イーロン・マスクは、「アメリカの大いなる夢」を見るか?(あるいは「時間と空間」の創出)
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イーロン・マスクは、「アメリカの大いなる夢」を見るか?(あるいは「時間と空間」の創出)

別所隆弘

(1)イーロン・マスクとは。その男、規格外につき。


イーロン・マスクがまた特大の言語爆弾を落としました。今回はなんと、日本向けです!

流石にこれはびっくりしました。というのも、ちょうどこの発言の前日に、こんな記事を書いていたからです。

日本という国のリスクの取れない体質と、それとは正反対のリスクテイカーのアメリカの比較記事の中で、まさに究極のリスクテイカー型の実業家としてイーロン・マスクのことを例に出したからです。

でも、時々この人、ちょっとわからんのです。実業家としてはすごいなと思うし、その発想の面白さを体験したくて、テスラの電気自動車Model3も買ったほどなんですが、時々言ってることが破天荒すぎて、白目剥く時があります。

それでも「日本はいずれ存在しなくなる」という、実際に今の状況のままではあり得なくもない、でも誰も本気で見つめようとしなかった「未来予測」を言っているのを目にした時、このイーロン・マスクという人物が、やっていること、やろうとしていることが、ほんの少し見えたような気持ちになりました。その射程のあまりの遠さゆえに、ちょっと常人にはついていけないけど、凄まじい長射程のスケールから見れば、割と当たり前のことを言ってるんだと。そして今回は、彼がやっている「実業」部分にしぼってみて、彼の長射程が見据えている「未来」はなんなんだろうと、そんな記事を書いてみます。そのために、まずはいくつか、イーロン・マスクが手がけた仕事を羅列して見ましょう。

(a)PayPal

イーロン・マスクの最初の事業は、弟のキンバル・マスクと作ったソフト会社です。それを売って、20代半ばで25億円を手に入れてます。25億!普通ならもうFIREして人生遊び倒しそうですが、全くそんなことしない。そのすぐ後、周知の通り、国際オンライン決済システムのPayPalを立ち上げてます。二つ目の事業になります。その後PayPalも事業売却、31歳で200億の資産を手に入れます。凄まじい展開。一般人のスケールで見たら普通は「もう終わり!」って考えそう。でも違うんですよね、イーロン・マスク。超人ですから。

(b)Space X

PayPalを売った資金で、同年、Space Xを立ち上げます。この会社はもはや人類の一つの未来を切り開く可能性さえある会社なのでみなさんご存知でしょう。興味があったら、NetflixのReturn To Spaceもぜひ見てみてください。200億を湯水の如くに使い、倒産の危機を超人的な精神力で切り抜けていくイーロン・マスクの絶望的なチャレンジを見ることができます。胃がキリキリ痛むシーン満載。

https://www.youtube.com/watch?v=sIME4sLR4-8

(c)Tesla

2004年に、今ではこれが多分一番有名でもあるテスラモータースに出資。その後会長に就任します。すったもんだあったみたいですが、今では10兆円企業。10兆て!この段階で、イーロン・マスクが若い頃に目標にしていた「インターネット」「クリーンエネルギー」「宇宙」という三つの分野の全てに進出が完了しました。異次元の展開ですが、最初からこれを目指して、わずか10年ほどで達成しちゃってます。すごすぎます。

(d)Twitter

その後もソーラーエネルギーの会社やAIの会社であるニューラリンクも設立してます。なんか「連続起業家」っていう言葉も真っ青の、最先端突っ走るタイプのマスクが、今年、少し面白い展開を見せたのがTwitterでした。まだ正式には決まっていないが、どうやらCEOに就任するらしいですね。流石に仕事多すぎと思うんだけど…

(e)ハイパーループ

他にも地上の渋滞に怒り心頭のマスクは、

https://twitter.com/elonmusk/status/1500472879724392448

超高速の地上移動を可能にするために、地下にトンネルを掘って、超特急の真空管パイプ移動みたいなシステムを考えてるらしいです。「そんなん絶対無理」って思うんですが、イーロン・マスクなら実現しかねない気がしております。

と、主な業績を上げてみても、イーロン・マスクという人物が、傑出した実業家であり、その視野の広さは常人では推量れないほど先を見ていることは明白なのですが、基本的にはマスクのやっていることは、若き頃の三つの目標である「インターネット」「クリーンエネルギー」「宇宙」を、ほとんど外れないで生きていることが、こうして羅列してみるとわかります。ここからさらに、この三つの全く違う分野を、抽象的に統合できるような視野が存在するのか?という問いを立ててみます。

(2)時間の解放

そこで、それぞれの仕事が、世界に対してどのような本質的なプラスを生み出したのか、少し考えてみましょう。PayPalは、国際間の決済のやり取りの手間を劇的に減らすことによって、グローバルにおける商取引の垣根を引き下げました。単純に「お金のやり取りの手間が減った」というよりは、企業が国際取引の際に費やされるはずだったさまざまな「手間にかける時間」が取り払われたというふうに考えるならば、PayPalがやったことは、企業が本来の企業活動に専念できる「時間」を生み出したと考えるのが、この企業の本質的な価値だと言えそうです。

それは実は、テスラも似ていると思っています。テスラはもちろん「クリーンエネルギー」の達成のための会社ですが、車単体でのアピールを見た時は、現在はむしろ完全自動運転の達成の方に強いイニシアチブが振られているように見えます。だって毎年「今年完成する!」って言ってますもんね。それほどマスクは拘ってるんでしょう。その目的とするところは明白で、「移動として消費される時間の解放」であると考えられます。移動を単に移動として消費するのではなく、例えば電車や新幹線や飛行機で仕事をしたり本を読んだり寝たりできるのと同じように、車の中で人間が「移動」に従事する時間を、自動運転に肩代わりさせること。それによって生まれる膨大な「可処分時間」こそが、イーロン・マスクがテスラで目指す部分であるだろうと推測できます。2年前にイーロン・マスクが、自社のオートパイロットのソフトウェアをラインセンシングしてもいいとツイートしています。

もちろん、マスクのツイートをいちいち真に受ける必要はないんですし、ソフトウェアの提供には、もれなく「その走行データのテスラへの提出」がワンセットになっているのでしょうが(自動運転用AIの開発に最も大事なのは、生の走行データですので)、それでもこのように自社のソフトウェアを競合に提供してもオートパイロットや自動運転を進めたいという意思が示すのは、テスラだけが完璧になっても「自動運転の世界」は出来上がらないと考えているからです。競合他社もまた同じように「完全な自動運転」が成立した時に、人類は「移動の時間」を他のことに使えるようになると言うわけです。つまり、PayPalもテスラも「可処分時間」を新たに生み出すために作られた企業だったと考えられます。

(3)空間の創出

一方、スペースXは時間とは関係なさそうですが、もう一つ人類が増やさなくては未来がないもの、そう「空間」の創出を目指していると考えられます。月への有人飛行を目指すのも、火星まで行こうとしているのも、このまま地球にいては人類は滅びる道しかないことを、おそらくはイーロン・マスクは予見しているのでしょう。だからこそ「人類を惑星間種族にするために」なんて論文まで書いちゃってるわけです。

PayPalとTeslaが、人類の可処分時間を倍増するための事業なのだとすると、Space Xが目指すのは、可処分空間を広げるための事業と考えられます。あれ、じゃあTwitterは?Twitterも、空間なんです。言論空間。これまでの彼の言動から明らかなように、彼はどうやら、原理的自由主義者のようです。Twitter買収の前日「自分にとって最悪の批判者でさえ、Twitterには残ってほしい。それこそが「言論の自由とはそう言うものだからだ」と言うツイートは、瞬く間に拡散されましたが、

その言葉が示すのは、Twitterと言う空間が一種の検閲が入っていることへの、彼なりの反発なのでしょう。Twitterを元のような「自由な言論空間」へと拡充したい、つまり「言論の可処分空間」を広げたいという思惑が見えます。

もちろん、それが本当にいいことなのかわかりません。どっちかというと、僕はイーロン・マスクには実業だけに専念してもらって、Twitterとか言論とかのややこしい文化系の方には来てもらいたくないんですが、来てしまったものは仕方ないですし、イーロン・マスクはTwitter芸人真っ青のTwitter大好きな人のようなので、諦めて趨勢を見守るしかありません。

とまあ、それは置いといても、こうして彼のやってきたことから、彼の「やろうとしていること」を、彼の言葉に基づいて想像してみると、イーロン・マスクがその超人的エネルギーでやろうとしていることの極めてシンプルな形が見えてきます。つまり、「人類が使うことのできる時間と空間を拡大すること」、これです。これにつきます。時間と空間が増えれば生産性が上がるのは当然で、極めてシンプルな発想なんですが、その発想を人類規模&宇宙規模でやっちゃおうと言うのがイーロン・マスクの実業家としての視野の特異性と言えますね。

(4)アメリカの大いなる夢

そしてこのような発想は、実はアメリカの伝統的な「夢」と結びついているんです。なんでしょう。19世紀にアメリカが失った、壮大な「夢」なんです。それはですね、「フロンティア空間」なんです。

みなさん、フロンティアってご存知ですか?アメリカ人は元々イギリス人であったことは、世界史で習いましたよね。メイフラワー号に乗って、1620年、イギリスのピューリタンたちが新天地を目指してアメリカにやってきて、最初に作ったのが「プリマス植民地」と呼ばれる東部の領域です。現在のマサチューセッツのあたりですね。ここからイギリス人たち(後のアメリカ人)は、西に向かって支配領域を広げていくわけですが、この未踏で未開拓の部分を、アメリカ人たちは「フロンティア(最前線)」と呼びました。この単語は、アメリカ史において、あるいは現在のアメリカにおいてさえ、特別な意味を持つ単語の一つです。ここを開拓する歴史を通じて、あの今でもわかりやすい「アメリカ人気質」が作り上げられていったからです。

ところが1890年、「フロンティアの消滅」が宣言されます。270年間の「西への開拓」の全てが完了して、アメリカ大陸全土がアメリカ人たちの手によって支配されたわけです。以後、アメリカ合衆国は建国から連綿と続いてきた「膨張の理論」の行き先を失います(Manifest Destinyと呼ばれました。「明白なる使命」とでも訳せる、一種のプロパガンダです)。その後は太平洋に進出して帝国主義的な侵略に着手、2度の世界大戦を経て名実ともに世界最強国家になった後、現在に至るわけですが、基本的にアメリカと言う国、あるいはそこに生きる人々は、「未開拓地を自ら切り拓く」のが大好きで、大好きと言うよりももはや国是のようなところがあります。だからこそ、異様に最先端科学も進んだし、宇宙にも行きたがるし、世界中のどこにでもアメリカ人はいるわけなんです。それはもはや、DNAレベルで刻まれている「使命」なんだろうと僕は理解しています。

フロンティアの消滅以後、ケネディによって「ニューフロンティア」が提唱されたり、90年代からのインターネット空間や現在のメタバース空間に「新しいフロンティア」を見つけ出そうと躍起になったりもするんですが、イーロン・マスクは、いわば「人類にとっての最後の、そして最大のフロンティア」を作り出すための事業を展開しようとしているんです。もちろん彼は生まれは南アフリカの人ですが、アメリカに憧れ、アメリカ人になった人なので、むしろ意識的に「アメリカ的であろう」としている節さえ見受けられます。だから、一度潰えた「アメリカの夢」を、超長射程の未来に向けて、今まさに全力でぶっ放そうとしている、そう見ています。

と言うことで、イーロン・マスクがやろうとしていることについて、ちょっとつらつらっと書いてみました。かなり僕の個人的な解釈が入っていますが、当たらずとも遠からずだろうなとは自分では思っております。今後も注目の人物ですね。

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別所隆弘
フォトグラファー, 文学研究者。滋賀、京都を中心とした”Around The Lake”というテーマでの撮影がライフワーク。 Twitterはこちら https://twitter.com/TakahiroBessho