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「若者はテレビを見ますか?」という質問は、いつもどこかズレている。

職業柄、広告会社で若者研究をしていると「よく聞かれる質問」がいくつかある。

その代表的な質問の1つが「今の若者はテレビを見ますか?」だ。

僕自身も聞かれるし、若者へのインタビューに立ち会っていると、この質問を投げかける大人は多い。

この場面に出くわす度、僕はモヤモヤする。
何かがズレている、という感覚だ。

その正体を、例によってパワポで紐解いてみた。

今日はそんな話。

■どっちのテレビ、で捉えるか

僕のモヤモヤの1つは「テレビ」とは何を指しているのか?という違和感だ。

よくある質問を受けている時の感覚

実際、若者にこの質問を投げかけると「見ますよ。(番組名)とか。」と、具体的な番組名が加わって返ってくることが多い。

ちなみに「水曜日のダウンタウン」が多い

このやりとり、会話としてはギリギリ成立しているが、質問者の聞きたかった意図は少し違うだろう。

このズレの正体を紐解くと、質問者はメディア単位若者はコンテンツ単位で発想していたことがわかる。

まず基本構造として、私たちはテレビを通じてコンテンツを視聴する。テレビを点けることは目的ではなく、コンテンツを観るための手段だ。

「テレビ」という言葉は「テレビ媒体」「テレビ番組」に分解することができる。言い換えれば「メディアとしてのテレビ」「コンテンツとしてのテレビ」だ。

冒頭の「今の若者はテレビを見ますか?」という質問には「テレビのメディアパワーは健在か?」という意図が込められている。

「テレビ VS ネット」という構造で捉えたがるメディア業界、広告業界ならではの発想とも言えるだろう。

これに対して若者が「見ますよ。(番組名)とか。」と答える。質問の意図に合わせて翻訳するならば、「テレビのコンテンツパワーなら(一部の番組で)健在です」と、なるだろう。

つまり質問者はメディア発想で聞き、若者はコンテンツ発想で答えているのだ。

質問の意図に合わせて補正した場合

このズレを認識せず、「やっぱり若者だってテレビ見るじゃん!まだまだテレビは強いぞー!」とメディアパワーで捉えていると、これはもう致命的なズレになるだろう。

テレビが古いのではなく、メディア発想が古いのだ。

■コンテンツよりメディアが強かった時代

「今の若者はテレビを見ますか?」という質問が生まれる背景として、コンテンツとメディアの関係性の変遷にも触れておく。

メディア発想が生まれた背景には「一部のメディアによるコンテンツの独占」が挙げられる。

YouTubeやNetflixが普及するまで、映像コンテンツは「テレビ」と「映画」でほぼ独占されていた。

コンテンツはいつの時代も強いが、そんなコンテンツを独占しているメディアはもっと強かった。

これがメディア発想の原点となる。

言わずもがな、今は違う。

世の中に流通する映像コンテンツの総量は激増し、同じ映像コンテンツを複数の手段(メディア)で観ることも可能になった。

一部のメディアがコンテンツを独占していた時代が終わったことで、発想の起点がコンテンツに変わった

■テレビは生放送、という新たな発想

そんな若者とテレビの関係について、最近、興味深いやりとりがあった。

いつもの「今の若者はテレビを見ますか?」の流れで「地上波放送」について聞いた時のことだ。

とある大学生からこんな返答があった。

「テレビは生放送」という新しい発想だ。

もちろん、全ての地上波番組は生放送ではない。その大半は事前収録した映像コンテンツを放送している。

ではなぜ大学生は「テレビは生放送」と言ったのか。その背景にはYouTubeやNetflixの存在がある。

大学生は続けた。

「Netflixとかって面白いと連続で観ちゃって、時間溶かしちゃうんですよね。地上波はそれがないからいいです。

なるほど。僕は「これは議論が一周したな」と感じた。

構造としてはこうなる。

動画配信サービスは、自分が主体となっているから、いつでも、どれでも、どれだけでも観ることができる。一見メリットばかりに思えるが「時間が溶ける」「やめ時がつくれない」という側面もある。

一方、メディアが主体となっている地上波放送は違う。いつ、なにを、どれだけ放送するかはメディアが決める。時間と量が決まっているから、無制限に時間を溶かしてしまうことはない。

この「時間と量が決まっているコンテンツ」のことを先ほどの大学生は「生放送」と表現していたのだ。

映像コンテンツと言えば「地上波放送 < 動画配信サービス」に変わりはじめた今、「生放送」の意味も変化しはじめているのかもしれない。

また、そんな地上波放送によって「時間の感覚が身につく」という捉え方も新鮮だ。
これまで朝の情報番組で時間を確認する習慣はあったが、その範囲が明らかに広がっている。

スマホが登場した時代「もう腕時計はいらない(スマホでいい)」という議論が起こった。実際、腕時計を付けずにスマホで時間を確認する人は多い。

しかしスマホで動画コンテンツを再生するのが当たり前になった時代、先ほどのように時間はどんどん溶けていく。

実際、iPhoneでYouTubeを横画面にすると時計の表示が消える。

そのうち私たちは、地上波放送をカレンダー代わりにするのかもしれない。

冒頭の「今の若者はテレビを見ますか?」という質問に対しても、僕は次からこう回答するかもしれない。

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