50兆円規模の『歴史的』米気候変動対策法(歳出歳入法)が持つ意味
先週火曜日、8月16日に米バイデン大統領が署名をした気候変動対策に関する「Inflation Reduction Act」(歳出歳入法案 / インフレ抑制法)について、報道等で目にした方もいらっしゃるのではないでしょうか? 補助金や税制優遇措置等含め、気候変動対策に関しての3,690億ドル(約50兆円)規模の大規模な法案として、英語圏では多いに話題になっていました。
ただ、とても気になったのは、この法案についての英語圏と日本語圏での注目度の違いです。BuzzSumoというSNS上での拡散状況分析ツールで主要キーワードを調べてみると、8月7日(上院可決)、8月12日(下院可決)、8月16日(バイイデン大統領署名)のタイミングで日英ともに山があることが伺えます(日本語:「インフレ抑制法、気候変動対策法、歳出歳入法」、英語「Inflation Reduction Act、Climate Bill」)。その規模は日本語でのピークは1日30件程度なのに対し、英語圏でのピークは1日1,300件を超えていることが分かります。もちろん、海を超えた外国の法案の話なので当然といえば当然なのですが、グローバルな気候変動対策をめぐるトレンドという意味において国内でも重要度が高まっているテーマであるだけに、日本語での報道量のあまりの少なさに驚きました。
過去1年ほど主に欧米での気候変動、気候テック(Climate Tech)と呼ばれる気候変動分野のスタートアップの動向をリサーチしている中で感じるのは、Linkedin等のグローバルなSNSのタイムラインにおいて、多くの人がこの法案成立に歓喜の声を挙げていることです。米国の世界的な文脈での気候変動対策、役割への期待、二酸化炭素排出量の削減、そしてClimate Tech分野への転職、起業も含めた自分のキャリアについて言及している投稿を数多く見かけます(もちろん法案に賛成票を1票も投じなかった共和党支援者は法案に対して批判的な考えを持っている人も多いと思います。こうした米国内の政治的な分裂に対する懸念もまた別の論点としてはあるものの、総じて前向きな論調が今のところ多く見られます)。
2022年の夏を振り返った際、米国における気候変動問題に興味関心を持っている多くの人にとって、この「気候変動法案の成立」というニュースに背中を押される形で、新しい将来のキャリア選択を考える貴重な機会を得ているのではないか、そんな意味があるのではないかと強く感じます。
パンデミックと共に過ごした3年半を経て、「大退職時代」と呼ばれるキャリアの見直しのトレンドがあり、山火事でオレンジ色に染められた空や猛暑、干ばつ、洪水等の異常気象を体験し、気候変動分野に50兆円もの予算が投じられ、新しい産業が誕生、成長する機運や時代精神を感じる人も多いことと思います。Climate Tech分野のベンチャー投資額の増加、スタートアップの数、規模の増大等もこうしたトレンドを加速しています。
一方、日本の文脈においてはそもそもの「インフレ抑制法」の報道もあまり認知されてないこともあり、あまりこのテーマを話題にしている様子をメディアやSNS上で見かけることは限定的という印象を持ってます。
そんな中、一部NewsPicksのようなエッジの効いたメディアにおいては今週1週間の気候テック特集として、詳細に現地の様子、熱気がレポートされてます。ただ、こうした記事は非常に稀で、まだ国内での認知の低さを感じます(気候テック、クライメートテック、Climate Techというような表記のゆらぎもありそうです)。日経新聞でキーワード登録される際にはどのような用語になるのか楽しみにしています。
ここで改めて思うのは、Climate Tech の紹介記事を読んでみても、ダイナミックなキャリア、産業の勃興の様子にワクワク感を感じつつも、紹介されているスタートアップを見た際、水素、農業、代替肉、原子力、炭素除去等、理工系の専門的な知識が時に必要とされる場合が多いことです。アップル、アマゾン、フェイスブック、グーグルのような日々の生活で「体験」できるテクノロジーとは異なるため、「体感」、或いは「自分ごと」しにくいのでは、と感じる人も多いのではないかと思います。また成果が見えるまでに5年、10年、或いはそれ以上の時間を擁する点も、ソフトウェアサービスとは異なる点です。今はまだ黎明期ということもあり、様々なスタートアップの紹介も数行の概要紹介に留められることもあり、具体的にイメージしにくいのでは、とも感じます。
シリコンバレーで働いていたり、テック系の企業で働いている人であれば同僚、友人の多くがClimate Tech分野で起業、転職をするのを間近で目撃し、話を聞く機会も多いと思われます。
今回の米国の気候変動対策法についての議論を眺めながら感じたのは、日本国内においての「気候変動対策」は、「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」というキーワードを用いることで、米国とは異なる形で進められている印象を持ちました。Climate Techスタートアップによる新産業育成分野への注力、というよりは、「トランジション」という考えも含め、水素、アンモニア、CCUS、原発等も組み合わせながらエネルギーの安定供給等に配慮した政策に重きが置かれていることが伺えます。
・月間経団連 座談会記事
・GX実行会議(第1回)*内閣官房ホームページ
日本経済新聞においてもこうした方向性を踏まえ、今年の秋には「NIKKEI GX | Green Transformation」という名前の新メディアがスタートするとのことです(その他にも Nikkei Mobility、 Nikkei Tech Foresight」が誕生)
米国と日本を比べてどちらがよい、という話ではないのですが、「ビジネスパーソンにとってのキャリア」、という視点で考えた際、米国ではClimate Tech分野のスタートアップが転職先として成長、成熟しつつあり、具体的なキャリアパスが描かれるようになっている(参加できる)点が印象的です。Climate Techに特化した人材紹介社、メディア、教育プログラム、ネットワーキングの組織・コミュニティも雨後の筍のように次々と誕生し、カンファレンスも今年の秋にかけて第1回目となるものが数多く生まれてます(Wiredによる「Re:Wired Green」, MIT テクノロジー・レビューによる「ClimateTech」等)
以下の調査結果はClimate Tech分野に既に興味ある人554人を対象にしたものですが、「グリーン人材」「グリーンキャリア」「グリーンリスキリング」の近未来のイメージを垣間見ることができるのではないかと思います。( 調査を実施したのは「Climate People」というClimate Tech に特化したリクルーティング会社)
カンファレンスやイベントについては以下のリストにまとめ、今後も更新予定です。
Climate Curation Event & Conference LIST
URL: https://bit.ly/ClimateCuration_Event_List
2022年の日本の夏を振り返る際、ウクライナ侵攻、インフレ、安倍総理暗殺事件、旧統一教会と政治に関する報道、コロナ第7波、猛暑、異常気象、エネルギー逼迫等、厳しい現実に対応せざるを得ない日々が思い出されます(もちろん、行動制限のない夏休みを楽しんだ方も多いと思いますが🍉⛱️🌅🏞️⛺)。
海の向こうで成立したとはいえ、50兆円規模の『歴史的』米気候変動対策法(歳出歳入法)が持つ意味について、3年後、5年後の脱炭素社会について、自分のキャリアについて、本記事が何か考える小さなきっかけになっていれば、とても嬉しく思います。
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・Climate Curation(日本語): https://socialcompany.substack.com/
・Japan Climate Curation(英語): https://bit.ly/JapanClimateCuration
▶2021年夏以降気候変動・脱炭素・クライメートテックについてCOMEMO記事として公開した記事のリスト(計18本)
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