見出し画像

創造性を高めるために、対話型AIをどう使えるか 認知科学のモデルから考える

米国のベンチャー企業、OpenAIが開発したChatGPTが、引き続き話題となっている。G7広島サミットでも、AIに関する国際ルールが議論される見通しだ。

ChatGPTのような対話型AIについては、機密情報の漏洩や誤情報の拡散などの課題も指摘されている。その一方で、こうしたAI人間の創造的活動に活かしていくことはできるだろうか。例えば、マイクロソフトはMicrosoft365に対話型AIを組み込んだ「Copilot」を発表している。Office製品を使うときに行うような業務を自動化するものになるようだ。

しかし、より一般的な意味でAIが人間の創造性を越えるのではないか、あるいは、人間がAIを活用してより創造的になれるのではないかといった議論もあるだろう。そこで今回は、認知科学における創造性研究をベースとして、具体的にどのような部分にAIを活用していけばよいのかを考えていきたい。(筆者はイノベーションを生み出すフレームワークである【デフレーミング】を研究する中で、創造性の研究にも取り組んでいる。)

創造性の5つのコンポーネント

ここでは、ノースウェスタン大学のトンプソン教授らの編集した研究成果、中でもテキサスA&M大学のスミス教授らの整理に基づいて議論を進めたい。

彼らによると、アイデアを生み出すような創造的認知には5つのコンポーネントがある(下図のうち、Common Phenomenaはやや位置づけが異なるため除外する)。

創造性の認知モデル

第一が、「記憶」に関するものである。複数の情報をもとに同時に考える短期記憶や、昔のことを思い出す長期記憶のほか、他者から聞いた話などを自分のアイデアであるかのように思い出す「無意識の剽窃」というものまである。

第二が、「概念とカテゴリー化」であり、特に複数の概念を組み合わせたり統合する機能が、創造性には有効であるとされる。

第三が、「アナロジー」であり、他のコンテクストの要素を、現在検討中の課題のために取り出し、新たに位置づけなおすといった働きがある。

第四が、「ビジュアル化」であり、キーワードやストーリーなど文字ベースの情報をビジュアルにして想起したりする能力である。

そして第五が、「メタ認知」であり、自分が何を考えているかをモニターしたり、コントロールしたりする働きである。

これらは必ずしも相互関係も含めて構造化されたり、抜け漏れなく抽出されたものではないが、創造性を発揮する際に使われる働きである。また、創造的認知に一般的に見られる現象(図の左下の部分)として、「問題解決」、「メタファー」、「アイデアの組み合わせ」がある。

どのコンポーネントをAIで補完するか

このうち、人間の創造的活動を対話型AIが補完できるとすれば、その中心となるのは「記憶」に関する部分であろう。「〇〇分野で課題だと聞いたことは何だったっけ?」、「〇〇といえばどんな事例があったっけ」、「〇〇をしたときの教訓や経験は何だっけ?」といった問いは、特にイノベーションの分野では重要なものである。対話型AIを活用すれば、自分の記憶だけではなく、インターネットに広がる記憶を含めて活用するようなことができる。

「概念とカテゴリー化」でも、概念への抽象化や、類似の、あるいは対立する概念を調べたりするのに有効だろう。実際に、ChatGPTで「〇〇を概念化して」とか、「〇〇と対立する概念は何か」と聞けば、予想以上の回答が返ってきて驚くことがある。

「アナロジー」も、なかなか思い付くことが難しい場合もあるが、対話型AIの活用可能性がある。ChatGPTに「〇〇についてアナロジーで分析して」というアバウトな問いを入力しても、想像以上にしっかりとした回答が返ってくる。自分の関心に完璧にマッチした例ではなくても、一つ回答が返って来れば、そこから新たに自分のアイデアを着想するきっかけにもなる。

その一方で、「ビジュアル化」については、何らかのビジュアル化はAIで可能であるものの、創造的活動に資するよう、適切に概念や情報をビジュアル化することは現在の技術では容易ではない。逆に言えば、そこは今後のビジネスチャンスでもある。

また、「メタ認知」については、人間側の情報をよりリッチに取得する必要があるが、対話型AIの場合、過去に入力した質問からメタ認知をサポートすることはできるだろう(このアイデアはChatGPTから頂いたものである)。

必要なのはAI時代の「教養」

このように見てくると、対話型AIを創造性に高めるために活用する方法はいくつもあることが分かる。認知科学の研究成果に基づいて考えて行けば、漠然とAIを使いこなすというだけでなく、どこにどのように使えばよいかが分かってくる。

その一方で、本稿からも分かるように、使いこなすためには人間側が幅広い知識について、少なくとも「とっかかり」となるものは持ち合わせておかなければならない。また、アナロジー、メタファー、組み合わせといった思考法についても、それなりに経験を持っておかなければならないだろう。

こうした幅広い分野の知識を持っておくことや、柔軟な思考法について経験を持っておくことが、AI時代の教養として必要なものなのではないだろうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?