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サブスクは、誰を幸せにするのか?【日経COMEMOテーマ企画】

日経COMEMOのテーマ企画として「サブスクであなたの生活はどう変わりましたか?」というお題が出ていたので、早速、便乗してみたいとおもいます。今回、検討してみるテーマは「サブスクが普及することで誰がどのように幸せになるのか?」です。

まず、「サブスクって何?」という方のために簡単に説明すると、「サブスク」とは英語の"Subscription(定期購読)" が語源となっている、「定額制でサービスや商品を提供するビジネス」のことを指します。「サブスク」というと難しく聞こえますが、要は月額制のトレーニングジムや算盤教室と同じです。それなら、「サブスク」とかっこつけた呼び方をせずに、「月額制」と言えばよいではないかと言う声も聞こえてきそうですが、既存のビジネスとの最大の違いは「テクノロジーの活用」「定額制にする理由」の2つにあります。


定額制×テクノロジー=サブスク

サブスクで欠かすことができないテクノロジーは、大きく3つあります。

第1のテクノロジーは、インターネットです。従来の定額制には、市場規模に限界がありました。というのも、新聞の販売員や保険の外交員のように、営業担当がお客の元に足を運んで「このサービスは良いですよ」「こういう料金体系ですよ」と説明しなくては契約を得ることが難しいためです。営業拠点がなければ市場にはなり得ませんでしたが、インターネットによって、地理的な制約が軽減されました。

例えば、Microsoft のPowerPointキラーとして注目を浴びている Prezi (オンライン・プレゼンテーション・アプリ)はサブスク型のビジネスを展開しています。2009年にハンガリーのブダペストでスタートしたベンチャー企業ですが、サービス開始後、瞬く間に全世界に広まり、2018年の時点で1億人以上のユーザーが登録しています。このようなグローバル市場で成功を収めているPreziですが、その拠点は世界に3都市(ブダペスト=ハンガリー、サンフランシスコ=米国、リガ=ラトビア)にしかないのです。

第2のテクノロジーは、ビッグデータ分析です。ここは、流行り言葉でAIと言い換えても良いかもしれません。サブスクのサービスは、登録した顧客の行動データの収集が容易になります。どのようなプロフィールのユーザーが良くサービスを利用するのか、新たなサービスを好む顧客はどのような特性を持っているのかなど、顧客の行動データを分析することで、サービスの向上や改善に有益な情報を得ることができるのです。

また、このことは顧客との関係性も変化させます。サービスや商品の前提は「売り切り」ではなく、「顧客との長期の関係性」を作ることになります。例えば、音楽のCDやダウンロード販売は「良い楽曲を提供して、販売数を増やす」ことが重要な成功の指標でした。そのためにオリコンチャートのような「今、何が売れているのか」という情報は大きな価値を持っていたと言えます。しかし、Amazon の Prime Music や Spotify のようなサブスクの音楽配信サービスは、継続して利用してもらうことが重要な指標となります。

第3のテクノロジーは、Fintech(金融系テクノロジー群)です。サブスクを支えるのは、高い安全性と信頼性が確認されている決済サービスです。365日24時間、全世界どこからでも決済可能なサービスがなくては、インターネット特有の広大な市場アクセスも意味を成しません。

従来の定額制ビジネスのボトルネックは、なんといっても決済でしょう。銀行口座からの自動振り込みの手続きは煩雑で利便性が低く、月謝や毎月の振り込みは払い忘れや遅延が発生しやすいという点で回収業務が不安定になりがちです。また、未払い者への督促は仕方のない業務とはいえ、作業量的にも精神的にも負担が大きく、生産性を下げてしまいます。この決済業務を、多少の手数料を取られるとはいえ、クレジットカードや決済会社に代行できるメリットは、経営を安定させる面でも大きいと言えるでしょう。

また、これからサブスクの導入を考えている企業にとっても、登録ユーザー数に応じて、定期的に収入を得ることができるメリットは大きいです。定期的に収入を得ることができるため、財政基盤の安定化や研究開発や新規事業開発の資金調達にも役立つことが期待できます。

例えば、パッケージ販売のときは1つのソフトウェアが5~10万円を超えるなど高額だった Adobe は、サブスク化することで月額6千円弱で主要なソフトウェアを何でも使えるようになり、単体でも2千円強となっています。その結果、adobeのサービスを利用するときの初期費用を抑えることができるようになり、利用のハードルを下げることに成功しました。2018年には、adobeは一兆円の売り上げを初めて突破し、サブスクへの移行によって成功した代表企業の1つとなっています。


サブスクを導入する理由

サブスクと従来の定額制サービスの違いの1つとして、テクノロジーの活用があると述べてきましたが、もう1つの理由として「サブスクを導入したい」と思う動機の違いがあるように思われます。従来の定額制サービスを導入する大きな動機は「自社のサービスを安定供給したい」と言えるでしょう。

例えば、メニコン社のメルスプランは、コンタクトレンズの定額制サービスで成功を収めています。2001年のサービス開始以降、外資系企業がシェアの多くを持っていたコンタクトレンズ市場で急成長を遂げ、2016年時点ではメーカー別シェア2位となっています。コンタクトレンズの買い替えが経済的負担と思う顧客や「まだ使えそう」という理由で期限切れのコンタクトレンズを使い続ける顧客に対し、「安全に、安心してコンタクトレンズを使用してもらう」方法として、生み出されたのがメルスプランです。ここには、「コンタクトレンズの安定供給」という動機がありました。

しかし、サブスクの導入では「サービスの安定供給」というよりも、「顧客との関係性の構築」という側面の方が大きいように思われます。例えば、近年、ゲーム会社のサブスクが勢いを増しています。EA の Origin Accessや UBIsoft の Uplay+ などの海外の大手ゲーム会社が提供するサービスでは、同社が開発した最新作以外のゲームを楽しむことができます。次から次へと新しいゲームを作り続け、ファンを満足させることがゲーム会社の常識でした。しかし、サブスクサービスでは、定額で過去のゲームを遊び放題にしています。これによって、自社のゲームのファンを育てること、自社のゲームのファンが何を求めているのかを知るコミュニケーションの場として活用しています。


サブスクは誰を幸せにするサービスなのか?

これまで述べてきたサブスクの動向から、サブスクの流行には2つの側面があることがわかります。

第1に、幸せになるのはサブスクを提供する企業でしょう。サブスクを上手く使うことで、企業は自社の強い愛着をもつファンを増やすことができ、ファンを惹きつけるには何をすべきかを判断するためのデータを収集することができるようになります。また、毎月、定額での収益があるということは、財務上のリスクを軽減させ、経営に安定感を与えるメリットがあります。

第2に、幸せになるのは消費者でしょう。消費者は、サブスクを利用することで、自分のお気に入りの商品やサービスの安定供給を享受できるほか、企業へ自分の好みを伝えることができる窓口を得ることができます。もし、企業が登録ユーザーの好みを把握せず、または裏切ることがあれば、ユーザーは離れてしまいます。この好みに合わなければ、登録するサービスを変えれば良いという流動性も、顧客にとってのメリットと言えるでしょう。例えば、いち早くサブスクが普及した動画配信サービスには、個人のニーズに合ったサービスを取捨選択する、ユーザーの流動性が表れ始めているように感じられます。

現状のサブスクの動向からは、上にあげた2者が主に幸せになる主体と言えるのではないでしょうか。最近は、飲食店におけるサブスクも増えていますが、飲食店もリピーター客が重要な業態ですので、サブスクと相性が良いと言えるでしょう。


サブスクで幸せになる第3の主体

しかし、まだ本格化していませんが、サブスクによって幸せになる大きなターゲットがまだ存在しています。

それが第3の主体である、既に定額制サービスを行っている事業者です。例えば、月謝や月額での定額制サービスを行っている事業者として学習塾があります。経済産業省によると、日本全国には約5万事業所もの学習塾が存在し、そのうちの7割以上が個人経営の学習塾という統計が出ています。そのほかにも、トレーニングジムやカルチャースクール、訪問介護、喫茶店のコーヒー券、食品の宅配サービスなど、中小零細企業が提供する定額制サービスは数多くあります。

テクノロジーを活用して、サブスクを新しく始めることを補助するツールも出てきています。イジゲン株式会社の提供する定額制サービスのプラットフォーム「always」は、誰でも簡単にサブスクを始めることができるソフトウェアです。

現在は、サブスクがブームとして注目を浴びています。しかし、一過性の流行りではなく社会に浸透させるためには、第3の主体である「既に定額制サービスを提供している中小零細企業」のサブスク化が欠かすことができないでしょう。


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大分大学経済学部の講師(人的資源管理論)をしています。採用や育成などのタレントマネジメント、地方創生・地方発ベンチャーなどの話題を中心に取り上げていきます。自動車メーカーやシンクタンクを経て、30代で大学教員とジョブホッパーです。 ※日経のキーオピニオンリーダーに選出されました。
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