「あってはならない」なんて道徳的建前論が犠牲者を増やす

パワハラについて書きます。僕は独身研究の傍ら、職場いじめについても取材していて、今までも職場いじめ・パワハラについては記事化しています。

そんな中、こんな記事を見ました。

今回、痛ましくも自殺されてしまった方は、上司のパワハラで、推測ですが、多分適応障害になっていたと思われます。一度休職したにも関わらず、復職後、一応別のグループに異動したものの、元の上司の席に近いところで働かされた、とある。

もし彼が「適応障害」だったならば、この対応はいただけません。適応障害は、鬱病と違い、ストレスの原因元が特定されています。一般的には特定の辛いと感じる環境・状況から離れると症状が緩和されて、徐々に日々の生活に楽しみを見いだせるようになってきます。

この場合、ストレスの原因は上司なわけです。だから、本来、会社がすべきことはこの若者と上司とを完全に分ける必要があった。ランチで一緒になることも避けるくらい気を遣うべきだった。もっというなら、上司の方を異動させるべきなんです。

それをやらなかったばかりに、彼はストレスの原因から四六時中離れることができずに、ついに自殺してしまうのです。もしかしたら回避できた自殺なだけに残念でならない。

以下は朝日新聞からの引用です。

死亡の原因がパワハラだとは、豊田氏に報告がなかった。同11月の労災認定の報道で初めて知った豊田氏は、副社長と2人で遺族らと面会。それまでトヨタは会社の責任を認めていなかったが、この場で自ら責任を認めた。さらに自身に報告がなかったことを「これが今の会社の体質」と表現し、再調査と再発防止策の実行を約束した。

一般的に、パワハラといっても、最近は、暴力や暴言など明らかにNGであるような例は少なくなっていて、むしろ狡猾で陰湿な「心の殺人」が増えています。

なぜでしょう?

バレないようにするためです。そして隠蔽しやすいようにするためです。

誰もが知る大企業の社長や役員レベルが行うパワハラ事例もあります。就業規則の名の下で平気で労基法違反、憲法違反を強制する管理職の事例もあります。報道されたとしても誰も目に留めなかったり、そもそも水面下に隠れて可視化されていない事例もたくさんあります。社内の中で隠蔽されたら、そもそもなかったことにされます。自殺という最悪の事態にならないと問題化しないということ自体が問題です。

自殺までいかないとしても、会社のパワハラや職場いじめによって、この自殺された方のような適応障害に陥り、心を病んだり、退職を余儀なくされる人たちはたくさんいます。どこの会社でもありえることです。

この報道に対し、加藤官房長官は「あってはならないことだ」とコメントしているようですが…。

多分一番パワハラが多いのは、大臣による官僚へのパワハラ、議員による秘書へのパワハラじゃないんですかね?

最近、温和な顔になったと噂の豊田真由子氏も議員時代は「このハゲーっ」パワハラしていたました。

官僚も官僚で官僚内のパワハラなんて多分中の人からしたら日常茶飯事ではないですか?

こんな事件もありました。

そもそも、パワハラ防止云々って言ってる厚労省の当のパワハラ相談員によるパワハラ事件もありましたよね?

地方の街でもこんな追い出し部屋事件もありました。

何もことさら政治家や官僚や公務員がダメだと言いたいわけではない。政治家であろうが、公務員だろうが、民間会社だろうが、学校だろうが、人間と人間が接触する以上どこでも誰にでもハラスメントは起きるのです。

「あんな人が?まさか、そんなことするはずがない」というパワハラ事件だってあり得る。Aさんという部下にはとても良い上司でも、Bさんという部下にとっては悪魔になる場合がある。人間と人間の関係性で起きるものである以上、相性があわなければそういうことが発生します。

むしろ、加藤官房長官のように「あってはならぬ」なんて建前論言ってるからいつまでもこういう悲劇がなくせないんですよ。

「あってはならぬ」ではなく「いつでもありえる」なんです。

最悪、パワハラは起きるのは仕方がない。しかし、少なくとも、それで誰かが自殺したり精神的に追い込まれないように、早期発見や適切な対処をすることの方が大事です。

そして、パワハラを受けている被害者に言いたいのは、どうか我慢しないでいただきたい。自責しないでいただきたい。そんなくだらないことをする人間のために、自分の命や人生を台無しにしないでほしいのです。

パワハラをする人間ひとりいなくなってくれるだけで、すっきりすることも多いです。そして、パワハラする人間がいたからといって、その会社の人間が全員クソなわけでもありません。

ぶっちゃけその会社だけが働くフィールドではない。辞める覚悟で、社長直々に内容証明でクソ上司のパワハラ告発書をしれっと送ったっていいんです。それでも何も変わらないなら、さっさと辞めてしまった方が身のためです。

パワハラする側は「そんな悪意はなかった」とかよく言い訳しますが、それは嘘です。心にダメージがあるようにやっているから、こたえるのです。悪意がないはずがない。また、しつこく、毎日のように攻撃してきたり、一度のの過去のミスをねちねち言ってくるタイプは、悪意どころか、もはやそれ自体が快感になっているはずです。

僕は、個人的には、会社や組織内で起きたパワハラについては、個人名の公開をするという法律改正があってもいいと思います。会社だけが報道されますが、個人名は公開されません。そして、こういうパワハラをする人間が会社内で必ずしも相応の制裁を受けるわけではない。何年か後にのうのうと出世したりする場合もある。そして、同じ人間はまた同じことを繰り返すのです。

たった一回のネットの誹謗中傷も罪に問われます。削除しても謝罪しても、もし被害者が自殺してしまったら取返しがつかない。パワハラも同等です。冒頭に言った通りこれは「心の殺人」です。ある意味、殺人犯として一生の十字架を背負うほどの罪があります。

パワハラするのならそれくらいの覚悟でやれってことですよ。

守られるべきは加害者の今の生活や未来ではなく、被害者であり、もっというなら、少なくとも自殺するような被害者を生み出さないことです。



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