーク時代に必要な寅さん力③ 「遊び」をつくる
じゃあ、どうやったら周りの人たちと仲良くなれるんだろう?という質問が次には出てくると思います。これに関しても長尾さんが答えてくれました。曰く「一緒に遊べばいい」。
遊び場は、言い換えれば「心理的安全性の高い、周りとわいわいしながら、対象に夢中になれる場」ということです。そのような場では、成功とか失敗とかいう概念がありません。砂場でお城をつくっていて、崩れても「もう一回!」と言いながら、ニコニコしてつくりなおせばいいんです。
この「失敗できる場所」の大事さを語っていたのが、別のセッションのゲストの山本力さんです。山本さんは即興劇を通じて「失敗を楽しんで、もう一回チャレンジすることの大事さ」を伝えている方です。
「失敗をしまいとふるまうのはしんどいし、結果的にうまくいかない。失敗が許容される文化が企業にも生まれると、新しい発明が生まれて、日本が活性化するんじゃないか」と、山本さんは語ります。効率を追い求めて、遊びが許されなくなったのが、日本が世界からイノベーションの領域で取り残されている要因の一つなのだという話が出てきて、うなづきながら聞いていました。
寅さんは、人生そのものが「旅」であり「遊び」という存在です。失敗だらけですが、そこでめげたりはしません(多少くよくよはしますが)。周りの人たちも「本当にばかだねえ」と寅さんにあきれるものの、彼の存在そのものは否定しないし、むしろ暖かく受け入れます。字もろくに書けないし、学もない。住所不定の風来坊。社会的にみたら落伍者の烙印がおされるところですが、彼はそのことにひけめを感じずに、目の前の瞬間瞬間を楽しみながら、生き生きと生きています。彼のテキ屋の口上は、そんな寅さんの持っている遊び心が満載など思いませんか?だからこそ、いろんな人が集まって、人だかりができるんです。
テレコミュニケーションは、効率的でいようと思えば、徹底的に効率化可能な世界です。だからこそ、ZoomやTeamsを介したコミュニケーションは
「要件のみ」になりがちです。しかし、遊び心のないコミュニケーションからは、新しい価値は生まれません。みんな、仲良くなれないし、失敗できない守りの状況にどんどん追い込まれていくからです。
どうやって仲良くなったらいい?という質問に、長尾さんはこう答えていました。「みんなで、ねるねるねるねをつくって食べるといいよ。仲良くなるから。」確かに、オンラインミーティングの最中に、みんなで同じ駄菓子をつまんだり、わいわいしながら手を動かすだけでも、一体感が生まれる気がします。オンラインミーティング前のねるねるねるね、試してみてはいかがでしょうか(笑)
今の時代こそ求められる「場のチカラ」
キャッチ―に「寅さん」でまとめてみましたが、伝えたいことを集約するなら、オンラインのコミュニケーションにこそ、実は「場をつくるチカラ」が大事だということです。みんなが自然と仲良くなるフラットなコミュニケーションを産み出したり、遊び心を取り入れたり、共感と共有を産み出していく……そのひとつひとつの所作が、場に関わる人たちの関係性の質を上げ、パフォーマンスの向上へとつながっていくのです。お時間あるときに「男はつらいよ」を見返してみて、寅さんの生きざまから、今の時代にこそ必要な「場リキ」ついて、考えてみてはいかがでしょうか。
ちなみに、寅さんをみるだけではなかなか身につかないよ!という方には、まさにステージという「場」をつくるスキルをお伝えしているモデファシが(手前味噌ではありますが)お薦めです!!イベントで役立ったという声はもちろんあるのですが、チームや家族のコミュニケーションがよくなったという受講生からのフィードバックは、本当によく聞きます。よかったらぜひチェックしてみて下さい!
そして「場リキフェス」もぜひ、捨てセッションなしの見ごたえありの映像になっています。今回紹介したセッションはもちろん、他もとても楽しいので、ぜひ6時間半たっぷりつまっているアーカイブチェックしてみて下さい。