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ニューカラーワーカーの育成と新たな職業訓練ビジネス

 新たな職を探す上で、大卒以上の学歴が条件となっている仕事は多い。そのために、経済的に無理をしても大学を卒業したほうが将来の投資になる、という考えは間違いではないが、高卒だから「高年収の仕事に就けない」というわけでもない。仕事の価値(年収)は、需給のバランスよって決まるため、これから需要が伸びる職種にいち早く着目して、その道での専門技能を磨くことで、学歴のハンディを乗り越えることは可能だ。

逆に、一般的な大卒者が就くホワイトカラーの仕事は、既に供給過多に陥っており、将来的にも、自動化されたAIシステムに奪われてしまう職種が多くなる。現在の日本では、大卒者と高卒者との間に、40代男性で 約150万円の年収格差があるが、仕事の選び方と専門技能の習得により、高卒者でも大卒ホワイトカラー職を上回ることができる。この背景にあるのは、テクノロジーの急速な進化により、成長産業での人手不足が深刻化していることがある。

米国の求人情報サイト「CareerCast」では、大卒の学位不問で募集されている高年収の仕事として、以下の職業を挙げている。その中には、Web開発や医療系の仕事の他に、産業機械や水道配管の修理作業、電気工事などのブルーカラー職も含まれている。

これから高年収を稼げる条件として、ITの新たなテクノロジーに対応したスキルを備えていることは、従来のホワイトカラー・ブルーカラー、どちらの仕事にも共通した特徴で、米国では、そうしたテクノロジー人材を、「ニューカラーワーカー(New-collar worker)」として育成しようとしている。

【社会人再教育とニューカラーワーカー養成事業】

 テクノロジーの進化で生まれるニューカラーワーカーの担い手は、主に大卒未満の学歴者になるとみられている。近年では、大卒者の割合が高くなっているとはいえ、米国、日本、英国などの先進国でも5~6割が大卒未満の労働者である。 しかも、大卒者と高卒者との間の年収差は大きいことから、企業にとっても高卒者を再教育して、ニューカラーの新たな職域で活用することが賢い。

米国では「コミュニティカレッジ」と呼ばれる2年制の短期大学が、その受け皿になっており、全日制や夜間の通学、またはeラーニングにより、多様な社会人教育が行われている。コミュニティカレッジは、リーズナブルな学費(年間3,000~10,000ドル)で、カリキュラム修了後は、専門科目で「准学士」の資格が取得できるのが、人気の理由になっている。コミュニティカレッジの公的な学位は、職種によっては州が発行するプロライセンスを取得する上でも役立つものになる。

一方、企業もニューカラーワーカー養成機関として、コミュニティカレッジとの提携関係を進めている。IBMでは、コミュニティカレッジとのパートナーシップを強化して、提携校を卒業した学生を数ヶ月間のインターンとして短期採用した後、同社のクラウドコンピューティングやサイバーセキュリティ業務で正式雇用している。コミュニティカレッジへの入学を検討している学生に対しては、どの学校で、どのカリキュラムを選べばIBMへの就職がしやすくなるのかを示す活動も進めている。

【ブルーワーカーからコネクテッドワーカーへ】

従来のブルーワーカーは肉体労働のイメージが強いが、これからはロボットや情報デバイスの活用により、身体への負担を減らし、生産性を高めていくことができるようになる。ブルーワーカーの離職率は、ホワイトカラーと比べても高いため、それを改善する上でも仕事の内容を知的化していく必要がある。

2010年の創業で、拡張現実(AR)の技術開発をする新興企業のAPX Labsは、ARデバイスの用途を模索していたが、製造工場などの産業用にシフトすることで活路を見いだして、2017年には、社名も産業用デバイスに近いイメージの「Upskill」に改めた。

同社が産業用に開発したウェアラブルデバイス「Skylight(スカイライト)」は、スマートメガネのレンズ上に、現場作業のマニュアルや手順書を表示させたり、重要な作業プロセスをビデオで撮影することができる。ライブ映像を通して、遠隔の管理者と共同で作業を行うことや、ミスのチェックをすることも可能だ。具体的な導入例として、航空機エンジンメーカーの GE Aviationでは、Skylightのスマートメガネと、Wi-Fiでデータを無線転送できるトルクレンチとを組み合わせて、ボルトの締め付けを正確に行えるようにしている。

このように、オンラインに常時接続されたデバイスを装着した作業者のことは「コネクテッドワーカー(Connected Worker)」と呼ばれている。企業がウェアラブルデバイスを導入するのは、「作業の生産性を向上」、「従業員の安全や健康を管理する」、「作業中の不正やミスを防ぐ」など、複合的な目的があるが、ホワイトカラーに次いで、ブルーワーカーの仕事にもIT化の波が訪れている。ブルーワーカーとして熟練したスキルを持ち、新テクノロジーのデバイスも使いこなせる人材は不足しているため、従来のホワイトカラー職よりも需要が高まり、高年収の求人案件が多くみつかるようになってきている。

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