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内定者のキャリア構築が、“入社前”から始まっている理由。

皆さん、こんにちは。今回は「内定者育成」について書かせていただきます。

10月。各社一斉に内定式が開催された頃だと思います。
「内定式」は、企業が内々定を出した学生へ正式に内定を通知するために行う場でしたが、その形を維持している企業が今現在どれくらいいるかは分かりません。実際には就活の早期化に伴って、正式な内定通知を10月1日の内定式より前に行っている企業が多いのではないかと予想しています。

ただ、多くの企業は内定式で採用通知を学生に交付し、その後の入社(内定)承諾書の提出をもって、正式に「入社」する人員としてカウントをするということが一般的です。

内定式一つとっても、内定者にとっては、企業や事業、先輩や同期を知る機会として捉えていて、企業にとっては内定者の意欲を高め、入社後の活躍確率を引き上げるための貴重なコミュニケーションの機会となります。

内定者として、入社までの残りの半年間をどのように過ごすと良いのでしょうか。
また、企業側はどのように内定者と向き合い、入社前に良い関係を構築していくと良いのでしょうか。

若い社員への期待感が日に日に増していく中、内定者と企業がそれぞれできることを考えていきます。

国内主要企業が2日、2024年春入社予定の学生らを集めて内定式を開いた。新型コロナウイルスの感染症法上の扱いが5類に移行し、対面開催が本格的に再開。就職情報サービスの学情によると前年比1.2倍の9割超の企業が対面を選んだ。リアル開催で働く一体感を醸成する。

■内定式をどのような場として捉えるべきか

そもそも内定式を開催する目的とは、

  • 学生の入社の意志を確認するため

  • 内定者の不安を払拭し、入社後の良いイメージを膨らませるため

  • 内定者の企業や事業への理解をより深めるため

  • 先輩社員や同期と顔を合わせる機会を作り交流を深めるため

  • 配属先の候補となる部署の情報を提供し、配属希望を固めてもらうため

  • 社会人になるにあたっての意識を高めてもらうため

など様々です。記事には、

就職情報サービスの学情が9月に企業などに実施した調査では95%の企業が内定式を対面で実施すると回答した。22年(78.4%)から大幅に増えた。新型コロナ禍前と同規模で開催する企業は8割超となった。

とありましたが、今年はコロナ前と同じ規模で、対面で内定式を実施する企業が大幅に増えました。

入社後の定着や活躍を見据えると、内定式とその後の入社までに顔を合わせる機会は非常に重要です。

  • 内定者が知りたいことに対して、しっかりと情報提供ができているか

  • それぞれが抱えている悩みや不安を把握し、払拭する機会を作っているか

  • 入社後にイメージと違ったということがないように、ギャップを解消する取り組みができているか

  • 先輩社員やメンターとの接点作りなど、コミュニケーションラインを複数提供できているか

というような点を意識しながら、丁寧な対話を通して、内定者が「この会社で頑張って働こう」という意志を固めたり、目標を設定し、入社前からできることを見つけ、積極的に取り組みを開始できるようなきっかけを作っていかなければなりません。そのような一つ一つの対話や対応が、入社後のパフォーマンスを高めることにもつながるのです。

こちらの記事には、

マイナビが公表した24年卒の「企業新卒採用活動調査」によると、6月時点の採用充足率は「ここ数年で最も低下している」という。8割以上を充足できたのは19.0%で、23年卒(22.9%)や22年卒(28.2%)、さらにコロナ前の20年卒(23.5%)も下回った。

とありますが、採用活動を長く続ける企業があるということは、内定式を経ても内定者の心境の変化により、入社直前まで「入社(内定)辞退」される可能性があるということです。

内定式を単なる“通過儀礼”と捉えるのではなく、内定者と企業との関係を深化・強化する場として捉える必要があります

こちらの記事には、内定式当日に内定者との面談を実施する企業の事例が紹介されています。
従来は入社後に実施していたものがどんどん前倒しされ、「内定者との個別のキャリア面談」だけでなく、「配属先決定」までも入社前に行う企業が出てきています。

企業が入社後のキャリア形成などで内定者に寄り添う背景には、主導権が学生側に移っていることがある。なかでも注目されるのが希望部署に行くか分からない「配属ガチャ」への対応だ。24年卒では内定を複数もつ学生が多い。選び抜いた入社先で、配属が希望に合わないと失望感につながりやすい。

内定者に対する企業のフォローが、これまで以上に重要視されている背景には、

  • 内定を承諾し入社の意志を示していた学生でも、入社直前に入社を取りやめるケースが増えている

  • 内定者の希望にそぐわない形で配属(部署・勤務地・職種・業務内容含む)になると、離職リスクが高まるため、配属前に丁寧なコミュニケーションが必要になっている

  • 配属先も含め、入社後も見据えたキャリアの選択肢をできるだけ広げるために情報収集をしっかり行いたいという学生のニーズが高まっている

などのような理由が考えられます。

今から半年後の4月に新卒社員が入社し、配属されてから「キャリア面談」を実施したり、その後のために「キャリアチェンジの制度や仕組み」を整えていればOKと考えている企業は少なくありませんが、入社前の段階から内定者は既に働く部署や働き方、今後のキャリアを悩み始めていますそのタイミングで適切なコミュニケーションを図らず、「入社後に晴れて “同じ会社で働く仲間”となってから手厚くフォローする」のでは遅いということなのです。

採用を担う人事部門は、現在1年目の新入社員のフォローだけでなく、来年入社してくる内定者のフォロー、さらに次年度の新卒採用活動も始まっていて3世代程度を一気にケアしなければいけません。

新入社員、そして内定者の離脱を防ぎ定着を図るためには、人事部門だけでなんとかするという発想も変えていくことが重要で、あらゆる部署、職種、年次、スキル、キャリアを持った社員と密に連携しながら、内定者と継続的に接点を持ち続けるための仕組みを生み出していく必要があると思います。

■企業は内定者とどのように向き合うべきか

こちらの記事には、

仙台銀行が、本店のリノベーションに力を入れている。遊休スペースを商談や休憩などに使えるフリースペースなどに造り替えている。これまでも女性管理職や若手登用などソフト面での働きやすさに注力してきたが、ハード面のリノベを通じて堅苦しい銀行のイメージを覆す狙いがある。

とあり、採用活動でも、会議室で行ってきた頭取による新入行員の最終面接をトークサロンで実施し始めるなど、内定者や新入行員が抱く従来の銀行に対するイメージを払拭し、優秀な人材を取り逃さないようにする工夫を施しているそうです。

このような事例からも、内定者や新入社員への対話や対応の重要性が以前よりも増していることが分かります。

1、長期インターンシップなどの就業体験(実務に近い形で学生を育成する)
2、採用活動における選考段階(選考プロセスを通じて学生を育成する)
3、内定後~入社まで(内定者期間を通じて学生を育成する)

という段階を経て各企業の戦略や方針を十分理解し、同じ方向を向いて頑張ってくれる人材を“獲得”し、“育成”し、“成長”させていくことが求められています。もっと言うと、上記の「3」の段階から育成を始めるよりも、「1~2」のインターンシップなどの初期接点の段階、さらに採用選考段階から、個々人の能力を開発しようという視点で学生と向き合っていく必要があるのではないかと思います。

サイバーエージェントの内定者育成においては、以下のような点を意識しています。(当社の場合は、希望する内定者に対してアルバイトという形ですぐに業務を始めてもらうことが可能です。約60%の内定者が入社前にアルバイトを経験しています。)

●内定者も社員と同じように大人として接する
→社員が内定者に業務を教えることは前提として、一から十まで仕事を全て教えるのではなく、内定者の持っている知識やスキルを教えてもらうことも多々あります。お互いをリスペクトし合い、一緒に働く仲間として良い関係を築くことを意識することが大事です。社員が内定者に敬意を払わずにコミュニケーションをとっていると、そのような姿を通して会社への信頼や安心が揺らぐことを忘れてはいけません。

●会社の一員であるという当事者意識を醸成する
→今の若手世代は、自分自身が成長できるのか、会社に貢献できるのか、市場価値を高められるのかを常に考えています。そのようなキャリア観がある中で、内定者のうちから大きな仕事や意義のある仕事を提供し、学生の発言やアイディアが採用されると仕事に対しての責任感や当事者意識が生まれやすくなります。

●内定者に自社の採用活動に参加してもらう
→就活生との距離も近いため、学生目線で採用活動に関わってもらうことで、企業の採用活動においてヒントをもらえることが多いです。また、自社を志望する就活生と接する中で、会社の魅力を自分の言葉で伝えたり、入社したらどのようなことができるのかを考える過程で、企業へのロイヤリティが高まることにもつながります。

●「内定辞退対策」ではなく、「内定者への成長機会提供」をゴールにする
→正直なところ、内定者に対して「辞退率を下げるため」に内定者研修を実施したり、内定者とのコミュニケーションを活発に行っている企業は多いです。内定辞退対策をするのではなく、内定者の持っている能力ややる気を引き出し、成長機会を提供していくことに重きを置くと、結果的に内定辞退防止につながっていくということもあると思います。


内定者は、入社前はまだ学生ではありますが、会社のさらなる成長・発展のために共に成長していく未来の仲間です。社員が内定者に対して単なる一学生として接するよりも一人の仲間として接することで信頼関係が深まり、内定者自身も自然と組織へのロイヤリティが高まり、働く意欲が増していくことになります。ここに手間暇をかけて向き合っていくことのできる企業こそが、学生からも若手社員からも“選ばれる”企業ということではないでしょうか。

■内定者は内定後にどのように過ごすべきか

内定者は、ただ企業が提供する「内定者研修」などに参加していればいいわけではなく、そこで事業理解や業務内容の理解を深めることができれば、入社前にどのような知識やスキルを身に着ければ良いかがイメージしやすくなります。

企業側の指示を待っているだけでなく、内定期間をどのように過ごすべきかを自ら考え、時には社員の協力を仰ぎながら、必要なことはどんどん行動に移していくことが重要です。

内定後の過ごし方としてよくありがちな失敗例としては、

  • 他の企業を選択した人の話を聞き、本当に自分の意志決定が正しかったのか不安になり悩み続ける(隣の芝が青く見え続け、覚悟が決まっていない)

  • 学生気分から抜け切れず、与えられた課題しかやらない(自発的に何かに取り組むということがなく、言われたことだけやるというスタンスになっている)

  • 入社後に必要なスキルが全くイメージできていない(事業や業務内容に対する理解度が低く、今後必要になる知識習得など事前準備を全くしていない)

  • 配属先希望を出す際、人から聞いた噂レベルの話を鵜呑みにする(自分で情報を取りに行かずに、特定の情報だけで判断する)

  • やりたくない仕事を選び、消去法で配属先を決める(どの部署で何をしたいかという強い意志がない)

  • 就活中は面接対策として語っていたことが、心の底では納得できていない(“仕事”や“働く”ということに対して明確な意味付けができていない)

  • 新しい仕事や難易度の高い仕事を避け、無難な仕事を探そうとする(“大変そう”とか“面倒くさそう”という仕事を避けたり、大きな仕事を任されないようにする)

などです。

企業としてこれらを回避するには、一番良いのは、内定期間中にアルバイトやインターンのような形で業務に取り組んでもらうことです(もちろん学業に悪影響が出ない範囲で)。実務に近い形で実践を通して就業イメージを持つことが、企業にとっても学生にとっても有効な手段です。その過程で「仕事内容や社員、社風が合わないかもしれない」と感じる場合は、入社前に別の選択肢を模索する機会にもなり得ます。

就業型が難しい場合においても、定期的に接点を作り、しっかり最新のコンディションを把握したり、考えていることや取り組んでいることをヒアリングしながら、残りの学生生活の中でどのように過ごしてもらうのが良いか、適切なアドバイスをしていく必要があります。

企業側は、

  • 内定者一人ひとりの個性や特性を理解する

  • 内定者の機微な心境の変化を察知する

  • 内定者の最新のコンディションを常に把握する

  • 内定者のやる気やモチベーションを高める

  • 内定者の段階から、自分たちで決めて自分たちで実行する経験を積んでもらう

  • 内定者の段階から、仕事に対して自信がつけられるような経験を積んでもらう

  • 同期だけでなくあらゆる部署の先輩社員との接点を多く作る

  • マニュアルがあってその通りに進める仕事や課題だけでなく、創意工夫を発揮できるような役割を渡す

というような点を意識しながら、入社した後に良いスタートダッシュを切れるようなサポート体制を整えていくことが重要ではないかと思います。内定者も自らこのような機会を創出しに行くくらいの気概で、内定者期間を過ごしてほしいと思います。

 
最後に、繰り返しになりますが、新入社員は高いモチベーションと同時に不安を抱えて入社してきます。受け入れる側が早期に不安を解消し、必要な情報や知識を提供することができれば、仕事への意欲も高まり、安心して目の前の仕事に取り組めるようになるはずです。

キャリア形成を自律的に行いたいと考える若手世代においては、一方的に企業が教育・指導をするというよりも、自ら課題や機会を見つけ、主体的に取り組むことの重要性が上がっています

「入社後」から一生懸命育成していくだけでなく、「入社前」から育成をしていくという視点を持ち、内定者の自立的・自発的な取り組みを尊重し、そこでのプロセスや成果をしっかり評価していくことで、早期に即戦化できる確率が高まっていくことは間違いありません。新入社員の育成は、入社前から既に始まっているのです。



#日経COMEMO #NIKKEI


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