先陣切るECB~SVB問題後の先兵~
当日を迎えるまでFOMCの予想は困難
金融市場では引き続きシリコンバレー銀行(SVB)に端を発する米金融システムへの不安が主要テーマとなっています。その後、シグネチャー銀行破綻も報じられる中、連鎖破綻への恐怖は高まっており、3月FOMCの利上げについては+25bp利上げ、見送りで見方が割れています。SVB問題直前までタカ派的な情報発信を強め、CPIが決して弱い結果ではなかったことなども踏まえれば、やはり見送りは難しいようには見えます:
こうした中、必然的にドル/円相場も米金利低下に合わせて一時132円台前半まで下落しました。確かに今は不安を沈静化させることが最優先であるため3月に限って利上げを見送り、5月以降に再開するという線はあり得るかもしれませんが、つい最近まで+50bpへの拡大を示唆していた物価情勢がそこまで根本的に変わったと判断することが妥当なのでしょうか。極めて難しい予想ですが、インフレ第二波の到来で利上げ路線が半永久的になる展開も避けたいはずであり、筆者は3月に+25bpの利上げに踏み切る可能性の方が高いと思っています。しかし、SVB破綻が一過性の混乱で終わるのか、それとも持続的な混乱の起点となるのか。それを判断するための材料は時々刻々と変わっているのも事実です。FOMC当日まで、まだ日はあります。確たる予想は述べにくいというのが実情です。
アフターSVB、先陣はECB
アフターSVBとも言えるほど市場の雰囲気が変わった状況を踏まえ、インフレ抑制に尽くしてきた主要中銀の政策運営はどう変わっていくのでしょうか。先陣を切るのは3月16日に政策理事会を開催するECBです。実際のところ、主要3中銀(FRB、ECB、日銀)の中でもとりわけ注目されるのがECBではないかと思います。というのも、2月会合でECBは「3月会合は+50bpの利上げ」と宣言している経緯があります。この明確なコミットメントを覆すほどの危機感をECBが示した場合、少なからずFRBの政策決定にも影響を与える可能性はあるでしょう。既に域内金利は著しく下がっており、予告された+50bp 利上げが取り下げられる方へ期待は傾斜しています:
この点、既にブルームバーグが「事情を知る複数の当局者」の「政策委員会のハト派らは経済環境が変わったとし、いっそう慎重になることが正当化されると主張する公算が大きい」といったコメントを報じています:
元より政策理事会は完全な一枚岩ではなくなりつつあったことから、少なくとも3月の+50bp利上げが全会一致で決定される望みは薄いでしょう。
しかし一方で、既に表明された+50bp利上げのコミットメントを撤回することについて上記報道に登場する当局者は「政策委員会の過半数が納得すると現時点で信じる理由は何もなく、議論は最終的に将来の利上げを示唆する知恵になお集約されることになるかもしれない」とも述べており、多数決に拠れば利上げ続行という可能性も十分残されていそうに見えます。
2月会合後の記者会見でラガルドECB総裁は3月の+50bpについて「100%のコミットメントではないものの、極めて強い決定(a pretty strong determination)である。よほど極端な場合でない限り、意図した展開にならないというシナリオは考えられない(I can’t think of scenarios, unless they were quite extreme, where that would not happen)」とまで言い切っています。
SVB破綻が「極端な(quite extreme)場合」に相当するのかどうか。域内金融機関の破綻にまでは至っていない以上、そこまでは言い切れないように思います。なお、既にユーロ圏の金融規制当局の見解も報じられており、影響の波及リスクを注視する必要があるとしつつも、域内銀行は総じて十分な資金があるほか、リスクの高いハイテク新興企業への融資が多かったSVBに比べて資産構成が保守的であるといった現状認識も報じられています。むしろ、予定通り利上げのコミットメントを遵守しなければ、こうした規制当局者とのコメントと整合性が取れないようにも感じられます。
もっともコミットメントの制約から解放される5月以降の展開は予想の修正が必要になる可能性もあるでしょう。本欄でも繰り返し論じてきたように、元々ECBの利上げ路線はFRBのそれよりも持続性が期待されてきた経緯があり、だからこそユーロが買われてきた側面はあります。
現時点では域内金融機関への具体的な懸念は報じられていないものの、米国同様、時々刻々と状況は変わるでしょう。具体的な金融機関のネームが出るようなことになれば、「ターミナルレートは4%」とまで見通されていたECBの政策金利に関し、直ぐに下方修正が必要になるはずです。基本的には域内の雇用・賃金環境が逼迫している状況に異変は見られていないため、物価情勢に応じた金融引き締め傾向が持続する公算が大きいと思いますが、想定外のユーロ安リスクが浮上しているという認識は持ちたいところです。
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