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ベーシックインカムを越えよう

最近、ベーシックインカム(以後、BI)に関するニュースが増えてきましたね。いくつかの国や地域で導入(あるいは実験)が進められているようです。新型コロナウイルスの影響で大量の失業者が出てしまったことに伴い、最先端のセーフティネットとして世界中で期待が高まっています。

私が学生の時なんかは完全に夢物語でしたが、なんだかリアリティが出てきた感があります。

BIとは、最低所得保障制度のこと。諸々モデルによって細かい違いはありますが、つまりは、その人が働いていようがいまいが、最低限の収入を行政が保証するものです。

例えば、生活保護には受給するのに数々の条件があり、審査もあります。ところが、BIには基本的に受給条件がありません。該当する地域の全住民が対象です。よって、受給認定などの手間がなくなる分、行政の効率化も期待されています。

一方で、しばしばあげられるリスクは勤労意欲の低下です。働ける人まで働かなくなってしまうかもしれないと。あとは財源ですね。もし日本なら、全国民に一律月5万円を支払った場合、年に70兆円以上かかることになります(税収オワタ)

ただ、もちろん全員が利用することにはならないでしょう。実際にどれくらいお金がかかるのかは、やってみないとわかりません。各国の実験結果が気になります!


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ところで、もしBIが実現したらどうなるんでしょう。例えば、日本で実現したら、今より幸せになる人は増えるのかなあ。

現代にあって「幸せ」の形はとても多様なので、一概に回答できませんが(もらえる金額によっても変わりそうだし)、NPOスタッフとして社会問題の最前線で働いている私の感覚からすると、少なくとも十分ではないと感じます。

なぜなら、個人のお金で解決できる問題って、そう多くないんです。


例えば、シングルマザーと子どもの世帯。BIで毎月15万円もらっていたとします。毎月確実に入ってくるお金があるとはいえ、これでは生活は厳しいです。お母さんはキャリアアップを目指して頑張って働こうとします。

でも、子どもは病気がちでした。登園しても、毎日のように保育園からお母さんの携帯に電話がかかってきます。その都度、会社から子どもを迎えに行かないといけません。現在のお金ではベビーシッターも雇えません。この家族は、結局苦しい生活から抜けられずにいました…


ちなみにこれ、よくある話です(だからフローレンスが病児保育事業をやっている)。この他にも、例えば産後うつになって社会復帰が困難になり、それが虐待につながってしまったり、あるいは、子どもが医療的ケア児で文字通り24時間目が離せなくて働くどころか眠ることすらできない状況になったり、等々、ある日を境に突然苦境に陥り、そこから自力で抜け出すのが極めて困難になるケースはとても多いです。誰にでも起こりえます。

そしてこれらの問題は、個人の努力で解決することはとても難しいです。精神的にまいっている時ほどそうです。

こういう場合に必要なのは、お金ではなく人の手です。専門家の知見です。そして、そういう人とつなげてくれるサービスこそ重要なんです。

こういうサービスを、全ての人のセーフティネットとして行政が無料で提供する。この仕組みをベーシックインカムと対比して「ベーシックサービス」といいます。私はこれこそ大切だと思うのです。


例えば、さっきの病気がちな子どもを抱える家庭に、自治体が無料で病児保育を提供していたら? 

お母さんが産後うつにならないように、専門スタッフが産前から産後までずーっとお母さんに寄り添い、必要に応じて適切なサポートができていたら?(フィンランドの"ネウボラ"という仕組み)

障害児でも医療的ケア児でも、健常児と同じように保育園に預けることができていたら?

それぞれの家族の運命は、全く違ったものになっているかもしれません。


だけど、こういった仕組みは個人で整えることはできませんし、少々のお金があってもどうにもなりません。行政やNPO、企業などの組織が企画運営する必要があります。ある意味、単に個人にお金を配布するより遥かにハードルが高いです。

でも、絶対に必要だと思います。


こういうことについて考える度に頭をよぎる本があります。ブレイディみかこさんの「子どもたちの階級闘争」です。厳しい階級社会である英国、その貧困地区のど真ん中にある「底辺託児所」で保育士として働く著者の渾身のドキュメントです。

「底辺託児所」ではかつて、英国でもっとも困難な状況にある人たち(ホームレス、依存症、DV等々)の子どもを底辺から引き揚げようという熱い情熱で運営されており、実際、小学校に入ってからミドルクラスの子どもたちに引けを取らない成長を遂げていたそうです。これをブレイディさんは「英国という国の底力」と表現されていました。この底力が、例え貧しくても何にだってなれる!という希望を英国社会に産み出し、第二次大戦後、社会の高い流動性を実現させました。

ところが、近年の緊縮政策の流れで、こういった施設の運営予算が大幅にカットされます。生活保護は細々と継続されますが、貧しい人たちは子どもを預ける先を失ってしまいました。その子どもたちは、小学校に入るころにはミドルクラスの子どもたちとは比較にならないほど発達が遅く、それは成績に反映されてしまいます。そして以後、この差が埋まることはほとんどありません。

結果として、貧困の連鎖が起こり、社会階級は固定化されます。そして現在の「ブロークン・ブリテン(壊れた英国)」と揶揄される深刻な社会問題に繋がっていきます。


人は、苦しい時、貧しい時、間違いなくお金が必要です。お金があれば、生きていくことはできるかもしれません。だけど、人間は生きるために生きるわけじゃありません。幸せになるために生きているはずです。

そして人が幸せになるためには、やっぱり人の力が必要なんじゃないかと、この本は確信させてくれます。

もっとも、人の幸せとは何か、それはわかりません。だけど、人が自身の幸せのために何かしたいと思った時、それを支えてあげられる社会だったらいいなと思うのです。

ベーシックインンカムを超えた、みんなで助け合うのが当たり前の社会の仕組み「ベーシックサービス」どうでしょうか!


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前田晃平
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