フィンランドが国を挙げて取り組むデジタルメディアリテラシー教育
『フィンランドはフェイクニュースの戦争に勝利している。その学びは西側民主主義にとって大切なものである(Finland is winning the war on fake news. What it’s learned may be crucial to Western democracy)』(CNN 2019年5月18日)
目を引くタイトルに誘われて読んでみたところ、とても示唆に富む先端的な取組みがレポートされていました。気になるポイントをいくつか箇条書きでまとめておきたいと思います。
①フィンランドでは2014年に政府によるフェイクニュース対策としての研修プログラムを始めたそうです。読者を欺こうとするSNS投稿を見分けるためのチェックリストや、ボットを見極める方法、ディープフェイクと呼ばれるAIを活用した偽動画の紹介などを、政府職員、市民、ジャーナリストを対象にした講座を通じてトレーニングを実施しているとのこと。首相官邸のチーフ・コミュニケーション・スペシャリストであるJussi Toivanen氏は昨年だけで1万人以上を対象にトレーニングを行ったと語っています。
②フィンランドはロシアと国境を接していることもあり、101年前のロシアからの独立以来、警戒心を持っていたことが背景にあります。2014年のクリミア侵攻以降、インターネットが情報戦争の主戦場であることにいち早く気づき、メディアリテラシー教育を国を挙げて取り組み、民主主義、国の安全を守ろうとするきっかけになったそうです。
2015年にはフィンランド大統領により「すべてのフィンランド国民は誤った情報との闘いに対して責任を持つべきである」と呼びかけがなされ、翌年には米国から専門家を招き、政府職員らに対する研修を行ったそうです。同時にクリティカル・シンキングを強調するよう、国の教育システムの改革も実施したほどの力の入れようでした。その結果は以下のグラフに示されているとおり、欧州諸国35カ国中、メディアリテラシーのスコアはトップに位置しています。最下位には2016年の大統領選で若者が次々にフェイクニュースサイトを立ち上げたことで知られるマケドニアがランクしています。
画像:CNN
記事の後半ではファクトチェック機関と提携する学校での具体的な授業の様子、米国から専門家を招いて具体的にディスインフォメーション対策に取り組んだこと、そして読書の習慣が歴史的に国民の間に浸透していることなどが描かれています。
もちろんリテラシー教育の推進だけでは十分ではなく、まだまだオンライン上の情報戦争は進化していく筈なので今後も引き続き注意して対策を講じていくべきである、という慎重なスタンスが印象的でした。
EU諸国やシンガポールなどからフィンランドの取り組みを学ぶべく視察が相次いでいるとのこと。こうした取り組みは国内でも政府機関、そして教育に携わる関係者の人にも多く伝わればよいのでは、と期待したいところです。
今日から始まる欧州議会選挙ではEU諸国での極右政党の台頭が話題になっています。フィンランドではどのような選挙結果になるのか、ちょっと注意して見てみようと思います。
(カバー画像:Canva)