「食」という魔法〜あっという間に関係性を変える圧倒的な体験価値
人との深いつながりを作ろうとしたとき、どういう形で会うのかはとても重要です.。会議室で会う、相手の家を訪問する、こちらの家に来てもらう、ランチを食べる、夜ご飯を一緒に食べるなどなど。あなたが本当に相手との良い関係を作ろうと思った時は、いつもどうしていますか。ここでは、ただ食べるを超えた、「食の特別な体験価値」について考えてみたいと思います。
食を通して文化を知る
食は、文化的な壁になることもあります。私も初めての国際会議でインドに行った際に、どのカレーも辛すぎて食べられず困った経験があります。和食も、今となっては世界で愛されていますが、日本に住む外国人で食事に苦労された方も多いでしょう。
次の記事では来日当初は慣れない食事に混乱してばかりだったラミレスさんが、それを乗り越えることを通して、日本文化の理解を深めるきっかけになったことが記されています。ラーメンも最初は「なぜお湯のなかにパスタが入っているのだろう」と思った、というから笑えるエピソードもあります。
先日、福井県小浜市の友人から「なれずし」をいただきました。小浜市は鯖で有名で、京都とは長年にわたり「鯖街道」によって文化的につながっていました。みなさんは、なれずしを食べたことはありますか? なれずしは、「古代ずし」とも言われ、各地の寿司のルーツとされているものです。なれずしを見ただけでも、小浜市の歴史に興味を抱くに違いありません。
いわゆるお寿司のイメージとは違って、鯖が丸ごと入っていてインパクト大です。詳しくは小浜市のホームページをご覧ください。
胃袋外交
テルマエロマエで有名な漫画家のヤマザキマリさんは、絵を学ぶために、17歳のときに単身でイタリアに渡ったそうです。その後、国際結婚をして、エジプト、シリア、ポルトガル、アメリカなどで暮らすなか、異文化で生きのびるための手段として「胃袋外交」をしてきたと言います。
「イタリア語もわからずローマに到着した17歳の少女を待ち受けていたのは、イタリア料理フルコースの洗礼。母の友人で身元引受人のおじいさんが歓迎してくれたので、吐きそうになりながらも残さず食べた」という健気なエピソードも語っています。
ヤマザキさんの話は、ここで終わりません。「どこまで何がしゃべれるかは、料理がおいしいかどうかで変わるんです」と言い、外交がうまくいくかは食事選び次第だと、それも高級かとかではなく、いかに想像力の源泉となるかが大事と指摘します。
食を中心としたワークショップの手応え
2ヶ月ほど前、京都でアリスウォータースさんをゲストに迎えて、ビジネスリーダー向けの二日間のワークショップを開きました。次の記事で取り上げてくださっているのは、そのプログラムの一場面です。
この二日間が主催した私たちから見ても、あまりに素晴らしかったのですが、それは「忘れられない食体験の共有」がもたらすパワーによるものだったと思います。
「大企業によるスローフード文化の実現」という非常に難しいテーマだったのですが、「答えがすぐに出なくても私たちは挑み続ける」というスローリーダーシップが生まれました。このような社会的な意義を持つ、強い意志で結ばれた企業横断の集団が、社会を変える原動力になるのだと心から実感した場でした。
このような関係性が二日間で生まれ、それが継続するのは、食の圧倒的な体験価値があったからだという確信があります。それもただ食事をするというだけでは会話の中身に集中してしまい、体験価値をここまで活用できなかったと思います。食をテーマに学び合うことで、食の無限の可能性にタッチできたのだと思います。
食はまさに、人と人との関係性を変え、さらには自身の価値観をシフトさせる、そんな無限のパワーを持つ魔法です。
これから探求していきたいことは、企業の組織開発など、直接的に食とは関係のないテーマに、食の魔法を取り入れることです。食を主役にしたセッションを通じて関係性の進化を起こし、結果的に食以外のテーマでブレークスルーを起こす、というものを作り上げたいと思っています。そうすれば、各地域の食文化が、企業にとっての新事業開発やイノベーションを支援することになります。
食を通じて、いかに組織や地域を変えるプロセスが描けるか、一緒に探求していきませんか。それが、結果的に各地域の食文化を守ることに通じるはずですから。