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地方創生は、経営者がイノベーションの起こし方を「学ぶ」ことがカギになる

東洋経済オンラインで連載されていた、デービッド・アトキンソン氏のコラムが非常に秀逸であり、日本経済の課題が的確に指摘されていた。

アトキンソン氏の指摘をまとめると以下の3点に集約できるだろう。

 ・収入の増加の必要性

 ・中小やベンチャー企業の大企業化

 ・テクノロジー活用の姿勢が鈍すぎる

たしかに、日本企業や自治体で取られている対策は対症療法的であり、「のんき」でスピード感がない。これら3点は、日本企業の国際競争力の低下に対して致命的だ。

例えば、収入1つとってみても、現状維持が如何に危険かよくわかる。日本企業の初任給は30年近く据え置きだが、世界に流通している通貨供給量は急増している。90年代の通貨供給量は約20兆ドルだったが、2016年の通貨供給量は87.9兆ドル(約1京円)であり、4倍に膨れ上がっている。つまり、世界経済の総量を100としたとき、通貨(1ドル)の価値は相対的に毎年減少している。据え置きと言いつつ、経済的価値を基準にすると減少している。


地方の地場企業は大企業化を目指しているか?

アトキンソン氏の記事で「のんき」だと指摘をされた1番の対象は、日本企業の9割を占める中小企業の経営者だろう。中小企業が大企業化し、賃金水準が上がらないことには日本の平均所得は向上しない。特に、緊急度で言えば、都心の中小企業ではなく、人口減少と財政破綻が危惧されている地方都市の中小企業が変わる必要がある。しかし、多くの経営者はこう思ったのではないか、「そうは言っても、利益構造が良くならないと給料なんて上げられない」。

まずは利益構造を改善させようと、業務プロセスの改善や新商品開発に力を入れ、従業員が活き活きと働けるように働き方改革に力を入れている企業も多い。しかし、利益構造を改善させる取り組みを考えるときに、大企業化するためのビジョンを描くことができている企業はどれだけあるだろうか?

大企業化するということは、中小企業として上手く経営してきたビジネスモデルを捨て、大企業化するためのビジネスモデルを新たに作り上げるということだ。銀座の久兵衛がどれだけ上等な江戸前寿司を提供したとしても、その延長線上に大企業化することはない。事業の目的や方向性が異なるためだ。寿司屋が大企業化するには、回転寿司や宅配寿司、デリカテッセンといった異なるビジネスモデルを取り入れる必要がある。

基本的に、ビジネスモデルが想定している市場規模よりも事業が大きくなることはない。このことは、自動車の製品開発で考えるとわかりやすい。軽自動車は日本の特殊な区分けで作られているため、基本的には日本市場でしか売れない。逆に、トヨタのカローラや日産ティーダ、ホンダのシビックのような世界戦略車は商品開発の時点で、全世界の生産工場での量産と販売を念頭に入れて作られる。国内市場向けの自動車しか商品開発していない状態では、海外市場で売り上げを上げることができず、企業規模は日本国内の市場規模に縛られる。近年は、軽自動車も新興国での販売を視野に入れているため、1リッターのエンジンを積載し、途上国のニーズに応えられるように開発されている(スズキのアルトやワゴンR、ジムニーなど)。グローバル規模でビジネスをするためには、世界市場に合わせたビジネスモデルを考える必要がある。

国内市場向けの軽自動車とグローバル市場向けの世界戦略車が異なるように、大企業へと成長するためには、中小企業が大企業の規模間で市場を想定し、新たなビジネスモデルを創造しなくてはならない。既存の中小企業としての成功体験から脱し、大企業へと成長するための新たなビジネスモデルを構築すると言うプロセスは、ビジネスモデルのイノベーションが求められていると言い換えることができるだろう。


ビジネスモデルのイノベーションを起こす行動をしているか?

大企業化するためのイノベーションを喚起するためには、従業員のやる気を掻き立てるより、まず経営者がイノベーション志向を身に着けることが第一歩だ。ハーバード・ビジネススクール教授のリンダ・ヒルは、優れたイノベーションが発揮される組織は、リーダーがメンバーの創造性を刺激し、最高のパフォーマンスを発揮できるように補助的なリーダーシップを発揮していると述べている。しかし、同時に、リンダ・ヒルが調査した組織のリーダーは皆が明確なビジョンを持ち、新しい変化を生み出すことメンバーに強く求め、メッセージを伝えている。つまり、大企業化を目的としたイノベーションを求めていることを、経営者が明確に従業員に伝え、実践していくことが必要だ。

中小企業としてのビジネスノウハウを蓄積してきた経営者は、言わば中小規模の企業経営のエキスパートだ。元々が大企業で職務経験があるならともかく、中小企業でのみ経験を積んできた人材が、急に大企業の視野を持つことは簡単なことではない。中には天才的にできる人もいるが、基本的に人は自分が経験したことからではないと専門性を身に着けられないためだ。しかし、経営学はこのような状況において、どのように行動すべきなのか解決策を示唆している。


イノベーションを喚起する2つの行動

イノベーションは、多様な意味合いを含む概念だ。普段のちょっとした工夫から世界を変革するような大きなものまで、さまざまな現象を含む。そのため、経営学の世界でも研究によって定義が多様であり、何をもってイノベーションと呼ぶのかは定まっていない。しかし、経営学としてイノベーションを考えた時、そこには1つの合意がある。ヨーゼフ・シュンペーターが述べたように、既知の要素同士を新しい組み合わせ(新結合)することで生み出される。自分の良く知る事業も、まったく別分野のことを掛け合わせることで、新結合が起こり、イノベーションの種ができる。

例えば、連続テレビ小説「まんぷく」のモデルとなった安藤百福は、アメリカでのスーパーマーケットで紙コップとフォークでチキンラーメンを試食しているのを見て、カップヌードルの着想を得ている。袋めんのチキンラーメンが、アメリカでのスーパーマーケットの試食と結びつくことで新結合が生まれている。また、カップヌードルのフタの素材は、アメリカから帰国する際の機内食で出されたマカダミアナッツの密封パックがヒントになっている。まさに、新結合のための要素は、どこに潜んでいるのかわからないと言える。経営学では、できるだけ元々の事業と関連性の薄い、多様な事象や知識と触れることで新結合が生まれやすくなると言われている。


「知の探索」行動

多様な事象や知識に触れるための行動は、早稲田大学の入山教授の言を借りると「知の探索」と呼ばれる。「知の探索」を進めるためには、企業間提携や産学官連携によるオープン・イノベーションや組織内のダイバーシティ推進のように企業が採ることのできる施策と、個人ができる行動がある。

特に、「越境学習」が重要な個人ができる行動だ。 越境学習とは所属する組織の枠を自発的に越え、職場以外に学びの場を求めることだ。例えば、ビジネススクールに通ったり、バックグラウンドの異なる人々が集まるセミナーに参加することがあげられる。

意識をして行動しないと、経営者の交友関係は閉鎖的になりがちだ。経営者仲間や同業者としか交流をしなくなると「知の探索」が疎かになる。イノベーションを志向するのであれば、多様な価値観やバックグラウンドを持つ人々が集まる場に赴き、「知の探索」を進んで行うことが肝要だ。


「知の深化」行動

イノベーションは、新結合が見つけられれば達成できたかというと、そうとは言えないだろう。ハーバード大学のテレサ・アマビレ教授は、イノベーションには新しいアイデア(新結合)が実行された結果として認識されると述べている。つまり、実行のためのノウハウも必要となる。「知の探索」によって新結合が生まれても、事業への応用ができなければ意味がない。

そのため、すでに獲得した知識や関連した知識に改良を重ね、事業への応用力を高めるために、知識を深める行動も重要となる。このような、応用のために知識を深めることを「知の深化」と呼ぶ。

例えば、ジェームズ・ダイソンは、掃除機業界に革命を起こした起業家として知られるが、彼の新結合は「ボール」だった。掃除機や自動車等、多くの移動物がタイヤを持つが、ダイソン氏は球体のボールの方が優れていると考え、若い時にはタイヤの代わりにボールを使った水陸両用の車や手押し車を開発している。その後、サイクロン掃除機を開発して、ダイソン氏は成功をおさめるが、移動体としてのボールをどのように応用するのか、試行錯誤と研究を続け、知の深化を進めていった。その結果、ダイソン社の“ボール エンジニアリング”は同社を代表する技術の1つとなっている。

発見した新結合を事業に応用するためには、試行錯誤や独自に研究をする期間が必要となることが多い。知識だけではなく、実践による応用力を身に着けることは、「知の深化」のために必要なスキルだ。このような応用力を身に着けるためには、先述した越境学習の場を新たな知を獲得するためのインプットの場とするのではなく、アウトプットも同時にできる場とするべきだ。

優れたイノベーターは、「知の探索」と「知の深化」をバランスよく活用することができることが多い。「知の探索」に傾倒しすぎると、軸がなくなり、逆にパフォーマンスを下げることがある。このことは企業内でも同様で、従業員に多様性を持たせ過ぎてしまい、コミュニケーションやマネジメントの難易度があがることから業績を下げてしまうことがある。一方、「知の深化」に傾倒しすぎると、身近にある知識だけを活用し、「知の近視眼化」を引き起こす。


地方経済を盛り上げるために地場企業の大企業化を目指す

冒頭でアトキンソン氏のコラムを引用したように、日本経済を再生させるには大企業を増やし、給与水準を上げる必要がある。特に、財政基盤の弱い地方都市では猶更だ。しかし、中小企業の経営者の多くは、そもそも大企業になりたいと思っていないし、自分へのメリットも薄いと感じているのではなかろうか。

このままだと破綻することが目に見えているのに、何もしないことはゆっくりと自殺しているに等しい。そのため、少しでも「地元を良くしたい」「このまま元気がなくなる一方の地元をなんとかしたい」という気持ちがある人々が集まって、地方都市から大企業を生むための、学習の場を作って欲しい。

地元の良いところを活かして、地元民が一体となって地域おこしをすることは悪いことではない。しかし、それで起こるイノベーションは漸進的なものであり、アトキンソン氏の言葉を借りると「のんき」だ。

テクノロジーと物流システムの発展のおかげで、都市と地方のビジネス上の格差は小さなものとなっている。最も大きな格差は、イノベーションに対する意識の違いだろう。

本当に地方創生をするのであれば、小さな成功の積み重ねという積み上げ型の思考ではなく、大企業化を目標に据えた逆算型の思考で行動を選択するべきだ。そのために、まずは地場企業の経営者が率先して、イノベーションを起こすための2つの行動をとって欲しい。

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碇 邦生(大分大学)

大分大学経済学部の講師(人的資源管理論)をしています。採用や育成などのタレントマネジメント、地方創生・地方発ベンチャーなどの話題を中心に取り上げていきます。自動車メーカーやシンクタンクを経て、30代で大学教員とジョブホッパーです。 ※日経のキーオピニオンリーダーに選出されました。

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